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NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長が、『アンチエイジングな日々』を
軽快な筆致でつづります。 どうぞお気軽にコメントをお寄せください。 |
平成4年五月。
連休明けの箱根は低気圧の通過で季節外れの暴風雨に見舞われていた。 その時僕は箱根プリンスホテルで第18回日本熱傷学会を主催していた。 その初日、嵐をついて一台の車がホテルの車寄せに到着し、小柄な初老の老人が降り立った。 東邦薬品の会長である。僕は初対面だった。 それから2時間ほど、ホテルのラウンジでお話を伺うことになった。 アメリカで表皮培養のベンチャー企業でバイオサーフィスという会社がある。 東邦薬品との提携を望んでいるが、ついてはこの分野の事情を聴かせて欲しいという。 そのころ僕は北里大学で、培養皮膚の研究を進めていた。 だがすでににハーバードとMITのグループが、表皮培養の新しい技術を開発し、98%の火傷の子供を助けることに成功し、先を越されたと無念に思っていたところである。 その技術をもとにベンチャー企業を立ち上げたということはうわさに聞いてはいたが・・・ なにも一日二日を争う問題でもないのに、嵐の中を駆けつけるとは、せっかちな爺さんだなと思ったが、これをきっかけに北里大学と東邦薬品そしてバイオサーフィスとの連携事業がスタートした。 北里大学は熱傷患者の皮膚をボストンのバイオサーフィスに空輸し、三週間で培養表皮が完成したところでその表皮シートを日本に空輸する。その窓口が東邦薬品ということになった。 当然のことだが、このプロジェクトの実現には様々な障害が待ち構えていた。 まず、コストの問題だ。培養皮膚シートは作成だけでも10センチ平方で十万円はかかる。重症熱傷患者には最低数十枚が必要だ。それに空輸の費用を加えると・・・。空輸と言っても、貨物扱いはできない。人が運ぶのでその人件費。 また、通関の際、どういう品目として扱われるか、又、医療機関でない企業が委託を受けて表皮培養を商売として行くことが、医療法上認められるか? 何よりも医師の立場からは、培養表皮の生着率にまだ問題があるということもあった。 紆余曲折しているうちに、バイオサーフィス本体が経営的に生き詰まり、ジェンザイムという会社に合併吸収される。そして皮膚培養は非採算部門として塩漬けになる。 幸いその後、日本でも独自に表皮培養の会社をという動きがあり、やがて行政の後押しもあり、1999年にベンチャー・ビジネス(株)J―TECがスタートした。 わが国の「再生医療の夜明け」である。
by n_shioya
| 2010-12-12 21:22
| 医療全般
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Comments(2)
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塩谷信幸
1931年生まれ
東京大学医学部卒業 北里大学名誉教授 北里研究所病院形成外科・美容外科客員部長 AACクリニック銀座 名誉院長 NPO法人アンチエイジングネットワーク理事長 見た目のアンチエイジング研究会代表世話人 東京米軍病院でのインターン修了後、1956年フルブライト留学生としてアメリカに渡り、オルバニー大学で外科を学ぶうちに形成外科に魅了される。数年の修業の後、外科および形成外科の専門医の資格を取得。 1964年に帰国後、東京大学形成外科勤務を経て、1968年より横浜市立大学形成外科講師。1973年より北里大学形成外科教授。 1996年に定年退職後も、国際形成外科学会副理事長、日本美容外科学会理事として、形成外科、美容外科の発展に尽力している。 現在は、北里研究所病院美容医学センター、AACクリニック銀座において診療・研究に従事している。 >>アンチエイジングネットワーク >>NPO法人創傷治癒センター >>医療崩壊 >> 過去のブログはこちら(2005年5月26日~2006年5月26日)
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