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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
今、伊集院静の「羊の目」という本に取り付いている。
何かヤクザの話というので、いささか危ぶんでいたが、さすが伊集院。出だしの戦前のヤクザの抗争、浅草の雷門の場面から引きずりこまれてしまった。 まだ、三分の一も読んでないので、本の感想は読了後に回すとして、ヤクザの世界があまりにもリアルに描かれていて、はからずも僕は日本の大学病院の医局を思い出してしまった。 ヤクザの世界と医局制度は体質的にも、運営面でも酷似している。 教授はオールマイティで、いったん入局したら絶対服従を誓わされる。しかも将来の就職から、結婚といった私生活まで、死ぬまで教室の方針には逆らえない。教授の意に反したら、指を詰めるぐらいでは済まず、国内での医師としての生命は絶たれてしまう点、ヤクザの世界より厳しいかもしれない。 そしてヤクザのシマと同じに、各医局には関連病院というテリトリーがある。 この縄張り争いも、本物の血が流れないだけで、ヤクザ並みに壮絶か、むしろ仁義なき戦いという点では、ヤクザに劣るかもしれない。 医学部を出て留学する際、ぼくは木本組ではない、木本外科に草鞋を脱いだ そのころ木本教授は女子医大の榊原教授と並んで、日本の心臓外科の草分けだった。 その一と月後アメリカにわたり、八年たって帰国した僕は、先ず教授室を訪れ木本教授に帰国のご挨拶とわがままをお許しくださった御礼のべた。 入局してすぐ自分の意思で留学するなど前例もなく、医局のしきたりを無視した行動だったからである。 木本教授は言われた。 “ご苦労だった。 細かいことは医局長の指示に従ってほしいが、二つだけ私から君に言っておこう。 まず、アメリカでは話をする際に、教授が立っていて、弟子が座っていることがあるそうだが、日本ではそういうことはない。 二つ目に、これが大事だが、アメリカでは教授が間違ったときに弟子が指摘することもあるそうだが、日本では絶対にあり得ないことだからな。” 今の若い医師はあきれるかもしれないが、その時の僕は、村の掟を知らないアメリカ帰りのためを思っての親切な忠告と感謝した。 ちなみに木本教授は大変紳士的な方で、医局の決めは決めとして、決して理不尽なことをご自分では言ったりされたりする方ではなかった。 しばらくしてドイツから僕の友人の医師が東大を訪れた。 附属病院や医局を一通り見終わると彼は“すばらしい!”と感嘆の声を上げた。その後がいけない。 “まるで百年前のドイツの医学部を見るようだ。”と。 そう、百年前、我が国は当時先端を行っていたはずのドイツ医学を輸入した、その教授オールマイティの権威主義とともに。 戦後ドイツは医学界の頂点から滑り落ち、その権威主義も崩壊したが、わが国では軍部は崩壊したが、医学界にはまだ、「白い巨塔」が厳然と存在していた。 これに対して青年医師連合(いわゆる青医連)が結成され、さらに全国的な学園紛争に発展し、安田砦の攻防戦で終焉を迎えるようになったのは、このすぐ後のことであった。 これを話し出すと、一冊の本になってしまうが、今の医療崩壊の原点、また改革のチャンスはここにあったので、別の機会に譲る。 一言だけ付け加えれば、あの時うやむやな形で医局制度と研修制度が元の鞘に収まったのが、今日の惨状を招いたとも言える。
by n_shioya
| 2008-11-15 21:41
| 医療崩壊
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Comments(8)
![]() ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
すご~い!! これは過去形ですか? 現在進行形ですか? こういう世界で苦労してきたのに いつもニコニコして ヒョウーヒョウーとして モダンでアメリカンな先生が素敵!普通の方なら いかめしい恐い顔のお医者様になってるのに…先生は 昔から まるで爽やかな風のようです。あ!NYのNobiはだから風が好きなのかな?すごい発見!とすると…先生の奥様は風を操る美人の風神? byアヤメ
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麻薬を違法で売るのがヤクザ、合法で売るのが医者。冗談ですが、医療は国民全員に保障されなければならない必要最低限のものはず。しかし現在は金がなければ治療もできない。アメリカは医者と保険会社が結託し、へたすると治るどころか早く死ぬ薬を処方しかねないのが現実。これはある意味ヤクザ以上ではないでしょうか?
t&J さん:
コメントありがとうございます。 人には二つのタイプがあるようです。 慎重に先を見極めて、一歩一歩進むタイプと、前後の見境なく飛び込んでしまうのとl。 僕はどちらかというと後者のタイプなので、あまりお役にたてるアドバイスはできませんが、僕の経験ならお話しできると思いますので、メールいたします。
aseamoonさん:
今になると、色々と経験をさせてもらったものだと感謝しています。
vicoprofenさん:
医師免許は殺しのライセンスではないかと、本気で考えさせられることがあります。 特に美容外科にかかわる悪徳医師の群れを見ると。 今の介護保険や、医療制度の理念なきリストラも、合法的な弱者切り捨てと姥捨て山には違いありません。
ぜひ一冊の本にしてください!
icelandiaさん:
はい、がんばります。
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![]() 塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日) 以前の記事
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