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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。
冬の旅
一昨夜はN響の定期演奏で、モーツアルトの夕べを堪能した。指揮とオーボエは、もとベルリンフィルの首席オーボエ奏者、シュレンベルガーである。
曲はセレナード10番歌劇イドメネオ、そして交響曲40番ト短調である。
ベルリンフィル風というか、カラヤン張りのメリハリの利いた明快な演奏だった。

自分は人が青春時代をベートーベンの運命とともに生きたか、またはモーツアルトのト短調とともに歩んだかで、区分けすることにしている、といったのは剣豪小説家、五味康祐だったと思う。

運命の戸”を叩くダダダダーンという響きは重すぎ、かといってモーツアルトの“死と隣り合わせな”甘美なメロディーにも無条件で陶酔できなかった僕は、若い頃はシューベルトの歌曲に“隠れ家”を見出した。

戦前からのゲルハルト・ヒュッシュ、エレナ・ゲルハルト、ロッテ・レーマン、エリザベート・シュワルツコップ。そして勿論近年ではディートリッヒ・フィッシャー・ディスカウとペーター・シュライヤー。
彼らの歌い出すシューベルトの世界こそ、「汝れこそわが憩い」であった。

三大歌曲集、そしてあまたの歌曲。どれも珠玉としか言いよう無いが、唯一つをと言われれば僕は迷わずに「水の上に歌える」を挙げるだろう。
戦前の78回転のシェラック盤から流れ出るエレナ・ゲルハルトのメロディーはまさに天上の歌声であった。

LP盤以前の78回転のレコードは、一面の曲の長さが3分から5分ほどしかなかった。
ちょうどマッチ売りの少女が、マッチ一本が燃え尽きるまでの数分間を、繰り返しては暖を取ったように、細い鋼鉄のレコード針がシェラック盤から引き出してくるわずか数分のシューベルトの世界に、僕は繰り返し浸ったものである。

シューベルトの歌曲は一つ一つがそれぞれの小世界を描き出す。

三大歌曲集でも、「白鳥の歌」はハイネの詩集「帰郷」からの歌詞を多く含む遺作集だが、「美しき水車小屋の娘」と「冬の旅」はともにミュラーによる一連の青春の挽歌だ。
だが前者では、主人公は死によって安らぎを得るが、後者では墓場にも安住の地を見出せず、最後は琴引きの老人と救いの無い旅を続けることで終わる。
シューベルトはこの曲を書きながら、涙を流し続けていたという。暗い、暗い、だが名曲である。これを聴いた後では、人の心は元には戻れない。

そして僕は何時の頃からか五味康祐の顰に倣い、「冬の旅」を知っているかどうかで、人を区分けするようになってしまった。
by n_shioya | 2008-02-23 23:25 | QOL | Comments(4)
Commented by valkyries at 2008-02-24 11:46 x
先生、たまたまモーツアルトの40番を聞きながらパソコンを開けていたので、びっくりしました。偶然ですね。
死と隣り合わせな甘美な・・・というコメントは先生の解釈ですか?ものすごく的確な表現だと思います。
シューベルトのピアノ五重奏曲「ます」は、私たち群馬県出身の高校生にとって特別な意味のある曲です。地元のテレビ局が大学受験合格者を学校ごとに実名で発表する番組があり、我々の名前が延々と字幕で流れる中、BGMが「ます」だったのです。個人情報保護にうるさい現代では考えられない企画ですね。
Commented at 2008-02-24 17:19 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by n_shioya at 2008-02-24 22:32
valkyriesさん:
偶然ではないかもしれないですよ、オカルト的な意味ではなく。
ジャック・モノーというフランスのノーベル生物学者が、“偶然と必然”という著書の中で、偶然の集積が必然を生み出していくといったようなことを言っているのを覚えてます。
Commented by n_shioya at 2008-02-24 22:38
山地さん:
何時もありがとうございます。
皆様のコメントが一番の励みになります。


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