【8月30日 夜の部】
だんだんコンサートから時間が開いてきましたがもう少し続けます。
2日目の夜の部は「DRAMATIC NIGHT」と題されていました。まずは昼の部でも素晴らしい演奏を聴かせてくれた上原ひろみさんが、今度は自分のグループ「HIROMI'S SONICBLOOM」を率いての登場です。新作『ビヨンド・スタンダード』でスタンダード・チューンに大胆なアレンジを施していた彼女の演奏がライヴで聴けました。
それにしても、やっぱり上原さんは凄い。これまでにも多くのひとがスタンダードに新しい解釈を施してきましたが、彼女ほど斬新なアイディアでお馴染みの曲に新しい生命を吹き込んだひとは知りません。
最初の「朝日のようにさわやかに」からわくわくする演奏の連続です。「キャラヴァン」にしても「アイ・ガット・リズム」にしても、これらの曲のとんでもない変身ぶりにびっくりさせられました。アルバムを聴いていても、実際に目の前でこのような演奏されてしまうと、改めて上原さんの感性っていったいどこまで発展していくんだろう? と思ってしまいます。ジャズであってジャズを軽く超えているところがお見事でした。まさしく「ビヨンド・スタンダード」です。
お見事といえば、次に登場したリシャール・ガリアーノ&ザ・タンガリア・カルテットに急遽客演した寺井尚子さんにもびっくりさせられました。予定していたバイオリン奏者が来日できなくなったことからの急遽参加です。
ガリアーノのグループはタンゴを中心に演奏するので、単なるセッション・バンドではありません。きちんとしたアレンジがあって、テーマ・パートもかなり複雑です。寺井さんがリードを取る場面も多く、難曲の連続でした。それでも彼女はまったく物怖じすることなく、大胆なプレイでガリアーノに迫ります。これには彼もびっくりしたことでしょう。
昼の部で観たグレート・ジャズ・トリオとデヴィッド・サンボーンのあまりにもお手軽な共演と、どうしても比べてしまいます。あちらはあちらで楽しかったのですが、こちらはスリリングな演奏で、ぼくは1曲終わるごとに心の中で「寺井さん凄いぞ!」「寺井さん頑張れ」と念じていました。まるでオリンピックで日本人選手を応援している気分でした。
寺井さんはタンゴの心もわかっているに違いありません。どれだけリハーサルの時間があったか知りませんが、これぞプロという、本当に見事な内容でした。ただうまいだけの演奏なら、譜面に強ければできるでしょう。しかし、彼女は譜面をなぞっていただけではありません。そこに自分の思いもしっかりと込めて、パッショネートなプレイを次々と聴かせてくれました。
最後のミシェル・カミロの演奏は残念ながら聴かずに帰ってきました。それにしても夜の部では上原さんといい寺井さんといい、これまたオリンピックと関連させて申し訳ありませんが、女性の活躍ぶりを肌で感じました。ふたりが世界のどこに出ても素晴らしい存在であることを思い、誇らしげな気分です。