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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
![]() マリアはそっと打ち明けた。“あたしいつも不思議だったの、鼻がどう向き合うのかしらって” ヘミングウェーの長編「誰がために鐘はなる」の第七章で、マリアはロバート・ジョーダンと生まれて初めてのキスを交わし、ぎこちなさを弁明したくだりである。映画では、バーグマンとクーパーが形のよい鼻をすっと交差させた。 最近、デジタルのDVDの復刻版が出たので、まだの方は是非ご覧ください。 ところで今日は医師として、「接吻の力学」を分析してみたい。 まずは「解剖学」。 口紅を塗る部分は赤唇部と呼び、その周りを「口輪筋」がリング状に取り巻き、それを吊り上げる筋肉や引き下げる筋肉がくっつき、唇の動きを複雑かつデリケートなものにしている。 これらを動かしているのが「顔面神経」。耳の後ろから前方へ走り、耳下腺の中で広げた手のように枝分かれして、その何本かが唇に入る。 この細いケーブルを通じて大脳から指令が送られ、「口輪筋」たちはキスをし、モロモロ?を吸い、言葉も形成する。 ちなみにアメリカ人は、普通の会話でも「口輪筋」を縦横無尽に使いまくる。表情を殺した日本人にヤンキー口調が板につかないのは、一つはそのためである。 解剖はこのくらいにして、キスの効用に移ろう。 まず、「政治的キス」。例えば各国の首脳が空港などで交わす類のもので、「偽善的キス」と呼んでもいいだろう。 また、マフィアが裏切り者に引導を渡す“死のキス”などという、物騒なものもある。 だが、本命は男女の愛情の交換にあることは言うも野暮ということ。 この舌も交えての奥深さに関しては、昨今、渡辺淳一先生がポルノ作家顔負けなほど、執拗に追及されている。 しかし日本に生まれ育って一番ぎこちなく感じるのは、「社交的キス」のTPOではなかろうか。 ちょっとした出会いで軽く頬にとか、パーティの席で親しい夫人に、といったしぐさだ。 何時?何処で?誰の?何処に?と考えるだけで、頭に血が上らないでもない。 そこで気がおけないヤンキー娘に野暮を承知で伺いを立ててみた。 “ウーン ソーネェ、あまり意識したことはないけど、まず右のホオ、そしてに左かしら・・・” と口輪筋が返事をためらった。 一呼吸おいて、彼女は言う。 “恋人同士のキスなら、いくらでも教えたいことがあるのに”。 ツンと形のよい鼻の下で、赤唇部がいたずらっぽく笑っていた。
by n_shioya
| 2013-01-24 20:51
| コーヒーブレーク
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Comments(2)
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![]() 塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日) 以前の記事
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