ぼくの初エッセイ集です。とうとう出版されました。版元はNHK出版。これは今年の3月までNHK-TVの英語テキストに2年間連載していた「Reading Jazz Bar」に、いくつかの書き下ろしを加えて1冊にまとめたものです。ニューヨーク時代のジャズにまつわる日常をしたためたもので、自画自賛で図々しいとは思いますが、われながら面白い読み物になったと思います。
表紙の写真は1970年代のグリニッチ・ヴィレッジで、写真家の橋本功司さんが写したものです。それを装丁の第一人者である菊地信義さんが素敵な形にしてくれました。この表紙も大変気に入っています。
帯には日野皓正さんが「ぼくも、マックス・ゴードンに見出されたひとりなんだよね。“ヒノ、お前のバンドでいつうちに出るんだよ!”ってね。あのこのろのマンハッタンの匂いがプンプンして懐かしい気分になるよ」とコメントを寄せてくださいました。日野さんとのエピソードも本には登場します。
『となりのウイントン』とはもちろん隣人だったウイントン・マルサリスのことです。別にウイントンのことばかりを書いたわけではありません。編集者や菊地さんの意見で、タイトルを見て「これ、何だろう?」といったものがいいということから、これに決めました。
帯の裏には、ちょっと気恥ずかしいのですがこんなコピーが書かれています。「ジャズ好きが高じてマンハッタンに留学してしまった青年外科医。そんな若き著者と親交を結んだミュージシャンたちのエピソードの数々。ときに笑わせ、ときに胸打つ、待望の初エッセイ集!」
ジャズの話が中心ですが、ジャズ・ファンに向けて書いたものではありません。エッセイということもあって、ジャズ・ファンでなくても楽しめる内容を連載中は心がけていました。自分でいうのも何ですが、ちょっと泣けるところもあったりで、これまでの本とは違ったものになったと思っています。ぼくとしてはかなりの自信作なので、チャンスがあればぜひご覧になってください。
ところで話はまったく変わりますが、20日に発売された『スイングジャーナル』で「読者通信」の頁に「I LOVE JAZZ TESTの復活を望む」という投稿が寄せられました。長崎県大村市・ペンネーム海馬治郎さんから寄せられたものですが、本当にありがとうございました。
これは、ぼくが1984年から20年近く同誌に連載していたものの復活を切望してくださった一文です。毎回ミュージシャンを編集部に招き、何枚かのレコードやCDを聴いてもらい、その音楽やアーティストに対するコメントをいただくものです。それらの一部は8月に出版した『ジャズ・マンが愛する不朽のJAZZ名盤100』(河出書房新社)で紹介しています。
ぼくもこの連載はぜひ再開したいと思っていますが、『スイングジャーナル』のやる気次第といったところでしょう。海馬治郎さんはこう書いてくださいました。
「こういった企画の肝はゲストからいかに面白い話を引き出すかであるが、期待が裏切られたことはまずない。これには聞き手の小川隆夫氏の存在が大きい。彼は堪能な英語力とjazzの歴史を踏まえた高い見識を基礎に、医師という職業柄、鍛えられたインタヴューのスキルを生かし、ゲストから信頼をかちえて、忌憚のない本音の意見を見事に引き出していた」
かなり褒めすぎですが、こう書いていただけるのは本当に嬉しいことです。やっててよかったと思うのは、こういうかたがいることを知ったときですね。心から海馬治郎さんには感謝したいと思います。こういう読者がいることを肝に銘じ、これからも誠実な仕事をしていかなくては、と気分を引き締めました。