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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
医療もファッションと似たところがある。
女性のスカート丈と同じように、あるサイクルで上がったり下がったり、流行り廃りがあるからだ。 ファッションと違うのは、10年から20年と多少サイクルが長いのと、医者は女性ほど時流に敏感でないというか勉強家でないので、全員いっせいに其の時の流行になびくと言うわけでもない。 だが、一つの問題はそのために医師によって流行のサイクルのずれがあり、複数の医師の意見が同時期でも食い違いを生じ、患者が、いや医師でも専門外のことに関しては、複数の意見を聞けば聞くほどわけが分からなくなることがあるのはこのためである。 勿論学問の進展に応じて、異なった見解が生まれなければ進歩はないが、とかく新しい治療法が生まれると、皆それに飛びついて、何にでもそれが使われ、やがて其の弊害も分かり、いわば振り子の触れすぎと揺り戻しと言った面もあるだろう。 ま、そのように行きつ戻りつしながら、登山電車のスウィッチバックのように、徐々に頂上に近づいてくれればいいのだが。 この混乱の一つが傷の消毒の是非である。 そもそもリスターが19世紀に石炭酸による消毒法を提唱して、手術後の感染や産褥熱は劇的に減少した だがそれが行き過ぎてヤケドのキズにも乱用され、ヤケドをかえって深くし、死亡率が高まった時期がある。 其の反省で消毒剤の使用にブレーキがかかり、最近では通常の傷は水で機械的に洗浄するのがベストと言われれるようになった。 ヨードチンキなど、人体の正常細胞に障害を与えるのでとんでもないと言うわけだ。 だが最近では、皮膚や創面は完全に無菌と言うことはありえないので、多少の制菌作用(菌の繁殖を抑える)は必要だと言われ始めた。 そこで見直されたのが銀イオンの制菌作用である。 銀イオンは細菌を殺すが、人体に組織障害は与えない。其の特性を利用した製品も色々現れてきた。 ならばヨードだって、上手く加工すれば殺菌作用を残して、生体には優しいものも可能ではないか、と議論はまた、菌を殺すほうへと後戻りして行くように見える。 ただ、決して石炭酸時代に後ずさりしているのではない。 石炭酸を否定して消毒剤駆逐に振り子は振れたが、今また揺り戻しが来て振り子が反対に行こうとする、が、そうはいっても石炭酸のレベルにもどるのではなく、其の上を行く、遥かに優れたレベルの制菌法へと振り子は向かっていると考えたい。 昨日、今日の褥瘡学会でのホットな話題の一つが細菌感染の問題で、両極端の意見がぶつかり合い、僕の頭も振り子のようにあっちに振れたり、こっちに戻ったり、今振り子のように揺れ動いている。
by n_shioya
| 2008-08-30 23:20
| キズのケア
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Comments(4)
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icelandia at 2008-08-31 01:33
なるほど、(消毒薬か水洗いか)どちらがいいのかよく分からない理由が、よーく分かりました。お医者さまの間でもコンセンサスがとれていないのに、素人の私に決定打があるわけがない。せいぜい自己満足の範囲できれいにして、バンドエイドを貼った上から手をあてて、「早くよくなりますように」と祈るしかない、と。でも、それが手当て、なわけ?
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n_shioya at 2008-08-31 08:43
icelandiaさん:
学生時代まず教わるのは、“薬は毒”だと言うことです。つまり効果のあるものは副作用がある。そこで対象疾患と患者の状態に応じて涼を加減する。”匙加減”とはまさにうまいことを言ったものですね。 生体自身の持つ治癒能力を尊重する立場からは、疑わしければ余計なことは控えておくと言うのも一つの考えでしょう。 リスクとベネフィットを秤にかけて、リスクより遥かにベネフィットが上回ると思えるとき、治療に踏み切るのが原則と言えます。
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icelandia at 2008-08-31 15:05
名医の極意をかみ砕いた言葉で教えていただき有り難う御座います!とってもよくわかります。日常のケガや火傷程度なら、その考えに基づけば素人でも適切に対処できますね。で、自分で判断がつかない場合は専門家(=医師)にご相談すべし、と。なるほど〜〜です。結果的には当たり前のことかもしれませんが、そういう考え方だったとは知りませんでした。勉強になります!
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aseamoon at 2008-08-31 17:13
先生! 私はSPECT Scanについて 沢山質問があるのです。その画像を使って 脳の血流を見て精神病の診断と治療をする訓練をDr.Amenのところで受けましたが まさに SPECT Scanのリスクとベネフィットについて 日本に帰国した折に もしお会いできたら お話を お伺いしたいのです。
アヤメ
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塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
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