昨日はカナダ大使館、そして今日はキリスト品川教会に行ってきました。どちらも普段は縁のないところです。何故そんなところに行ってきたかというと、それぞれの場所でレコード会社のプロモーション・イヴェントがあったからです。
まずは今日のイヴェントから。これは嬉しい内容でした。何しろ目の前でエルヴィス・コステロとアラン・トゥーサンが、ふたりだけでミニ・ライヴを開いたからです。27日に発売された両者のプロジェクト作品『ザ・リヴァー・イン・リヴァース』のショーケースです。
コステロは6月2日に一度だけのコンサートを東京フォーラムで開きます。それに合せて、ニューオリンズの伝説的なミュージシャンにしてプロデューサーのアラン・トゥーサンを招き、今日のお昼過ぎから品川の教会でプロモーション・イヴェントが開かれました。
昨年の夏、ハリケーン・カトリーナがニューオリンズを直撃しました。その直後に、ウイントン・マルサリスの呼びかけで、チャリティ・コンサートがニューヨークで開かれています。ふたりによる久々の共演がそのときに実現しました。
そこで意気投合した彼らは、さっそく共演作品の制作に着手します。そして、先日ニューオリンズで開かれた音楽フェスティヴァルの「ニューオリンズ・ジャズ&ヘリテッジ」にも登場して大反響を巻き起こしたのです。
そのことをニュースで知ったぼくは、このアルバムの発売を心待ちにしていました。そんな矢先に届いたのが、プロモーション・ライヴの招待状でした。
ふたりのミニ・ライヴに先立って、シンガーの中島美嘉が登場しました。トゥーサンがピアニストとして参加したシングル盤「ALL HANDS TOGETHER」を6月7日にリリースするからです。ステージでは、この曲と「What a Wonderful World」を、トゥーサン+バック・バンド+20名くらいの黒人コワイアと共に歌いました。なお、このシングルの売り上げ金は一部がニューオリンズへの義援金になります。
トゥーサンつながりとニューオリンズつながり。こうやって音楽の輪が広がっていく姿を見るのは気持ちがいいことです。トゥーサンがステージで語っていました。「カトリーナは大きな災害をもたらしたが、ミュージシャンにはブッキング・エージェントのような役割を果たしてくれた」
たしかにその通りです。カトリーナ以降、世界のあちこちでニューオリンズのミュージシャンがコンサートやライヴを開く機会が持てるようになりました。そして今日のような、考えもつかない共演も実現しているのです。
教会でプロモーション・イヴェントを開いたのもグッド・アイディアです。400人も入れば一杯になる中規模の教会で、コステロがトゥーサンのピアノだけをバックに歌い、ときにギターを持ち、曲によってはふたりでデュエットをします。1曲目の「ザ・シャーペスト・ソーン」では、途中でステージから降り、聴衆の中に入って生声でも歌ってみせました。
シンガーとして、現在もっとも油が乗っているコステロ。教会の荘厳な雰囲気の中で、ニューオリンズ伝来のソウルフルな歌をうたう姿は感動的でもありました。独特の雰囲気を持つトゥーサンのピアノも渋い味わいで、コステロの歌を盛り上げます。何と心の温まるひとときだったでしょうか。
しかしぼくには本業があるので、4曲目が終わったところでうしろ髪を引かれながら会場をあとにしました。帰りにもらったセット・リストによれば、全部で11曲を歌ったようです。その中にはアルバム未収録の曲もいくつかありました。残念でしたが、本業があるからこそ音楽の仕事もあると思っているので、これも仕方のないことです。
昨日のカナダ大使館では、新人シンガーのソフィー・ミルマンによるプロモーション・ライヴがありました。大使館の地下2階にあるホールが会場で、こちらは200席強といった広さでしょうか。
彼女は、3月に全米発売されたデビュー・アルバム『ソフィー・ミルマン』が日本のHMVやタワー・レコードでジャズの売り上げナンバー・ワンになり、iTUNES USAでもジャズ・アルバムの週間チャートで1位を獲得するなど、内外で注目を集めています。アルバムは日本でも7月の発売が決定し、そのためのプロモーションとしてライヴが開催されました。
ソフィーは23歳の大学生です。年齢のわりに堂々とした歌唱で、ジャズ・シンガーとしていい雰囲気を持っていると思いました。若いのに保守的な歌をうたう彼女です。低音をいかしたヴォーカルはジャズ・シンガーの王道を行くもので、好感が持てました。
どうしてカナダ大使館でこのイヴェントが開かれたかといいますと、ソフィーがカナダに在住しているからです。生まれはロシアで、その後にイスラエルを経てカナダに移住した経歴が、若いのに彼女の歌を熟成させたのかもしれません。この日も英語、フランス語、ロシア語で歌いましたし、今度は日本語でも何か歌ってくれるかもしれません。楽しみなシンガーが登場したことは間違いありません。今後の活躍を見守っていきたいと思います。