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川隆夫の JAZZ BLOG
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©Kozocom (photo by Shuichi Kasahara)
職業:JAZZジャーナリスト、整形外科医、DJ

ニューヨーク大学の大学院在学中にアート・ブレーキーやマルサリス兄弟など数多くのミュージシャンと知り合う。帰国後、JAZZを中心に約3000本のライナーノーツを手がけると共にJAZZ関連の著書を多数出版。ブルーノートの完全コレクターとしても有名。その他、マイルス・デイヴィスやブルーノートの創始者アルフレッド・ライオンの来日時の主治医を勤めるなど、現役の整形外科医としても第一線で活躍中。

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2006-07-10 マイ・コレクション~ブッチャー・カヴァー
 たまにはぼくのコレクションも紹介しましょう。今回はビートルズの珍しいレコードから。これはアメリカ盤で、《ブッチャー・カヴァー》と呼ばれているものです。

 ビートルズのレコードは、初期のころは各国で内容の違うものが発売されていました。とくにアメリカでは、イギリス盤より曲目を少し減らして、それで稼いだ分にシングル盤のみで発売された曲を合わせて、イギリスでは出ていないアルバムを何枚か作っています。
 1966年6月にアメリカのキャピトルから発売された『YESTERDAY…AND TODAY』もそんなアルバムのひとつです。このような内容でした

2006-07-10 マイ・コレクション~ブッチャー・カヴァー_e0021965_23125174.jpg【Side A】
1. Drive My Car
2. I'm Only Sleeping
3. Nowhere Man
4. Dr. Robert
5. Yesterday
6. Act Naturally

【Side B】
1. And Your Bird Can Sing
2. If I Needed Someone
3. We Can Work It Out
4. What Goes On
5. Day Tripper

 収録されたのは、このひとつ前に発売されたアメリカ盤『ラバー・ソウル』で漏れた4曲(A①③、B②④)、シングルで発売済の4曲(A⑤⑥、B③⑤)、次回作『リヴォルバー』からの3曲(A②④、B①)というものです。
 アルバムのジャケットには、《ブッチャー・カヴァー》と呼ばれる写真が用いられる予定でした。ビートルズの4人が白衣を着て、解体された肉を膝に乗せ、4人が残酷そうな笑みを浮かべている写真は、ひと目見ただけで十分に問題になりそうでしょう? 一緒に写っているばらばらになった人形は胎児を連想させますし。
 下のジャケットがモノラル盤です。
2006-07-10 マイ・コレクション~ブッチャー・カヴァー_e0021965_23144060.jpg

 アメリカのみで発売された編集盤ですが、ジャケット写真はイギリスでリリースされたシングル盤「ペイパーバック・ライター/レイン」にも使われる予定でした(のちに写真は変更されます)。そのジャケットを、発売元の英EMIは『ニュー・ミュージカル・エキスプレス』誌の広告に使っています。また『ディスク・アンド・ミュージック・エコー』紙の一面にも別ヴァージョンのカラー写真が掲載されました。
 ところがあまりにもこれらの評判が悪かったため、ビートルズのイメージを大きく損なう恐れがあると判断したEMIは、キャピトルに写真の使用禁止を通達します。こうして発売寸前に、その写真をジャケットに用いたレコードがは回収されることになりました。

 ここからが本題です。回収は決定したものの、新しいジャケットが間に合わないんですね。そこで急場のしのぎとして、初回出荷分には《ブッチャー・カヴァー》の上に新しいスリックを貼りつけたレコードが売り出されました。
 また一部ですが、通知が間に合わず、《ブッチャー・カヴァー》のまま出荷されたものもありました。こうして《ブッチャー・カヴァー》はビートルズのキャピトル盤における最大のコレクターズ・アイテムになったのです。
 もっとも高値で取り引きされているのは、《ブッチャー・カヴァー》のままで売られた《ファースト・ステート》と呼ばれるオリジナル盤です。
 次が《ペイスト・オーヴァー》で、こちらはスリックが《ブッチャー・カヴァー》の上に貼られた状態(PASTE-OVER)のジャケットを意味しています。新しいジャケットは白地に4人が映った《トランク・カヴァー》と呼ばれるものです(曲目の右側に掲載したデザイン)。白地の右はし中央付近(「Today」の文字の下)に《ブッチャー・カヴァー》に写ったリンゴの頭が透けて見えれば、それが《ペイスト・オヴァー》です。
 そしてもうひとつ、《ピールド・カヴァー》と呼ばれるものがあります。こちらはそのスリックを剥がして(PEELED)、《ブッチャー・カヴァー》を露出させたものをいいます。下に《ブッチャー・カヴァー》が隠されていれば、剥がしてみたくなりますよね。
 しかしこれがやっかいで、粘着力の強い糊が使われていたため、なかなか綺麗に剥がせません。そのため、途中で破けてしまったものや、《ブッチャー・カヴァー》まで一緒に剥がしてしまったものなど、程度の悪い《ピールド・カヴァー》が残されることになりました。
 ぼくが持っているのは、《ピールド・カヴァー》です。どちらもまあまあの状態で剥がされています。上のジャケットを見て下さい。右上の一部が白くなっているのは、一緒に剥がれてしまったためです。それでも、これは綺麗な部類に入るでしょう。
 当時はステレオ盤とモノラル盤の両方が発売されています。珍しいのはステレオ盤です。《ブッチャー・カヴァー》自体、程度がいいのは滅多に出回りません。出回ったとしても大半がモノラルで、ステレオ盤は入手が非常に困難だと思います。
 これがそのステレオ盤で、こちらはモノラル盤よりコンディションが良好です。
2006-07-10 マイ・コレクション~ブッチャー・カヴァー_e0021965_23202022.jpg


 違いは上部に「NEW IMPROVED FULL DIMENSIONAL STEREO」と書かれていることです。

 これらのレコードはニューヨークの中古盤屋で見つけました。どちらも10年ほど前のことですが、相場より相当安い値段で手に入れることができました。オークションなどでは何度か出ていましたが、売りに出されたステレオ盤の実物をこの目で見たのはこれが最初で最後です。
 ほしいレコードは見つけたときに買う。これが鉄則です。いまにしてみれば、そのことを守ってよかたなぁと思っています。
by jazz_ogawa | 2006-07-10 23:42 | マイ・コレクション | Trackback | Comments(4)
Commented by Reiko at 2006-07-11 00:20 x
はじめまして。
ビートルズ・コレクションをブログ形式でアップしています。
ビートルズのレコード盤まだまだわからないこと多いわたしです。

ブッチャー・カヴァーの詳しいこと知らなかったので、
とても参考なりました。なんかうれしいです。

ブッチャー・カヴァーのモノとステレオ凄いです。
わたしには、あこがれの盤です。

これからも、拝見させていただきます。
Commented by jazz_ogawa at 2006-07-11 00:39
Reikoさん、ブログ拝見しました。かなりのマニアとお見受けしました。今後ともよろしく。
Commented by forcek at 2006-07-11 13:16 x
小川さん、確かにこの「ブッチャー・カヴァー」は一目見ただけで忘れられないですよねー(どうしても俺はアブドーラザ・ブッチャーを思い出してしまいますー笑)これってカメラマンのロバート・ウィタカーのアイディアだったんですかー、ジョン・レノンだけがノリノリだったと言われてますが、前に紙ジャケCDでも出てましたよねー。「ペイパーバック・ライター/レイン」もこれの予定だったんですかー、イメージがガラーっと変わってましたね(笑)小川さん「ファースト・ステート」や「ペイスト・オーヴァー」等小川さんのハンパじゃないコレクター道は一生邁進しつづけるんでしょうね(笑)
Commented by jazz_ogawa at 2006-07-11 14:29
forcekさん、「ファースト・ステート」や「ペイスト・オーヴァー」は死ぬまでに一度は手にしてみたいですよね。でも、現物にお目にかかれるチャンスがないし、あったとしても目玉が飛び出るように高いだろうし。その悩みがコレクターにとっては、また楽しいんですけどね。ちょっと自虐的ですが(笑)。
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