ちょうど1年前に始めた銀座のバー「le sept」でのゼミナールが昨日で5回目を迎えました。3ヶ月ごとの開催です。毎回満員の盛況は、ひとえにお店の則子ママと修ちゃん、それに主催のHKO商会のみなさんのお陰です。そしてもちろんいつも脱線気味の話に耳を傾けてくださる参加者のみなさんにもお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。
それで今回は、ぼくの大好きなボサノヴァ特集です。昨日も話しましたが、音楽の世界に身を置くようなった出発点がボサノヴァなんです。銀座も重要なポイントです。
中学2年のときに、ソニー・ビルのそばにある「テイジンメンズショップ」というお店に、当時流行り始めたVANジャケットのマドラス・チェックのシャツを買いに行きました。そのとき、店内で流れていたのが『ゲッツ=ジルベルト』でした。ぼくはクラシック・ギターを習っていたので、ジルベルトが弾くギターの響きに惹かれて、シャツを買わず、近くの「ヤマハ」でそのレコード買いました。
ジャズもボサノヴァも知らないころです。一所懸命そのギターをコピーしていくうちに、スタン・ゲッツのレコードを通してジャズにも興味を向けるようになっていきました。だから本気で最初に聴いたジャズ・プレイヤーはゲッツなんです。
銀座とボサノヴァではもうひとつ大切な思い出があります。それから6年くらい経って大学に入り、バンド活動の合間に、ボサノヴァの弾き語りでもバイトをやっていました。ちょっとしたきっかけから、銀座の、ちょうど「le sept」のような雰囲気のバーで弾き語りを頼まれるようになったんです。
当時はギブソンのD-175というギターが欲しくて、音楽のバイトに精を出していました。あのころの値段で30万円以上しましたから、学生には高嶺の花です。でもそれがほしくて、バンドのバイトは結構いいお金になったので、毎週末はどこかで演奏していました。
それでウィークデイには、最初、代々木の知り合いのスナックでボサノヴァの弾き語りを始めたんですが、お客さんの紹介で、銀座のお店も何軒か紹介してもらいました。数曲弾いては、ついでに何か歌いたいお客さんの伴奏をして(こちらは大半が歌謡曲でした)、別の店で同じことをやって、また前の店に戻る、みたいなシステムです。これを週に2~3日はやったでしょうか。
そのうち、お店のホステスさんに、「帰りに送ってくれたらその分のお金を払ってあげる」といわれました。彼女たちもぼくがギターを買うためにバイトをやっていることを知っていたので、協力してくれたようです。だって、タクシー代の倍くらいのお金をチップだといって渡してくれるんですから。そういうホステスさんが何人かいました。これって白タクと同じで本当はイリーガルなことだと思うんですが、とにかくぼくは彼女たちの好意に甘えさせてもらいました。
それでも30万円を貯めるのは大変です。そんなときに、今度は渋谷の「ヤマハ」でレコード売り場にいる店員さんから、中古なら半額くらいでD-175が手に入るし、彼女が買うことにすれば社員割引で15万円くらいになる、といわれました。
それならそろそろ買える金額です。そこで、とりあえずそのギターを試しに弾かせてもらいました。コンディションは申し分がないし、手にも馴染みます。ぼくが思い描いていたとおりのギブソンです。それで、貯めたお金を全部手付け金として払い、それからさらに1ヵ月くらいして、そのギターはぼくの手元に来ました。
それにしても、いつもひとに助けられています。彼女たちは、みんなぼくよりちょっと年上でしたから、いまごろは60前後でしょうか。どうしているんだろうなぁ。みんないいひとたちだったから、きっと幸せな人生を歩んでいると思うのですが。昨日は、ボサノヴァを聴きながら、こんなことを思い出していました。
そのギブソン、いまは娘のところにあります。でもほったらかしのようなので、そのうちまた手入れをして、少しずつ弾いてみようかなと思っています。
昨日の話を書くつもりがこんなことになってしまいました。ごめんなさい。最後に、昨日みなさんと聴いた曲目だけ書き出しておきます。いつものように、時間がなくなり、終盤の2曲カットしてしまいましたが。
【song list】
①アントニオ・カルロス・ジョビン/イパネマの娘
②アントニオ・カルロス・ジョビン/ウェイヴ
③ジョアン・ジルベルト/三月の水
④スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト/コルコヴァード
⑤アストラッド・ジルベルト/ハウ・インセンシティヴ
⑥スタン・ゲッツ&チャーリー・バード/ワン・ノート・サンバ
⑦スタン・ゲッツ&ルイス・ボンファ/ジャズ・サンバ
⑧ルイス・ボンファ/カーニヴァルの朝
⑨ワルター・ワンダレイ/おいしい水
⑩アストラッド・ジルベルト&ワルター・ワンダレイ/ある微笑
⑪バーデン・パウエル/詩人にぴったり
⑫マルコス・バーリ/ソー・ナイス(サマー・サンバ)
⑬セルジオ・メンデス&ブラジル'66/コンスタント・レイン
⑭オスカー・ピーターソン/マシュ・ケ・ナダ
⑮ラムゼイ・ルイス/オルフェのサンバ
⑯コールマン・ホーキンス/デサフィナード
⑰スタンリー・タレンタイン/チャオ・チャオ(カット)
⑱シャーリー・スコット/キャント・ゲット・オーヴァー・ザ・ボサノヴァ(カット)
⑲ロレツ・アレキサンドリア/リトル・ボート
⑳ダイアナ・クラール/ザ・ルック・オブ・ラヴ