【お知らせ】
昨日からWEBマガジンのe-daysがスタートしました。ぼくは月2回の更新で、1回目のコラムがアップされています。e-daysのコラムは「HOT MENU」というコーナーに掲載されていて、
http://e-days.cc/hotmenu/からアクセスできます。ジャズについてのニュース、レヴュー、インタヴューなどを担当する予定です。
このところ、自分でお金を払わずにジャズを聴きにいっています。役得です。それで、昨日は「コットン・クラブ」で、しばらく前から注目している若きピアニストのエルダー率いるトリオのライヴを観てきました。今月発売された3作目『リ・イマジネーション』のライナーノーツを書かせてもらったこともあって、レコード会社の担当者が招待してくれました。ありがたいですね。
このブログでもこれまでにエルダーのことは紹介してきました。フル・ネームはエルダー・ジャンギロフ。名前が覚えにくいため、最近はエルダーの表記になっています。旧ソビエト連邦のキルギスタンで1987年に生まれていますから、今年ではたちになりました。2年前にメジャー・デビュー作の『エルダー・ジャンギロフ』が国内発売されたときもライナーを書かせてもらったので、勝手に親しみを感じています。
そのデビュー作を聴いて、とにかく凄いテクニックにノックアウトされてしまいました。昨年来日したときもライヴを観ましたが、そのときも圧倒的な素晴らしさでしたね。もちろん、昨日も最高の演奏を聴かせてくれました。
超絶技巧だけなら驚きません。同じく若いピアニストのオースティン・ペラルタもそうですが、どうしてかわかりませんが、彼らはジャズの心をしっかりと持っています。巧いだけじゃなくて、聴かせるものをしっかりと身につけているのです。たかだか数年のキャリアの若いプレイヤーがどうしてこんなにもいろいろなことを身につけ、それをきちんと自分のものにして、なおかつ個性的な表現に結びつけることができるのか。それが不思議でなりません。
引き合いに出す例としては意味が違うかもしれませんが、ぼくのよき対談相手(と勝手に決めさせてもらいました)の平野啓一郎さんにも同じ印象を覚えています。彼は本当にジャズへの造詣が深いんですが、リスナーとしてのキャリアは10数年だと思います。ぼくは40年(エヘン)。しかしぼくより、深くジャズのことが語れます。
これは能力の違いでした。だから引き合いに出すのはやっぱり不適当ですね。それでも、知識とか実践を積み重ねるには最低限の時間は必要でしょう。その最低限の時間の何分の一かで、彼らはさまざまなことを身につけ、その上に創造性という、これは時間や経験を超越した摩訶不思議なものまで獲得しているのです。こういうひとを天才というんでしょう。
その天才によるプレイを昨日は目の前でたっぷりと観させてもらいました。こういうのが至福の時間です。
エルダーの経歴が面白いです。彼はアメリカ人のジャズ・ファン、チャールス・マックウォーターというひとに“発見”されました。このニューヨーカーがシベリアのノヴォシビルスキーで開催されたジャズ・フェスティヴァルに登場したエルダーを偶然聴いたことから、人生が大きく変わります。
マックウォーターは、ジャズ・ピアニストとしての優れた才能に驚嘆し、エルダーをアメリカに招きました。彼のためにミシガンで開かれていたジャズのサマー・キャンプ(インターロケーション・フォー・ジ・アーツ)に参加する奨学金を申請し、アメリカに呼び寄せてくれたのです。お金持ちなんでしょうか。このとき、エルダーは9歳でした。
次いでマックウォーターは、ジャズ・ピアニストで教育者で、かつ強い影響力も持つマリアン・マクパートランドにエルダーのテープを送ります。彼女は非営利放送のラジオ番組『ピアノ・ジャズ』の司会を数10年にわたって務めていますが、その番組でエルダーは大々的に紹介されたのです。
これらのことが契機となって、エルダーは一家で1998年にアメリカに移り、カンザス・シティで生活をするようになりました。これも凄いです。ヴィザとかお父さんの仕事とか、どうしたんでしょう。
親の愛情は偉大です。ぼくも娘の父親ですが、彼女のためにどこまでやれるか? なんらかの局面に立たされないとどうするかわかりませんが、考えさせられる話ではあります。
さて、明日は香港に行ってきます。中一日の滞在ですから、とんぼ返りのようなものです。その模様は次回のブログで。