新作ではないですが、『ハリー細野クラウン・イヤーズ 1974-1977』が最近のお気に入りです。クラウン時代に発表した『トロピカル・ダンディ』と『泰安洋行』に、今回初めてコンプリートな形で登場する伝説のプロモーション・ディナー・ライヴ『ハリー細野 & Tin Pan Alley In Chinatown』、さらにはそのライヴの模様やレコーディング風景などを収めたDVD『ハリー細野 & Tin Pan Alley 1975-1976』の4枚組がその内容です。コンパクトなボックス入りで、132ページのブックレットもつき、しかも全曲リミックスされていて6825円はお買い得でしょう。ぼくはAmazon.comでさらに15パーセント引きで買いました。
この時期の細野さんは、はっぴいえんどの音楽から離れて、国籍不明の東洋風というか、沖縄やハワイやさらにはニューオリンズあたりの音楽まで自分のサウンドとして消化していました。このあとに結成するYMOより、そしてその前のはっぴいえんどより、ぼくはこの時代が好きです。
マーティン・デニーというエキゾティック・ミュージックの創始者がいます。そのひとの音楽から影響されるようになったのがこの時期の細野さんでした。マーティン・デニー風の細野ミュージックといったところでしょうか。とぼけた味も特徴です。
その中でとりわけ好きなのが「北京ダック」「蝶々さん」「香港ブルース」「東京シャイネス・ボーイ」あたりですが、そのほかにも名曲が盛りだくさんで、しかもアレンジもご機嫌です。チャイナタウンのライヴには無名時代の教授も参加していますし、アッコちゃんも加わっています。それもいまとなっては興味深いですね。
ところで「東京シャイネス・ボーイ」といえば、昨年出たDVDの『東京シャイネス』も素晴らしい内容でした。これは細野さんが久々にシンガーとしてライヴ活動を行なったときのツアーを収録したものです。初回限定版には、2005年の「ハイドパーク・ミュージック・フェスティヴァル」でトリを務めたステージが全曲収録されたボーナス・ディスクも入っています。
30年前の細野さんはまだ痩せていましたが、はにかみながら歌っている姿は『東京シャイネス』で観る現在の細野さんと同じです。とぼけた味が、いまとなっては年齢に追いついて、さらにいい雰囲気を醸し出します。それを思うと、30年前に細野さんがやっていた音楽はなんて素晴らしかったことか。ノスタルジーを感じさせる音楽でありながら、時代の先端に位置していたのですから。
ただし、当時を振り返るとこの音楽がそれほど多くのひとに受け入れられていたとは思えません。いってみればルーツ・ミュージックの走りでしょうか。
それだけに、日本よりアメリカのミュージシャンに評価されていたみたいです。ロニー・バロンとの共演もありましたし、はっぴいえんどのラスト・アルバムをプロデュースしたヴァン・ダイク・パークスも、細野さんの音楽には相当注目していたようです。
ブックレットによれば、ヴァン・ダイク・パークスは細野さんのレコードを聴いて、「ホソノをアメリカに入れるな」といったとかいわなかったとか。同じような音楽をやられたんじゃたまったものじゃない、と思ったんでしょう。
そういえば、いまから発売を楽しみしている作品があります。4月に出る『細野晴臣トリビュート・アルバム』です。これは細野さんを信奉する海外のミュージシャンが彼の曲を取り上げたトリビュート物です。そのメンバーがとにかくすごい! これぞ細野さんの真骨頂です。
【参加アーティスト】
・坂本龍一+嶺川貴子
・矢野顕子+レイハラカミ
・高橋幸宏
・ヴァン・ダイク・パークス
・ジョン・サイモン、ジョン・セバスチャン、ジェフ・マルダー&ガース・ハドソン
・ジム・オルーク+カヒミ・カリィ
・テイ・トウワ+ナチュラル・カラミティ
・コーネリアス
・東京スカパラダイス・オーケストラ
・コシミハル
・高野寛+原田郁子(クラムボン)
・畠山美由紀+Bophana+林夕紀子
・リトル・クリーチャーズ
・SakeRock All Stars
・ワールドスタンダード+小池光子
・Vegabond c.p.a
・miroque
・□□□(クチロロ)
これだけのひとが細野さんの音楽に敬愛の念を抱いているのですから、さすがとしかいいようがありません。