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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。
両下肢切断
昨日インターン時代のことを書いたせいか、半世紀前の留学生活のことがあれこれ思いだされてくる。

たった8年間のアメリカ生活である。もうそれからその5、6倍の年月がたっているのに、それよりもはるかに長く感ぜられるのは、年をとると時の進みが加速されるからか、それともその8年が一番充実した時期だったからだろうか。
アメリカに残された唯一の奴隷制度と言われた過酷な研修期間だったが、新鮮な刺激に満ちた毎日であった。
いろいろな患者との出会いもあった。
中でも一番印象に残ったのは、僕が両足を切断した、ターナー氏である。

元空軍パイロットのターナー氏は、動脈硬化による両下腿の壊疽で、両足とも膝の上で切断を余儀なくされた。
手術はチーフレジデントの僕が執刀し、70歳の高齢にもかかわらず、幸い回復は順調だった。
さすが元空軍将校だけあって、筋骨はがっちりしていた。

当然ながら義肢が必要となる。本人もそれを切望した。
このような場合アメリカの病院では、外科のほかに整形外科、リハビリ、看護部など関連各科が集まり、方針を討議する。義肢は整形、リハビリの分野である。
このようなカンファランスでは、各人が闊達に自分の意見を言う。
整形外科の部長はもう定年間近のせいか退嬰的で、何についても消極的であり、この時も高齢を理由に、両足の義肢はかえって危険を伴うと反対した。
その時である。もっと若い外科部長から雷が落ちた。
“本人がそれだけ自立する意欲があるのに、それを助けようとしないのは、あんたはそれでも医者か!”
このような場では、相手のメンツよりも患者のための正論が優先する。
年かさの整形外科部長は顔をしかめて、リハビリの担当者に対応を命じた。

立派に完成した義肢を装着し、リハビリ訓練も完了したところで、ターナー氏はバーモントの自宅に無事戻った。

数カ月して、我々夫婦はターナー氏に招待を受け、バーモントの山間の自宅を訪問した。
両下肢に義肢を付けたターナー氏は、時には車いすを使い、時には松葉づえを操りながら、家じゅうを自由に動き回る。
食後、我々を見送りがてら外に出た氏は、愛車を見せてくれた。
フォルクスワーゲンを改造して、足を使わず両手だけで操作できるようになっている。
一人で器用に飛び乗って、エンジンをスタートさせ、我々を街道筋まで送ってくれた。
医者が病気を治すのではない、我々にできるのは患者本人の治癒能力をさまたげず、その生きる力を後押しすることだけだと、深く感じさせられた一日だった。
by n_shioya | 2008-11-13 17:18 | 手術 | Comments(9)
Commented by icelandia at 2008-11-13 19:12
重みのある逸話ですね。ターナー夫妻の努力と、感謝の心が伝わります。もちろん、治療に当たったチームの心意気も。きっとその後も毎日感謝の気持ちを忘れず、充実した日々をお過ごしになったことでしょう。うわぁ〜ん、泣けてきます。
Commented by アヤメ at 2008-11-14 00:18 x
すごくいいお話!本当にそう思います。私の現場の朝のチームミーティングでも 患者のフアィルを見ながら 昨日の様子を看護師さんに聞きながら チーム医療なので みんな ガンガン!意見を言います。そういう時は上下関係ないですね。インターンの意見も求められます。最新の情報を聞くのも大事だからそうです。お互いの専門を尊敬している上でのディスカッションです。そして 毎日毎日「患者第一!」と言われています。日本はどうですか?
Commented by きのこ組 at 2008-11-14 02:50 x
生きる力の後押しも、死ぬ権利の尊重もできる。。。
やっぱりお医者様って、神に近いんでしょうか。
神に近い方々は、まずhumamityを磨いていただきたいと
思います。
Commented by valkyries at 2008-11-14 09:05 x
先生、いい話ですねー。
昨夜の読売新聞夕刊に池坊由紀さんが「挑戦し 輝き続ける」というコラムを書いています。
その中で91才のNY在住の日本人華道家の例を挙げ、「輝くということは外からスポットを当ててもらうのではなく、自らが発熱体・発光体になることだ」「彼女達は年という概念すらどこかに吹き飛んでいる」としています。今朝のターナー夫妻のお話とだぶりました。
私も頑張らなきゃ・・・Yes, we can!
Commented by n_shioya at 2008-11-14 21:47
icelandiaさん:
最近問題になっている緊急を要する患者のタライ回しや、死亡事故は、理由はともあれ絶対にあってはならないと思います。
医療崩壊の一端には違いありませんが、他の問題とはたちが違います。
いったんはまず受け入れて医師が応急対応し、そのあとで対処法を考えることは、その気になればできるはず、というのは現場を知らぬ者の寝言でしょうか。
Commented by n_shioya at 2008-11-14 21:49
アヤメ さん:
アメリカでは教授の間違いを指摘すると、その学生の株は上がったものでした。だから教えるほうも真剣勝負でした。
日本ではまだまだそこまで行けませんね。
Commented by n_shioya at 2008-11-14 21:51
きのこ組さん:
医師の務めとは何か?ヒポクラテスの誓いは時代を超えて生き続けていると思います。
Commented by n_shioya at 2008-11-14 21:56
valkyries さん:
お久しぶりです。お元気ですか。
12月初めに、知人の見舞いをかねて、花脊の美山荘に行こうかと思ってます。
Commented by valkyries at 2008-11-15 23:25 x
先生、宜しければお送りしますよ。お申し付けください。
12月の花背か・・・スタッドレスを履くべきか履かざるべきか、微妙な時期ですね。私のアウディはクワトロではないので。


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