16日の火曜日に「ブルーノート東京」で、ジャック・ブルース、ヴァーノン・リード、ジョン・メデスキ、シンディ・ブラックマンからなるトニー・ウィリアムス・ライフタイム・トリビュートを聴いてきました。
いやぁ、よかったです。シンディが叩いた最初の一音を聴いただけで、ぼくは60年代末のジャズとロック・シーンにトリップしてしまいました。あの時代の混沌とした音楽状況がまざまざとよみがえってきたんですね。「ブルーノート東京」のお洒落な雰囲気に身を置きながらも、ニューヨークのちょっと汚い雑然としたクラブにいる気分といえばいいでしょうか。
60年代末から70年代初めにかけての東京も、青山、六本木、赤坂あたりではジャズとロックが渾然一体となって演奏される場がありました。かくいうぼくも、ライフタイムと『ビッチェズ・ブリュー』の音楽を掛け合わせたようなバンドでディスコなんかに出ていたんですから。
とにかくこのトリビュート・バンドはかっこよかったです。ヴァーノン・リードは留学時代にシャノン・ジャクソンのバンドで何度も聴いています。その後はリヴィング・カラーにいる彼を観ただけで、ライヴを聴くのは久々です。一番鮮烈な思い出は、ある年の大晦日に、ハーレムでオーネットのプライムタイム、シャノン・ジャクソン、ジェームス・ブラッド・ウルマーの3バンドが出たコンサートです。そういえばプライムタイムにいたバーン・ニックスやチャーリー・エラビーは、長いこと会っていませんが、どうしているんでしょう?
ヴァーノン・リードはたしかイギリス生まれといっていました。それでジャック・ブルースとも関係しているのかしら? 最後にメンバー紹介をしたのもこのふたりなんで、トリビュート・バンドは彼らのアイディアから生まれたんでしょう。ジャック・ブルースは、ライフタイムの『ターン・イット・オーヴァー』に参加していましたし、このひとのジャズ・ロッカーぶりもかっこよかったです。
でも一番かっこよかったのはシンディ・ブラックマンです。まるで60年代のディランかジミ・ヘンドリックのような髪型で颯爽とステージに登場し、小柄な体でトニー・ウィリアムスもびっくりのパワフルなドラミングを聴かせてくれました。
その昔、シンディがウォレス・ルーニーとプロモーションで来日したとき、レコード会社から、司会者兼講演者兼インタヴューアー兼通訳をしてくれないかと、とんでもない仕事を頼まれました。それが上の写真です。それが縁でシンディとも知り合い、ぼくのアパートにも遊びに来てくれたことが何回かあります。ひところはニューヨークでもときどき会っていたんですが、ヴァーノン・リードと同じで、長いことご無沙汰でした。
いい感じでジャズ・ロックしていた3人に比べると、ジョン・メデスキは、演奏は最高でしたが、服装がちょっと。サラリーマンの休日みたいな感じで、柄物のシャツとよれよれのジーンズ。いかにもこのひとらしくていいんですが、音楽とのイメージがあまりにも違いました。でも、ハモンドをキーボードのように弾くラリー・ヤング・スタイルはメデスキの得意とするところでもありますから、このバンド、彼なくしては成立しません。
ライフタイムの1枚目は、日本で発売される直前にレコード会社(ポリドール)が主催した試聴会で初めて聴きました。そのときの興奮が、ステージの4人による演奏を聴きながら蘇ってきました。ジャズがロックと融合し、確実に新しい時代を迎えた──そう強く実感したのが、その日でした。60年代に最後のころでしょうか。以来、頭にこびりついて離れないその響きを自分なりに再現したくて、バンドでなんとかそれ風にことをやっていました。
音楽に燃えていたあのころの自分。その姿を思い出させてくれただけでも、この日のステージが観られてよかったです。あとは、クリームで演奏しているジャック・ブルースの姿をこの目で一度でいいから観たいものです。もう一度再結成してくれないでしょうか。
てなことを書いているうちに、明日からニューヨークです。午前中は本業で、そのまま成田に行きます。というわけで、次回はニューヨークから。