
8月31日ですが、「ブルーノート東京」でジミー・スコットを聴いてきました。今回は個人的な楽しみでもあったんですが、メインは取材です。9月27日に発刊される『男の隠れ家』の11月号でジャズ特集を組むことになり、ぼくが東京のジャズ・スポットを案内する役目を仰せつかったからです。
1年前にも同じような企画があって、そのときは岩浪洋三さんが新宿周辺の案内人になりました。それで、今回は新宿・四谷近辺は避けてくださいとのリクエストで、それに合わせてジャズの関連スポットを7ヵ所紹介することにしました。
まずは、渋谷のレコード店「JARO」で、しばし写真撮影です。オーナーの柴崎さんは、ぼくのジャズの先生です。オリジナル盤の「オ」の字も知らないころから、いろいろと教えてくれた恩人です。お陰で、少しはブルーノートの目利きになれたと思いますが、オリジナル盤に関してはいまだに柴崎さんの足元にもおよびません。ひとしきり、オリジナル盤談義で盛り上がってから「ブルーノート東京」に向かいました。

ジミー・スコットは今年で82歳になるシンガーです。デヴィッド・リンチが監督して日本でも話題になったテレビ・シリーズの『ツイン・ピークス』に彼が歌う「シカモア・トゥリーズ」がフィーチャーされていっきに人気を爆発させました。こう書けば、「ああ」と思うひとがいるかもしれません。いないかな?。
それがいまから15年前です。それまでは知るひとぞ知るシンガーとして、マニアの間で密かに愛されていたに過ぎません。しかしこのヒットで、ようやく日本にも来るようになり、新譜もコンスタントに登場して、遅咲きの名シンガーはやっと才能に見合う評価がされるようになりました。

ぼくは駄目だろうと思いつつ、出来ることなら楽屋でインタヴューしたいとオファーを出しました。高齢だし、ステージの前のインタヴューは「ブルーノート東京」としても望ましくないだろうし、ましてや同行の奥さんがいつも「疲れるから」とインタヴューには乗り気でないことも知っていたので、ほとんど諦めていました。

しかも当日になって知ったのですが、ジミー・スコットは7月に大腿骨を骨折して手術を受けたばかりでした。車椅子でステージにあがっているという話を聞いて、遠慮したほうがいいなと思ったのですが、なぜかこちらの申し出を快く受けてくれました。

ジミー・スコットは子供のときに罹った病気が原因で身長はわずか5フィート、そして女性のような高い声に特徴があります。「奇跡のヴォイス」と呼ばれた独特の歌声は、年を重ねるにつれてますます孤高のものになってきました。独特の芸風といってもいいかもしれません。
普通のジャズ・ヴォーカルを尺度にしたら、これほどはみ出しているひとも珍しいでしょう。スイングもしませんし、メロディもはっきりしません。少しもうまいとは思いませんが、それでも独特のヴォーカルは心にズシンと響きます。味で勝負のシンガーですから。自分の世界を持っているひとだけにしか表現できないオリジナリティは尊いものです。

肝心のインタヴューですが、インタヴューというより奥さんを交えての昔話という感じになりました。ぼくは一問一答形式のインタヴューは好きじゃないので、こういうのがいいんです。
奥さんのほうが記憶は確かで、「あのときはああだったじゃない」、「このときはこうだったでしょ」みたいな感じで話題は尽きません。それと奥さんが手術後のことを心配していたので、整形外科医としていくつかのアドヴァイスもしてきました。こういうときに本業が役立ちます。
あとで「ブルーノート」の広報のかたが教えてくれましたが、こんなにジミー・スコットが話したのは珍しいそうです。それは、奥さんが彼以上に話すことを楽しんでくれたからでしょう。いくつか興味深い話も聞けました。これは来年出る『愛しのジャズメン 3』用にとっておこうかなと思います。
ジミー・スコットのステージを観たあとは、近くの「ボディ&ソウル」に場所を変えました。こちらの話は、次回のブログで紹介しましょう。