驚きました。まるで何かが憑依したかのようにケニー・ギャレットが吹きまくってくれたからです。ここまでやるとは思いませんでした。1曲目はオリジナルのブルースでしたが、10分以上にわたってものすごい勢いでサックスを吹き続けました。コルトレーンのフリー・ジャズよりアグレッシヴな感じでした。『アセンション』より過激なプレイを、ケニーが体を前後にゆすりながら吹きまくる姿を想像してみてください。
圧倒的なスピード感と、かたときもフレーズをストップさせない集中力。前回は3年くらい前に聴いたと思いますが、あのときはこんな風ではありませんでした。いつからこうなったのか、それとも今回が特別なのか。一心不乱に吹きまくるケニーの姿に驚ろかされると同時に、年を重ねるにつれてアグレッシヴになってきたことにいい意味で凄いなぁと思いました。
コルトレーンのことを考えていたら、2曲目が「ジャイアント・ステップス」だったんで、ひとりでにやりとしました。これまた凄い勢いで吹きまくります。この間、ケニーはずっと横向きかうしろ向きかで、ステージが始まってから一度も前を向きません。結局最後の演奏まで客席に顔を向けず、常にメンバーに視線を向けていました。
ワン・ホーンのカルテット編成でしたが、メンバーもよかったです。とくにドラマーが若いのにばねがあって、柔軟かつ強力なドラミングで、ケニーもやっていて気持ちよさそうでした。
3曲目は、ピアノとのデュエットで「赤とんぼ~アリラン~翼をください~とうりゃんせ」のメドレーでした。それぞれテーマを数回ずつ吹くだけでソロは一切ありません。最初の2曲が超の字が3つも4つもつくほど過激だったので、ソプラノ・サックスに持ち替えて美しいメロディを美しい音色で聴かせてもらえて、これはこれでとても心地がよいものでした。
ニューヨークのジャズ・クラブで聴く日本と韓国のメロディ。ぼくは悪くないと思います。ケニーがライヴで必ず日本の曲を吹くのは、こよなく日本の文化を愛しているからです。何しろ、自腹を切って東京にある日本語学校に何度か来ているほどなんですから。
4曲目は、一転してファンク調の曲になりました。ケニーのアルト・サックスはシンセサイザーと繋がっていて、フット・ペダルで音が変調するようになっています。ただし、これはまだ小手先でやっている感じで、形になるにはもう少し時間が必要でしょう。途中でそのシンセサーザーも弾きましたが、ピアノのバックでコードを弾く程度で終わりました。マイルスのような使いかたをするのかな? と思っていたんですが、これは考え過ぎだったようです。
これでステージは終り、最後のところでメンバー紹介をしたんですが、マイクのヴォリュームが低くて聞き取れません。メンバーの名前が知りたいところです。
ケニーとは留学時代に知り合いましたから、25年くらいのつき合いになります。15年くらい前にぼくがプロデュースしたレコーディングにも参加してもらいましたし、一時は彼のリーダー作も作る予定で何度か打ち合わせをしたこともありました。これは結局実現しませんでしたが。
ライヴが終わったところで楽屋を訊ねてみました。いつもなら日本語で話しかけてくるケニーですが、挨拶だけであとは英語です。最近は日本語を話していないようで、忘れてしまったとのことでした。以前ならほとんどが日本語で、難しい話になるときだけ英語に切り替えていた彼です。ちょっともったいない気がしました。
気になっていたメンバーの名前は、ケニーが紙に書いてくれました(右の写真)。ピアノがBenito Gonzalez、ベースがKris Funn、そしてドラムスがJameri Williamsです。
聞けば、新作のレコーディングも終わっていて、夏にノンサッチから出るそうです。ボビー・ハッチャーソンやマルグリュー・ミラーが参加しているとのことですから、今回のようなアグレッシヴな演奏ではないかもしれません。それでも、いまから発売がおおいに楽しみです。
前日(3日)の夜は雨が降ってちょっと寒かったんですが、昨日は朝から暑いくらいで、夜になったらちょうどいい感じになりました。そこで行きも帰りも「バードランド」まで歩いて行きました。
左の写真は、帰りに42丁目で写したものです。携帯で撮ったため写りは悪いですが、ビルとビルの間ににいい感じでクライスラー・ビルが見えます。左側の低い建物はグランド・セントラルです。
春のニューヨーク。この時期がぼくは好きですね。