久々に矢野顕子のライヴに行ってきました。「ブルーノート東京」のステージには、ピアノとシンセサイザー、それにベース・アンプとドラム・セットがあるだけ。そこにアッコちゃんの登場です。
相変わらずの浮遊感に溢れたヴォーカルは、こちらと思えばまたあちらと変幻自在。こんな歌がうたえるひとは、世界を見回してもいないでしょう。
いつもはむっつりしていて、怒っているのか機嫌が悪いのか、そんな雰囲気ぷんぷんのアンソニー・ジャクソンが珍しくにっこりする場面も。彼とは、その昔、デニス・チェンバースの作品をプロデュースしたときにお願いしたことがあるんですが、そのときも「ひとを寄せないもんね光線」を放っていました。ミュージシャンも腫れ物(者?)に触るように気を使っていたんですが、実は照れ屋さん、マイルスと同じです。
ドラムスはくるりと一緒に今年のフジ・ロックにも出たクリフ・アーモンド。
アッコちゃんの歌と曲を聴いていつも思い浮かぶのは服部良一です。モダンな響きの中に日本的なものがたっぷりと詰め込まれた歌の数々。現代性と郷愁が織り交ざった世界とでも言えばいいでしょうか。
ちょっと国籍不明のところもあるけれど、やっぱり日本の情緒が歌詞にもメロディにも滲み出ています。ニューヨークに住んでいても変わらないんだなぁと、ちょっと安心したり、それでいて変わってくれたら面白いのに(実際はサウンド面などで変わっていますが)と思ったりするぼくでした。
それで久々なんですが、彼女が88年に発表した『ウェルカム・バック』を家に帰って聴いてみました。これはジャズ・ファンもびっくりのアルバムです。
パット・メセニー、ウォレス・ルーニー、チャーリー・ヘイデン、ピーター・アースキン、アンソニー・ジャクソン、ジョン・クラークといったジャズ・ミュージシャンがバックについているからです。そのほかに坂本龍一や大村憲司も加わっていますが。
これが滅法面白くて、ひところはよく聴いていました。久々に聴く『ウェルカム・バック』は、今晩のアッコちゃんの奔放な歌に通じるものでした。
錚々たるジャズ・ミュージシャンたちも、彼女のヴォーカルと同じで自由自在。ジャズを演奏しているときより生き生きとしているようで、これじゃぁぼくとしては困るんですが、それも許しちゃえという気持ちになるほどです。
アッコちゃんもジャズ・ミュージシャンが好きなんだ、そう思ったのがこのアルバムを聴いたときでした。そう言えば、パット・メセニーの『レター・フロム・ホーム』のライナーノーツはユーミンが書いていたことを思い出しました。彼女もパットのファンだったんですね。
異色のライナーノーツと言えば、ソニー・クリスの『アップ・アップ・アンド・アウェイ』は村上春樹が書いていました。彼は作家になる前、千駄ヶ谷あたりでジャズ喫茶をやっていたという話をどこかで聞いたことがあります。
なんだか話が脱線してしまいましたが、きりがないので今晩はここまで。