チック・コリアを聴いたかと思えば、今度はパット・メセニー&ブラッド・メルドーです。この節操のなさが音楽を聴く上での醍醐味でしょうか。それにしても、東京はこのところいいライヴが続いています。昨日発売になった『男の隠れ家』11月号にも、「東京は世界一のジャズ・シティ」みたいなことを書いたのですが、ほんと、ニューヨークより面白いコンサートが観られることも少なくありません。
それで、昨日は「NHKホール」でパット・メセニー&ブラッド・メルドー・カルテットを聴いてきました。会場には「休憩なしで140分演奏します」みたいな張り紙が出されていました。パットのファンなら、いつもそうですから、そんなことは先刻ご承知でしょう。でも、これは聴くほうもその気になってねという、アーティストからのメッセージなんでしょう。
ぼくは、どちらかというと、長いコンサートが苦手です。長ければいいってもんじゃありませんから。でも、パットやストーンズは例外です。昨日も、まったく長さを感じませんでした。しかも、この140分にはアンコールが含まれていません。結局7時過ぎに始まって、終わったのが10時少し前。アンコールもしっかりと2回やってくれました。
最初の1時間くらいはふたりのデュオです。昨年発表した共作の第一弾『メセニー=メルドー』が、ぼくはジャズ作品として去年の第一位にあげたほど好きでしたので、その再現ライヴという感じでここから引きずりこまれました。
ふたりのデュオを聴いていると、ビル・エヴァンスとジム・ホールの『アンダーカレント』を思い出しました。考えてみれば、メルドーはエヴァンスから、パットはジム・ホールから影響を受けています。留学時代にニューヨーク市立大学の講堂でパットとジム・ホールのデュオを聴いたんですが、そのときの音も頭の中で甦ってきました。
エヴァンスとジム・ホールのデュオがとてつもない形で発展するとこうなるのかなぁ、などと思いながら、このパートだけでもたっぷり堪能することができました。
このデュオに続いては、ステージにラリー・グレナディア(ベース)とジェフ・バラード(ドラムス)が呼び込まれて、カルテットのセッションになります。簡単にいえば、メルドーのトリオにパットが参加した形です。しかし、このユニットが素晴らしい。4人が絶妙のコンビネーションで演奏をぐいぐいとひっぱっていきます。ラリー・グレナディアとジェフ・バラードも、昔はそれほどピンとこなかったんですが、この手の演奏をさせたらいまではかなりの存在感を示します。
このパートで気がついたのは、これは絶対に白人にしか表現できない演奏だな、ということです。黒人には逆立ちしたってこういう演奏はできません。どこがどうできないかというのは言葉で説明できません。「できません」づくしで申し訳ありませんが、こればっかりは聴いてそう感じたとしかいいようがないですね。
発売されて以来、ふたりのコラボレーション2作目となった『カルテット』は何度も聴いてきましたが、やっぱりライヴで体感するのは違います。スタジオ・レコーディングの緻密さもよかったですが、昨日の大胆なインプロヴィゼーション合戦は、ひと前で演奏したからこそのものでしょう。
面白いと思ったのは、若い男女のお客さんが多かったことです。パットにしてもメルドーにしても、決して聴きやすい音楽を演奏しているわけではありません。むしろ、難解といってもいいかもしれません。しかし、昔からそうでしたが、パットのファンはいつも若いひとたちです。普通なら、この手の難解な音楽は毛嫌いされそうですが、この例外はなんなんでしょう。
それはそうと、ぼくは3時間弱のコンサート、まったく飽きることなく、最後まで集中して聴けました。こういう自分も珍しいですし、充実した気分で帰ってこれました。根が単純ですから、彼らの姿勢に触発された部分もあります。昔ばかり振り返っていないで、何かをしなくちゃっていう気分になりました。
今晩は、また「ブルーノート」東京に行って、昨日から始まったチックのトリオを聴いてきます。