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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。
2010年 12月 11日 ( 1 )
「終着駅」
トルストイと言えば「戦争と平和」。
だが、あの大作を読み終えた人はどのくらいいるだろうか。
昔、米川正夫が翻訳を出し始めた頃、僕は次の巻が待ち遠しく、読みふけったものである。
ロシヤの宮廷と平原に繰り広げられる壮大な叙事詩。トルストイの歴史観。
作品のディテールは覚えていないが、夢中で引きずり込まれた興奮だけは懐かしく思い出す。

また、彼の思想が日本でももてはやされ、とりわけ白樺派の人たちに多大な影響を与え、徳富蘇峰が訪ねたということも聞かされていた。
そしてまた、彼の妻ソフィーは、モーツァルトのコンスタンチン、ソクラテスのクサンチッペと並んで、三代悪妻と呼ばれていたことも。
そして最後は悪妻から逃れるために家出して、田舎の鉄道駅で病死したことも。
ちなみに僕が偉くなれなかったのは、お前が悪妻でなかった為だ、と配偶者に責任を転嫁することにしているがそれは余談である。

だが、映画「終着駅」は、トルストイを含め関係者の日記に基づいて、新しいトルストイ像、そしてソフィア像を見事に描き出す。
一言でいえば、トルストイも人の子。理想と現実のはざまで揺れ動く矛盾だらけの男である。
彼の思想が独り歩きし、共鳴する者たちの集まりが肥大化し、当人の手に負えない運動にまで発展する。
自縄自縛となった彼は、著作権を放棄してその運動に捧げる。
だが、ソフィーはまっとうな主婦である。家族の幸せを守るため、夫を政治的に利用しようとする取り巻きと闘う。
その葛藤に疲れ切ったトルストイはついに家から逃げ出して、客死する。
辿りついた田舎の終着駅は彼の人生の終着駅でもあった。
「終着駅」_b0084241_1751787.jpg

映画を見ながら僕は不遜にも、亡くなった両親を思い出した。
そのスケールと社会的なインパクトは比べ物にならないが、本質的には同じ不幸な晩年をたどったからである。
84歳で世田谷のクリニックをたたみ、熱海に引退してから、父は健康法に凝り、やがてそれを世に広めることを使命と信じ、90歳近くになってから、続々と著書を出版し、日本中を講演して回る。
一度僕もマリオンの講演会に出席したが、信奉者で満杯になり、立ち見も出る盛況だった。彼らが一斉に、親父の呼吸法を実行する様は異様でもあった。

母はそれが不満だった。夫が外出がちになっただけでなく、信者が家まで押し寄せるからである。
“年をとったら、お父さんと昔の話を懐かしく語り合って、静かに暮すつもりだったのに・・・”と言い続けた。
そして亀裂は深くなり、ついに食事も一緒にはしなくなった。
やがて、家庭内別居の後、施設に入っても離れて暮し、晩年は言葉も交わさぬまま、別々に天に召されていった。

今お二人はどうされていることか。
彼岸が“恩讐の彼方“であることをひたすら祈るだけである。
by n_shioya | 2010-12-11 17:51 | コーヒーブレーク | Comments(6)




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