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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。
神の手とは?
神の手“という言葉が流行っている。
手術の名手”を誇張した言い方だろうが、いかにもマスコミ好みのキャッチワードで正直言ってあまり好きでない。

今日も美女軍団の一人に聞かれた“先生、神の手ってほんとうにあるんですか?”
むむ、と返答に窮した。
ないよ、といえば己が神の手を持ってないことの僻みととられそうだし、あるといえば、マスコミの軽薄なセンセーショナリズムに迎合することになる。

確かに外科医にも上手い下手はある。だが何を持って上手いとするか、その評価基準はまちまちである。

一口に手術といってもそれぞれで目的が違う。
緊急を要する救命の手術なら、命が助かること。たとえばくも膜下出血や盲腸炎の手術。
癌の手術では、当然ながら病巣を完全に取りきって再発を防止すること。
だが、整形外科のように機能回復が目的なら、たとえば関節なりが動くようになること。
これが形成外科となると、顔かたちが本人の希望通りに復元されること。
美容外科はもっと難しい。本人の変身願望をかなえて、コンプレックスを解消すること。
いずれの場合も目的を達成し、かつ後遺症はゼロか最小限に抑えること。
つまりは結果がすべてであって、テレビ写りのよい手さばきの鮮やかさとか、執刀時間の驚異的な短さなどは、同じ結果を生むならばという二次的な評価対象に過ぎない。

これはひとえに麻酔の発達のおかげでもある。
今の麻酔の危険性は導入覚醒時にあり、持続時間はあまり関係ないから、大動脈瘤の破裂のように、寸秒を争う場合を除いて、落ち着いて手術ができるようになったからである。

手さばきにしても、せかせか忙しいのがよいわけではない。糸結びのような簡単な操作でも、焦って2回3回とやり直すよりも、丁寧に一回で済ませたほうが時間も節約になる。
一番よくないのは、あっちをいじったり、こっちをいじったりもたもたが続く手術である。時間を取るだけで、結果も思わしくないことが多い。ただこういうときは当の本人も何をやっているのかわからないことが多いので、やむをえない??

また、よくハンドルを握ると人格が変わる人がいるが、メスを持つと人格が変わるというか本性が出てしまうようだ。

そのため、手術の上手下手を一番よく知っているのは麻酔医である、術中に露呈される人物像を含め。
麻酔医はいろいろな人いのろいろな手術にいつも立ち会わされるからである。
医学部で外科系の教授選のとき、当該候補者の勤務先の大学の麻酔科教授に、そっと評価をお伺いすることがしばしばあるのはそのためである。

前置きが長くなったが結論を言おう。
僕は“神の手”は誤解を招く表現だと思うし、また“神の手”をまねることもない。
それよりも、外科医が目指すべきは、“神の意思”に従って患者のために動くような手を目指すべきと思う。
この場合、指先以上に大事なのは、神の意思を戴した“判断力”である。
これこそが外科医の真骨頂と言うべきであろう。
by n_shioya | 2008-01-11 20:54 | 手術 | Comments(9)
Commented by Doc.K その1 at 2008-01-13 22:22 x
医療分野での‘神の手’はマスコミが作ったとんでもない譬え。先生の文中にすべてが語られていて今更申し上げることはないのですが、手術の達人は居ますよね。私の知っている達人たちは、自分の持ち合わせていた良質なセンス(才能?)に加え、厳しい研鑽を積み重ねようやく達人の域に到達たように感じます。その方々を、‘神の手’の持ち主とは失礼で到底言うことは出来ません。
 
Commented by Doc.K その2 at 2008-01-13 22:23 x
43年ほど前に、警察病院の大森先生に聞いた話を思い出します。「手術のうまい・へた、外科医向き・不向きというのはあるのですか?」という医学生だった私の質問に大森副院長は答えてくれました。A先生は、手術が下手で、出来上がりも悪い、「形成外科医は諦めてはどうか」と言ったところ、「いや先生もうしばらく自分に時間をください、がんばってみます」と返答してきた。そして彼は確かに頑張った。2年(?)もしたら、とても立派な形成外科医になった。器用でないと思っていた彼が、自分の思う以上に成長したので、努力はセンスを上回る(かもしれない)ということを知った。[( )内は記憶がさだかでない部分]
A先生は少しの良質のセンスに加え、多大の努力で達人になられた。これが外科医の見習うべき姿だと思います。 と言う私は、日ごと内口径2~3mmの透析用の穿刺針をpatientsに刺していて、時折「先生の刺し方は痛くない、なぜほかの方とは違うの」と言われて、なんとなくほくそ笑んでしまう全くの凡人の医師であります。
Commented by n_shioya at 2008-01-14 21:47
Dr.K
形成外科医に器用さは必要かどうか。
僕なりの考えがありますので、近日中にアップいたします。
Commented by 小倉悠加 at 2008-01-14 23:05 x
神の手という呼び方は、その医師に対して迷惑なのではといつも感じます。そのようにマスコミから煽り立てられても手術の腕が上がるわけではなく、呼び名に振り回される時間があれば、それを研究に費やし、ひとりでも多くの患者を救いたいと願われることでしょう。「神業」の方が表現としては好きです。手術しなければならないような事態に陥ったら、そりゃぁ神の手を言われている方にお願いしたいのは当然ですよね。
広告業界に基準があり、「世界一」とか「日本一」という表現がダメなのように、医師会か何かから、一誤解を招くので「神の手」は避けて欲しいという要望を出してはいかがでしょうか。「名医」で充分かと思います。
Commented by n_shioya at 2008-01-15 08:13
確かに神業のほうが適切ですね。
マスコミは虚像をつくり上げるのを転職と思っているのは、視聴率を高めるためとはいえ、困ったものです。
Commented by Doc.K at 2008-01-15 09:57 x
作り上げられたイメージが、虚像であるか否かの判断をその場で下すことが困難なことが多い。時が経つと実像が分かり、あっと思う時にはもう遅い。 1/6,1/7のブログは皆に読んでいただきたいですね。
Commented by Doc.K at 2008-01-15 15:32 x
ブルマンを飲みながら(可能ならサイフォン式コーヒーメーカーで煎れた)、テラスレストランの窓際でしばしご一緒したいですね。私にはopeでは神業というのも不適切語と思えるのです。
Commented by 小倉悠加@ICELANDia at 2008-01-15 20:23 x
Doc.K、そこらへんが素人との違いなんでしょうね。素人は正直何もわかりません。特に風邪と腹痛程度しか病気を経験したことがないと、オペって空の雲の如くよく分からない世界です(って、一度だけ緊急手術になったことがありましたが)。従って、よく内情を知る人が「神業」といえば、ははぁそうなんだと思うし、「下手」と評価すれば、そんなもんかと思います。要は自分で基準を持っていないところ(持ち得ないところ)が問題なのでしょう。
Commented by Doc.K at 2008-01-16 15:10 x
よく内情を知る人は決して神業(的手術、的医療)とは言いません。例えば、リーダーにone stroke遅れていたTiger Woodsが、深いバンカーにがっちりガードされた最終ホールで、極上のロブショットでピン30cmに寄せバーディーをとって優勝をした。この場合は、皆はあのロブショットは,Tigerのみ出来る神業だと感嘆する。でも、多くの人は、Tigerでさえ同じようにもう一度できるとは信じていない。神業とは再現性が100%でなくても、良いよという場合に使える言葉だと思えるのです。


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