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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。
自由の女神
先日の旅日記の続きで、今日は「自由の女神」のお話。
実はこの旅日記は、「思い出の街並み」というシリーズで、20年ほど前に北里大学病院の月報に連載したものである。
今読み返すと、稚拙ではあるが往時の感じが懐かしく思い出されるので、時折、穴埋めにつかわせていただく。

「『自由の女神は南を向いて立っている.』とジムがグラスを片手に話かけてきた.
『そしてお前,ブラジルのあれ覚えてるだろう,あのコルコバードのキリスト.あれはリオ・デ・ジャネイロで北を向いて手を広げてる.何故かわかるかい?』と謎をかけてきた,
『いや』.とあっさり降参する.
『詰まりだな,自由の女神はキリストに向かって,私のお腹の赤ちゃんをどうしてくれる?と迫っている.そしてキリストは両手を上げて憮然としてるのさ.』とジムは嬉しそうだ.

イースト・リバーを南に下った我々の船は,マンハッタンの突先で針路を西に向け今その女神に近づこうとしている.
ジムは昨日からウォールドルフ・アストリアで開かれている国際美容外科学会の会長で,コーネル大学の形成外科教授である.奥さんのナンシーと何度か日本にきた事があり,二十年らいの付き合いだ.今宵は遊覧船を借り切って,ジム船長とナンシー夫人が皆様マンハッタンの夜景を水の上からどうぞ,という趣向である.
一度は見るべきとジム達が勧めるだけあって,馴染み深いマンハッタンの夜景も船上から眺めれば,浮かぶ不夜城といった壮観である.国連ビル,貿易センター.そしてあれは勿論エンパイヤ・ステート.皆思い思いにイルーミネーションに飾られ,その輝きを水面に映している.

三十年前.若いフルブライト留学生として見たマンハッタンは抜けるような青空に林立する摩天楼の群れだった.周りを取り巻く高速道.そこを白いオープンのポンチャックを走らせながら,前の年に東京でGIとして知り合ったスタンが,あれはクライスラー・ビル,ほれエンパイヤ・ステートはあれと指差すのを,幌を下げた車の助手席から見上げた感激を思い出す.
当時私は日本に帰る意志はなかった.いずれは移民のビザに切り換えて,永住権をとるつもりだった. マンハッタンにある大学病院はみな高層ビルである.コロンビア,コーネル.その立派な建物を見上げながら,これからどう自分の運命が開けていくか,胸を踊らせたものである.

キャビンにはビュッフェ・スタイルのディナーが用意され,グラスにシャンペンがつがれていく. 飲み,食い,談笑する仲間たち.その中には移民として居ついた昔の同僚もいる.又,教えた学生もいる.複雑な気持ちで私はコートを羽織ってデッキにでた.
船はぐんぐんと女神に迫っている.下から見上げる女神はなかなか雄大だ.右手にトーチを掲げ,すっくとハドソン川の河口にたっている.たしかにおなかはふっくらとして,子供の一人や二人は充分宿していそうだ.
昔船でニューヨークに近づいた移民にとっては,さぞ暖かく迎えてくれる母親のように見えたことだろう. やがて船はゆっくりとUターンし,女神の像をあとにして南下し始めた.
もし将来アメリカに移住するなら,と私は暗い河面に光るトーチを見ながら思い続けた.
飛行機はよくない,やはり船でしずしずとハドソンを上り,この自由の女神の祝福を受けなければと.」
by n_shioya | 2011-05-16 21:14 | コーヒーブレーク | Comments(2)
Commented by さぼてんの花 at 2011-05-17 13:55 x
10年ほど前に、欲しかったインゴットの自由の女神のゴールドペンダントを購入してから私は仕事オフの出掛ける時によく身につけてました
そしていつかきっと自由の女神を観に行きたいと
今年のGWに念願かなってこの目に焼き付けてきたところです
先生の日記は流れるようなリズムでニューヨークを思い起こさせて下さいました 船に乗るさいはジャケットも脱いで身につけたものをかごに入れ、空港の入出国のような厳しさでした それだけアメリカには大切な象徴だと実感しました さてわたくしにブラジルのコルコバードのキリストを観に行く機会は今後あるのでしょうか・・ 
Commented by n_shioya at 2011-05-17 21:12
さぼてんの花さん;
お久しぶり!
行きたい、行きたいと思っていると必ず行けますよ。


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