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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
外科医のレーゾン・デートル(存在意義)は“切る”ことにある。
患者にメスを入れるという具体的な行為だけでなく、ゴールを定めたら余計なものはすべて切り捨て、最短距離で目的地に到達するよう習慣づけられている。 内科医は反対に、各段階を慎重に検討し、その積み上げの先にゴールが生まれてくる。 これは善し悪しの問題でなく、両者の本質的な差ともいえる。 昔、医学部の頃僕はお茶を習っていた。 官休庵、又の名は武者小路千家である。 お弟子さんはほとんどがお嬢さん方、男は通常僕一人だった。 “お目がお肥えになってよろしいでしょう”と女性の内弟子にからかわれながらも、毎土曜、大学の裏のお屋敷に通っていた。年に数回、京都から若宗匠が出げいこにお見えになった。 お弟子さんの中に、時折姿を現す医師が居た。九段で開業しておられる荒川先生という痔の専門家である。 “将来は何科に進まれるおつもり?”ある日突然聞かれた。 “いや、何科というより、消化器でも、神経でもいいが、一つの臓器で内科外科を統合した治療を一人の医師が試みるのは如何でしょう。” そのころ獏と考えていたことを口にした。 “そりゃ、あきまへんわ。”と一蹴された。 “何故?” “外科医と内科医では気風(キップ)が違いますわな。” と、議論の余地はなさそうだった。 その後自分が外科の道を選んで、荒川先生の言われることがよくわかった。 内科医のようにデレ、デレ頭の中でこねくり回すより、スパッとメスを入れて病巣をえぐり出す方がはるかに性にあっていたからである。 だが最近では、メスの代わりに内視鏡や腹腔鏡更にはカテーテルを用いた、低侵襲の手法が開発された。これは操作に熟練を要し、時間はかかるが回復が早いからである。正直、僕には向いてないが、患者には福音である。 そして今美容外科医の立場は複雑である。 レーザー、ボトックス、ケミカル―ピール等、メスを使わぬいわゆる非侵襲性の手法が人気を呼び、そちらに走る美容外科医が急増したからである。 勿論患者としてはメスは避けたい。たとえ効果が薄く、一時的なものでも、痛みや傷跡を残さない方がありがたいのはよくわかる。 いずれ医学が進歩して、メスが不要になる時がくるかもしれない。 だが、今はまだメスでなければ解決できない問題は多々ある。 安易にメスを捨てず、いかに、安全に、侵襲を少なく、傷跡を残さずに効果を上げられるか、真剣に検討するのも、外科医の務めではなかろうか。
by n_shioya
| 2013-12-01 18:24
| 手術
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塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
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