先月の『愛しのジャズマン』に続いて、今度は河出書房新社から『ジャズマンはこう聴いた! 珠玉のJAZZ名盤100』という本が出ました。版元によれば、おとといあたりから書店に並ぶとのことでしたから、大きなお店なら置いてあると思います。
タイトルや表紙からピンとくるひともいるでしょうが、昨年の8月に出した『ジャズマンが愛する不朽のJAZZ名盤100』の続編にあたるものです。1年も経たないうちに続編が出せたことを嬉しく思っています。部数も最近のジャズ本としては破格の数字です。ただし、ジャズ本ですからたいしたことはありません。
それでも河出書房新社からはこの1年で3冊出したんですが、いずれも他の出版社から出した本に比べるとかなり部数が多いので感謝しています。
内容はミュージシャンのコメントを集めたものです。ありがたいことに、これまでにさまざまなアーティストや関係者から話を聞くことができました。
とりわけぼくのインタヴューで根幹をなしているのが、「ブラインドフォールド・テスト」と呼ばれるものです。これは、アルバム名やアーティスト名を伏せていくつかのレコードないしはCDを聴いてもらい、そのアーティスト名を当てるお遊びです。昔は耳に自信のあるファンを集めてジャズ喫茶などがよくやっていました。
その「ブラインドフォールド・テスト」を、「アイ・ラヴ・ジャズ・テスト」のタイトルで20年ほど『スイングジャーナル』誌に連載していました。最初はその連載のためだけだったんですが、やがて嬉しいことにミュージシャンの間で「ブラインドフォールド・マン」と呼ばれるようになりました。
ブランフォード・マルサリスを「テスト」中(2003年)
「日本に行ったらブラインドフォールド・マンがいるぞ、気をつけろ」
ブランフォード・マルサリスがふざけて、日本ツアーをするアーティストにそう言っていたのが広まりました。と言っても、一部のひとの間での話ですが。
それで通常のインタヴューをしても、そのうちミュージシャンから「今日はブラインドはいいの?」と言われるようになりました。もちろん彼らの冗談ですが、こういうときは受け狙いでバッグの中からCDを取り出し、「それじゃあリクエストに応えて、いまからテストを始めます」みたいなことを言うようにしていました。
こう言うと、必ず受けます。ですから、いつも「ブラインド」の用意をしてインタヴューにのぞむようになりました。
それでそのうち、せっかく音を準備したのに使わないのはもったいない、そう考えるようになったんですね。いつの間にか、時間があまったときはリクエストもされないのに「ブラインド」をするようになりました。
そうやって集めたコメントは膨大な数にのぼります。あるとき、一念発起をして、そのコメントをデータベース化しました。これは大変な作業だったんですが、作業中に原稿に読み耽ることもちょっちゅうでした。自分で書いた原稿なのに、自画自賛ですが実に面白い。
ミュージシャンのコメントには一家言が多くて、ぼくらとは発想や感じ方がまったく違うことも多々あります。『スイングジャーナル』誌に連載していたときからこのことはわかっていたんですが、紙面の制約で使えなかったコメントが沢山あります。インタヴューのついでに聞いたコメントはほとんどが未発表で、それらをお蔵入りさせておくのはもったいないと思うようになりました。
それでまとめたのが『ジャズマンが愛する不朽のJAZZ名盤100』です。おかげさまで好評だったことから、今回その続編の『ジャズマンはこう聴いた! 珠玉のJAZZ名盤100』を出すことができました。
評判がよければ、もう1冊、年内に出せるかもしれません。次は、誰でも知っている名盤から離れて、俗に言うところの「隠れ名盤」みたいなものでいこうかと考えています。ただし誰も知らないアルバムを聴いてもらっても、ミュージシャンはコメントのしようがありません。ですから「隠れ名盤」というより、「忘れられた名盤」みたいな作品を集めたものになります。
「そういえば、こんなアルバムもあったっけ」、「このごろ聴いていないけれど、これもよかったよね」みたいなアルバムって結構あるじゃないですか。そのあたりにスポットを当てたいと考えています。
昼休みに神田の書店を覗いたらありました! よーく見ると上段の棚にはぼくの本が6冊並んでいます。素晴らしい!
それでせっかちなぼくは、実を言えば出版社のゴー・サインはまだ出ていないのですがもう書き始めています。
編集会議用の企画書を作るため、まずは取り上げるアルバムを100枚選びました。選ぶためには、コメントの内容をチェックしなくてはなりません。紹介するに値するコメントが揃っているかどうかの確認です。それらを読んでいると、どうしても文章としてまとめたくなってきます。それで、いくつかは規定の字数で書き上げてしまいました。
担当者はぜひ出したいと言ってくれていますが、ジャズ本の出版は厳しい状況にあります。いまは、ひたすら会議の通過を祈っているところです。そういうわけですから、この本もぜひよろしくお願いします。