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Feature of the month '06.Jun

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「ヨロヨロン 束芋」展 フラクタル幾何学図形の奥に

「ヨロヨロン 束芋」展@原美術館/開催中(8/27まで)
東京都品川区北品川4-7-25
http://www.haramuseum.or.jp

 二十三歳の時に、卒業制作の「にっぽんの台所」が名のある賞を授賞し、二十六歳で母校の大学教員に大抜擢、横浜トリエンナーレ2001では最年少作家としてエントリーをはたした束芋(たばいも)は、若くして成功をつかんだ、人気の日本人アーティストだ。手描きの線画を編集したアニメーションを映像インスタレーションとして見せる代表作は、自殺や犯罪、リストラなど、不穏な日本社会の暗部に触れる、ブラック・ユーモアあふれる逸品ばかりだ。「にっぽんの」とあえて銘打ち、日本家屋や銭湯、通勤電車など、ごく普通の日常をてらいなくテーマに取り上げる姿勢は、欧米の影響が色濃い日本のアートシーンでは、やけに潔く、つきぬけたものに映った。
 そんな彼女の過去最大規模の個展が開催されている。どれもすばらしいが、必見は新作の「真夜中の海」だ。床に投影したアニメを、二階の踊り場から見下ろすという意外な趣向。生き物のように艶めかしく押し寄せる波と、間に見え隠れするグロテスクな臓器や髪の毛。深層心理の奥深くに分け入る、触感的な作品だ。どちらかというと演劇的だったこれまでとは違う抽象的構造は、学生時代から気になっていたフラクタル幾何学図形がキイになっているという。「木を拡大していくと葉があって、さらに拡大すると葉脈があるというように、自然物を拡大していっても同じ図形が現れるという話を聞き、不思議な気がしていたんです。それならすべてがフラクタル幾何学で比喩できるんじゃないか、全部が同じ関係性のもとで生きているんじゃないかと思えて」。波は皮膚の皺を暗喩する。負の要素をプラスに変える日本古来の考え方や、善悪ではわりきれない思いも、結果として様々なイメージをひとつに共存させた。二〇〇二年にイギリスに滞在したことも、「これまでのように、はっきりとは言い切れない」作品が生まれてきたきっかけだったようだ。
 三面に投影させた映像が、ぐるりと視点移動するのが驚異的な「公衆便女」、暗闇のスクリーンに浮かぶ「ギニョラマ」といった新作のほか、「命を吹き込んでいくように一コマ一コマ描いた」原画の展示も大きな見所。さらに頭一つ抜けた感のある、今の束芋の宇宙を堪能できる展覧会だ。(宮村周子)
by switch-art | 2006-06-19 00:05




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