ミュージシャンもひとの子。いろいろな趣味を持っているひとがいます。先日、久しぶりにブランフォード・マルサリストと会ったので、今日は彼の趣味について紹介しましょうか。
もう何度も自慢(?)していますが、ぼくはニューヨーク大学に留学していたときに、ブランフォードとウイントンのマルサリス兄弟と隣組でした。こちらはオンボロ・アパート、あちらはドアマンつきの高級アパートでしたが、建物は隣り合わせです。
1987年、斑尾で
そのころのブランフォードの趣味がベースボール・カード集めでした。ぼくたちが住んでいたのはブリカー・ストリートで、ここはグリニッチ・ヴィレッジの目抜き通りといってもいいところです。とはいっても、賑やかなのはラガーディア・プレースから西に向かって7番街あたりまでで、アパートがあったのはラガーディア・プレースより1ブロック東のマーサー・ストリートでした。
その賑やかな一角からサリヴァン・ストリートやマクドゥーガル・ストリートに入ったところに、ベースボール・カードやアメリカン・コミックスを売っている店がいくつかあったんですね。そこに出入りしては、近所の子供たちに混ざってトレードしたり買ったりしていたのがブランフォードでした。彼に会いたければアパートに行くよりそっちを探したほうが早い。そういわれていたのがブランフォードです。
聞けば、コレクションを始めたのは小学校に入る前からだったとか。それで、当時はすでに立派なコレクションを持っていました。ツアーに行けば、地元のカード屋さんをチェックしては珍しいものも買い込んでいたようです。
その後は人気テレビ番組の『トゥナイト・ショウ』にレギュラー出演するようになり、誕生日の直前に司会のジェイ・レノがこの趣味のことを話題にしたので、当日は全国から山のように野球カードが送られてきてほくほくだったという話も聞きました。これなどブランフォードの策略で、わざとジェイ・レノにいってもらったのかもしれません。
野球好きのブランフォードです。関連する趣味はカードだけにとどまりません。ベースボール・キャップもひところは熱心に集めていました。あるとき彼のアパートに行ったら、巨人と広島の野球帽までありました。そして嬉しそうに見せてくれたのが、桑田投手のカードでした。日本ツアーで買ってきたそ
留学中にマルサリス兄弟のアパートで うです。そのとき
は、なぜか日本の学生服も買い込んでいました。どうするんだ? と聞いたところ、これでステージに出るというから、それはやめたほうがいいと忠告したんですが、どうだったんでしょう? ブランフォードのことだから、巨人軍の帽子を被って学ラン姿でステージに立ったかもしれません。
あとは、妙なものに凝っていたことも思い出しました。ロッテのブラック・ガムです。日本でのことですが、これを箱ごと買って、ひところはいつもくちゃくちゃやっていたんですが、そういえば最近はそんな姿を見かけなくなりましたね。
もう、アットランダムにエピソードを書いていきましょう。ぼくが隣組だったときに、ウイントンのグループで日本ツアーがありました。それで日本語を教えてほしいといってきたんです。どんなことだと思います?
「ゲーム・センターはどこですか?」と「マクドナルドはどこですか?」というものでした。
当時のブランフォードはパックマンにはまっていたんですね。アパートの近くにあったニューヨーク大学の学生会館や、ラガーディア・プレースとブリーカー・ストリートの角にあったバーでパックマンに興じている姿をよく目にしました。あとは出演する予定もないのに「セヴンス・アヴェニュー・サウス」(ブレッカー・ブラザーズが経営していたジャズ・クラブ)の1階にあったゲーム機でも遊んでいましたね。
マクドナルドに関しては、マック・シェイクが大好物で、「ブルーノート」の斜め前にあるマックでいつも買っていました。ここは先に書いたカード屋さんの近くです。マクドナルドの日本語的発音に苦労していたようですが、そこはミュージシャン、耳がいいんでしょう。完璧な発音をマスターして日本に乗り込みました。
もうひとつ、面白い話を。青山にあるジャズ・クラブの「ボディ&ソウル」は住宅街の中にあって、ちょっと場所がわかりにくいんですね。前回来日したときに、「ブルーノート東京」で演奏を終えたあとに、ブランフォードと「ボディ&ソウル」に行くことになりました。それで、ぼくは普通に通りをわたってその先にある角を曲がろうとしたところ、彼がこっちだというんです。
ブランフォードは骨董通りに面したマンションの駐車場にある通路を抜けるとすぐ裏手に出られるからと、近道を教えてくれました。それまでは骨董通りの先まで行ってからぐるっと回って裏通りに入っていたのですが、こんな抜け道(?)があったとは知りませんでした。以来、ぼくもこの駐車場の通路を利用しています。
まさにブランフォードはぼくにとっての「愛しのJazz Man」です。