駒場東大前にある小さな「Orchard Bar」で始めたこの会も、早いもので数えて10回目になりました。今回は「ニュー・ロックの時代~ソニー編」と題してCBSソニー(現在のソニー・ミュージックエンタテインメント)から出されていたアルバムを集め、その中からぼくが好きな曲を選んで聴く趣向でした。
CBSソニーは、1968年に米CBSのレコード部門であるコロムビア・レコーズと日本のソニーによって設立された会社です。それまでは、日本コロムビア(こちらは現在のコロムビア・ミュージックエンタテインメント)がコロムビアのレコードを出していました。
ところが、日本コロムビアは1960年代中盤以降のロックにあまり注目していなかったんですね。オムニバス盤なんかを出してお茶を濁すことが多くて、輸入盤もそう簡単に入手できなかったぼくたちロック少年は随分歯がゆい思いをしたものです。
そんな状況を一変させたのがCBSソニーでした。毎月リリースされる新譜はもとより、日本で発売されていなかった旧譜も続々登場してきたのですから、こんなに嬉しいことはありません。ただし小遣いが足りないので、やはり指をくわえて見ていた状況にはあまり変わりなかったのですが。
中でも大きな衝撃を受けたのが『スーパー・セッション』です。1968年にアル・クーパーの呼びかけで、マイク・ブルームフィールドとスティーヴン・スティルスが参加して、ジャズでいうところのジャム・セッションを実現させたアルバムです。
まだロックの世界でセッションは特別なものでした。ジャズのように誰でもぶっつけ本番で演奏できる曲がなかったことも理由ですし、他流試合をするほど音楽的に実力が高くなかったことも理由です。それより何より、ロックはグループを組んで演奏するものと相場は決まっていました。いつも一緒にプレイすることによって、個々の技量もグループのサウンドも成長していくものだったからです。
そんな常識を覆したのが『スーパー・セッション』でした。このアルバムは、ぼくたちの間で大きな話題になり、プロもアマも「セッションしようよ」というのが合言葉になったほどです。
そこで、昨日の「ゼミナール」ではアル・クーパーを前半、そして後半はアル・クーパーから始まったブラス・ロックを中心に聴くことにしました。かけた曲はこのようなものです。
【曲目】
1. Like A Rolling Stone/Bob Dylan from 「HIGHWAY 61 REVISITED」(1965)
2. Albert's Shuffle/Al Kooper & Mike Bloomfield from 「SUPER SESSION」(1968)
3. It Takes A Lot To Lough, It Takes A Train To Cry/Al Kooper & Steven Stills from 「SUPER SESSION」(1968)
4. Lookin' For A Home/Al Kooper from 「KOOPER SESSION II」(1969)
5. I Love You More Than You'll Ever Know/Blood, Sweat & Tears from 「CHILD IS FATHER TO THE MAN」(1968)
6. Spinning Wheel/Blood, Sweat & Tears from 「BLOOD, SWEAT & TEARS」(1968)
7. I Stand Alone/Al Kooper from 「I STAND ALONE」(1969)
8. Jolie/Al Kooper from 「NAKED SONGS」(1972)
9. Introduction/Chicago from 「CHICAGO TRANSIT AUTHORITY」(1969)
10. Devil Lady/Dreams from 「DREAMS」(1970)
11. Get It On/Chase from 「CHASE」(1971)
12. Rock Me Baby/Mike Bloomfield, John Hammond & Dr. John from「TRIUMVIRATE」(1973)
13. Mr. Tambourine Man/The Byrds from 「MR. TAMBOURINE MAN」(1965)
14. Evil Ways/Santana from 「SANTANA」(1969)
15.Move Over/Janis Joplin from 「PEARL」(1971)
ニュー・ロックという言葉は、CBSソニーのロック担当者が命名したものだと思います。1960年代後半、ちょうどCBSソニーがコロムビアの作品を日本で発売するようになった前後から、ロックは従来のものと明らかにサウンドも音楽性も違うものになってきました。
ジャム・セッションもそうした動きのひとつですし、ブラス・ロック・バンドが登場するようになったのもこのころからです。ニュー・ロックとはいい得て妙ではありませんか。ロックはこの時期を境に多彩な音楽へと変化していきます。それは、ジャズがフュージョンへと広がっていったこととも無縁でありません。その象徴的な回答がブラス・ロック・バンド、昨日聴いた中ではドリームスの存在にあったように思います。
このあたりのことは、昨日いらしてくださった皆さんにはご理解いただけたんじゃないでしょうか。そうそう、遅れましたが、お忙しい中をわざわざいらっしゃってくださったみなさんには心からお礼を申し上げます。
ところで、ひょっとするとこの「ゼミナール」は今回で終了かもしれません。いまの時点ではまだわかりませんが。「いつの間にか終わっちゃったんだねぇ」とかいわれるのがいやなので、一応ここに書いておきます。
今晩は「ブルーノート東京」にチック・コリアを聴きにいってきます。土・日には「東京JAZZ」もありますし、2日目の3日は2時から10時55分(!)までの長時間ライヴ中継(NHK-FM)にコメンテイターとして出演します。当日、会場に行けないかたは時間があればラジオを聴いてみてください。