すでに大阪と横浜でコンサートが開かれましたが、昨日は東京の初日。このメンバーならある程度の予想はつくのですが、その予想を超えて素晴らしいプレイの連続でした。ハービー・ハンコック67歳、ウエイン・ショーター74歳。このヴェテランはやっぱり侮れない。どんなときでも、こちらを驚かせ、かつ嬉しい気持ちにさせてくれる創造的な演奏を聴かせてくれるからです。
そんなことが実感できただけでも素晴らしいコンサートでした。これまでにもいい音楽を沢山聴いて、そのうちの何割かは実際に目撃もしてきました。目撃者になれる喜びにも格別なものがあります。自己満足なんですが、こういう自己満足って生きていく上でのいい隠し味になると思いませんか?
「ソー・ホワット」から始まったコンサートからは、いい意味で和気藹々の雰囲気が感じられました。とはいっても、演奏はとても尖がっているんです。ハービーにしろウエインにしろ、まったくフレーズに妥協していません。ウエインは40年くらい前に初めて聴いたときと同じようにフリー・フォームのプレイに徹していましたし、ハービーもまったくありきたりのフレージングではありません。むしろ、以前より過激になっていたほどです。
ぼくの常識からいけばあらゆることをやり尽くしたと思える彼らが、いまも新しい音を追求している。しかも四苦八苦しているのではなく、楽しみながらやっている様子を目の当たりにして、目撃者の喜びを感じたんですね。その和気藹々の雰囲気はロンにもジャックにも当てはまります。
互いを知り尽くした仲間がステージの上で、真剣勝負ではなく、楽しみながら演奏している。それでいて、ほとんどの真剣勝負的演奏以上にスリリングなプレイをしてみせる。こんなに面白いコンサートはめったに観られません。
ロンがワン・ノートを延々と弾くイントロで始まった「いつか王子様」では、ウエインがテーマに入り損ね、ハービーが待ちきれずにメロディを弾き始めます。そういうところもウエインらしくて微笑を浮かべてしまいました。
「81」や「フットプリンツ」など、ウエインとハービーがいた時代のマイルスのレパートリーが演奏されたのもよかったです。何日か前の朝日新聞に掲載されたハービーのインタヴューでは、「マイケル・ブレッカーやジョー・ザヴィヌルに追悼する曲をやるかも」と書かれていましたが、そういうことにはなりませんでした。「処女航海」と「アウン・サン・スー・チ」以外はすべてマイルス・バンドのレパートリーで固められていて、今回の趣旨がほぼ貫徹されていたのもよかったと思います。
不思議に思ったのは、コンサートを聴いていて、「ここにマイルスが入ったら」ということを一度も思い浮かべなかったことです。マイルスにトリビュートしているのにマイルスのことを忘れていたんです。どういう心理状態だったんでしょうね? それだけTHE QUARTETが、マイルスのレパートリーを演奏しながら彼ら独自の演奏をしていたからでしょうか。
マイルスのレパートリーでもアレンジはまったく違うし、メンバー全員のプレイがいまのスタイルになっていました。それにしても、ウエインがいまだに新しいコンセプトでサックスを吹いていることには驚かされます。というかこのグループ、「いつか王子様」のようなスタンダードを演奏してもありきたりの4ビートでメロディックなプレイなんかまったくしません。
それがいいとか悪いとかじゃなく、ぼくはそういう姿勢が彼らの演奏を面白いものにしてきたと考えています。とてもアグレッシヴなんですね。妥協もしなければ、聴き心地のいい演奏をしようという気もさらさらないようです。
ぼくが彼らに望んでいるのがこういう演奏です。だから、まさにジャストミートな内容でした。お酒を片手に心地のよい4ビートを聴きたいなら、ほかのグループやアーティストを聴けばいいんですから。
次回の東京コンサートは19日です。小僧comの企画で、コンサート前に近くのお店に集まって、解説というのはオーヴァーですが、簡単なレクチャーみたいなものをしてから会場に向かいます。コンサート終了後は、レクチャーに参加した下さった方と、銀座のレストランで食事をしながらオフ会みたいなことをやります。こちらもいまからおおいに楽しみにしています。