このところ愛聴しているアルバムをいくつか紹介しておきます。

『ハリー細野&ザ・ワールド・シャイネス/FLYING SAUCER 1947』
2005年から始めた細野晴臣さんの歌物プロジェクト「東京シャャイネス」の発展形のような作品です。以前からのテーマだった1940~50年代あたりの雰囲気を湛えながら、レトロでモダンなサウンドが最高です。
バックを固めるワールド・シャイネス(徳武弘文、高田漣、伊賀航、コシミハル、浜口茂外也)のメンバーを見ればわかるひとにはわかる内容でしょう。マーティン・デニー風エキゾティック・サウンドもあれば、ジャズ・ソングもあるし、カントリー&ウエスタン調もある。細野流ルーツ・ミュージックの集大成的作品という内容で、買う前から愛聴盤になることはわかっていました。

『和幸/ゴールデン・ヒッツ』
ニューヨークで一番聴いていたのがこのアルバムです。加藤和彦と坂崎幸之助のユニットで、フォーク・クルセイダーズあるいはポーク・クルセイダーズからの派生ユニットといったところでしょうか。
遊び心に溢れたふたりです。このユニットは欧米で活躍する架空スーパー・デュオ・グループみたいな扱いで、ブックレットの解説もまったく出鱈目な内容になっています。それぞれの曲はシングル盤として発売された設定で、ジャケット写真まで掲載されているから笑えます。
S&G風やサイケデリック風、あるいはビートルズ風など、音楽とリンクしたジャケット写真や解説も楽しめました。パロディ風ではありますが、音楽自体はどれも素晴らしいし、いかにもふたりがやりそうな遊び心が一杯で、9月に行なわれたライヴに行けなかったのがかえすがえすも残念でなりません。

『あがた森魚/タルホロジー』
今年はデビュー35周年ということで、この新作をはじめ過去の作品もいろいろと再発されています。あがたさんはデビューしたときから好きでした。独特のヴォーカルとサウンドは、それまでにもそのあとにも聴いたことのない「あがたサウンド」「あがたミュージック」になっています。
久保田麻琴さんがプロデュースしたこの新作は、あがたさんの大好きな稲垣足穂的世界が展開されたものです。1曲目の「東京節」なんて、ぼくと同じ世代のひとなら子供のころにさんざん歌ったんじゃないでしょうか? すっかり忘れていましたが、一番はソラで一緒に歌えました。やっぱり子供のころに覚えたものは忘れないんですね。

『あがた森魚コンサート~『永遠の遠国』at 渋谷ジアン・ジアン』
もう一枚あがたさんの作品。こちらは1978年の未発表ライヴです。よくこんなテープが残っていたものだと思います。この直後から、あがたさんはヴァージンVSを結成してパンク時代に突入するのですが、この作品は本来のあがたワールドが全開したものです。
当時は3枚組のボックス・セット『永遠の遠国』に取り掛かっていました。その内容とバックのメンバーもリンクしています。「泣き虫パンク幼年期」とこのころは呼ばれているのですが、まさにあがたさんの《泣き節》が真価を発揮した内容といえるでしょう。「金魚鉢のハムレット」や「サルビアの花」あたりは、森進一以上に《泣き節》が決まっています。持ち味の昭和浪漫より、このあたりは演歌の世界を感じました。実にいいです。
『永遠の遠国』は、前もって購入希望者からレコード代をもらい、それを使って制作する方式が取られました。ところがいつまで経っても完成しません。そのうち、お金を払ったひとたちの両親から苦情が入るようになってきました。そんなときにあがたさんのマネージャーになったのが、このブログでもごくたまーにコメントを寄せてくれるt_gomezさんです。
このひとがあがたさんの尻を叩かなかったら『永遠の遠国』は完成しなかったでしょう。ボックスには「20世紀少年読本」なる凝った本や、駄菓子屋で売っているようなさまざまなものがおまけとして入っています。それらの編集から手配からアセンブルから印刷からプレスから、何から何まで手がけたのがt_gomezさんでした。『永遠の遠国』が世に出たのは1985年のことです。

『ブレッド&バター/海岸へおいでよ』
これも素敵なアルバムです。ぼくの大好きな曲のひとつに「あの頃のまま」があります。ユーミンが1979年にブレッド&バターにプレゼントした曲です。このアルバムは、その曲に登場した人物たちも30年近くが経って、いまごろどうしているんだろう? そんなコンセプトで作られました。前にもこのブログで紹介しましたが、歌詞はこんな感じです。
ネクタイ少しゆるめ寂しげなきみが
馴染みの店に腰すえる夜は
陽焼けした両足を投げだしてぼくも
"SIMON & GARFUNKEL"久しぶりにきく
人生のひとふしまだ卒業したくないぼくと
たあいない夢なんかとっくに切り捨てたきみ
For Myself For Myself
幸せの形にこだわらずに
人は自分を生きてゆくのだから
この歌に強いシンパシーを感じます。ぼくはどっちの人物だろう? なんてね。サラリーマンではないけれど、きちんとした仕事にはついています。でもまだ夢も追い続けていますし、SIMON & GARFUNKELもずっと聴き続けてきました。ここに歌われるふたりを足して二で割ったというか、両方を兼ね備えているのかもしれません。そういう人生が過ごせて幸せです。
それで、今回のアルバムに出てくるさまざまなひとたちですが、やっぱりそれぞれが自分の人生を歩んでいるんですね。仕事人間だっていいですし、遊び人だっていいと思います。自分が納得できる人生を送っているのなら。アルバムを聴きながら、思わずそんなことを考えてしまいました。