たまにはぼくのコレクションも紹介しましょう。今回はビートルズの珍しいレコードから。これはアメリカ盤で、《ブッチャー・カヴァー》と呼ばれているものです。
ビートルズのレコードは、初期のころは各国で内容の違うものが発売されていました。とくにアメリカでは、イギリス盤より曲目を少し減らして、それで稼いだ分にシングル盤のみで発売された曲を合わせて、イギリスでは出ていないアルバムを何枚か作っています。
1966年6月にアメリカのキャピトルから発売された『YESTERDAY…AND TODAY』もそんなアルバムのひとつです。このような内容でした
【Side A】
1. Drive My Car
2. I'm Only Sleeping
3. Nowhere Man
4. Dr. Robert
5. Yesterday
6. Act Naturally
【Side B】
1. And Your Bird Can Sing
2. If I Needed Someone
3. We Can Work It Out
4. What Goes On
5. Day Tripper
収録されたのは、このひとつ前に発売されたアメリカ盤『ラバー・ソウル』で漏れた4曲(A①③、B②④)、シングルで発売済の4曲(A⑤⑥、B③⑤)、次回作『リヴォルバー』からの3曲(A②④、B①)というものです。
アルバムのジャケットには、《ブッチャー・カヴァー》と呼ばれる写真が用いられる予定でした。ビートルズの4人が白衣を着て、解体された肉を膝に乗せ、4人が残酷そうな笑みを浮かべている写真は、ひと目見ただけで十分に問題になりそうでしょう? 一緒に写っているばらばらになった人形は胎児を連想させますし。
下のジャケットがモノラル盤です。
アメリカのみで発売された編集盤ですが、ジャケット写真はイギリスでリリースされたシングル盤「ペイパーバック・ライター/レイン」にも使われる予定でした(のちに写真は変更されます)。そのジャケットを、発売元の英EMIは『ニュー・ミュージカル・エキスプレス』誌の広告に使っています。また『ディスク・アンド・ミュージック・エコー』紙の一面にも別ヴァージョンのカラー写真が掲載されました。
ところがあまりにもこれらの評判が悪かったため、ビートルズのイメージを大きく損なう恐れがあると判断したEMIは、キャピトルに写真の使用禁止を通達します。こうして発売寸前に、その写真をジャケットに用いたレコードがは回収されることになりました。
ここからが本題です。回収は決定したものの、新しいジャケットが間に合わないんですね。そこで急場のしのぎとして、初回出荷分には《ブッチャー・カヴァー》の上に新しいスリックを貼りつけたレコードが売り出されました。
また一部ですが、通知が間に合わず、《ブッチャー・カヴァー》のまま出荷されたものもありました。こうして《ブッチャー・カヴァー》はビートルズのキャピトル盤における最大のコレクターズ・アイテムになったのです。
もっとも高値で取り引きされているのは、《ブッチャー・カヴァー》のままで売られた《ファースト・ステート》と呼ばれるオリジナル盤です。
次が《ペイスト・オーヴァー》で、こちらはスリックが《ブッチャー・カヴァー》の上に貼られた状態(PASTE-OVER)のジャケットを意味しています。新しいジャケットは白地に4人が映った《トランク・カヴァー》と呼ばれるものです(曲目の右側に掲載したデザイン)。白地の右はし中央付近(「Today」の文字の下)に《ブッチャー・カヴァー》に写ったリンゴの頭が透けて見えれば、それが《ペイスト・オヴァー》です。
そしてもうひとつ、《ピールド・カヴァー》と呼ばれるものがあります。こちらはそのスリックを剥がして(PEELED)、《ブッチャー・カヴァー》を露出させたものをいいます。下に《ブッチャー・カヴァー》が隠されていれば、剥がしてみたくなりますよね。
しかしこれがやっかいで、粘着力の強い糊が使われていたため、なかなか綺麗に剥がせません。そのため、途中で破けてしまったものや、《ブッチャー・カヴァー》まで一緒に剥がしてしまったものなど、程度の悪い《ピールド・カヴァー》が残されることになりました。
ぼくが持っているのは、《ピールド・カヴァー》です。どちらもまあまあの状態で剥がされています。上のジャケットを見て下さい。右上の一部が白くなっているのは、一緒に剥がれてしまったためです。それでも、これは綺麗な部類に入るでしょう。
当時はステレオ盤とモノラル盤の両方が発売されています。珍しいのはステレオ盤です。《ブッチャー・カヴァー》自体、程度がいいのは滅多に出回りません。出回ったとしても大半がモノラルで、ステレオ盤は入手が非常に困難だと思います。
これがそのステレオ盤で、こちらはモノラル盤よりコンディションが良好です。
違いは上部に「NEW IMPROVED FULL DIMENSIONAL STEREO」と書かれていることです。
これらのレコードはニューヨークの中古盤屋で見つけました。どちらも10年ほど前のことですが、相場より相当安い値段で手に入れることができました。オークションなどでは何度か出ていましたが、売りに出されたステレオ盤の実物をこの目で見たのはこれが最初で最後です。
ほしいレコードは見つけたときに買う。これが鉄則です。いまにしてみれば、そのことを守ってよかたなぁと思っています。