Ann Burton & Kimiko Kasai Joint Recital 1973.3.3 郵便貯金ホール & 3.16 ミスティ
笠井紀美子は大好きなシンガーだったし、それ以上に気に入っていたアン・バートンの初来日は見逃せない。このときは、バートンが「ミスティ」で実況録音もしたので、そちらも観ることができた。ホールよりクラブでのステージの方が出来は良かったと記憶している。
『伝説のライヴ・イン・ジャパン 記憶と記録でひもとくジャズ史』よりhttps://amzn.asia/d/bVUdQzg

『アン・バートン/ミスティ・バートン』(LP)
CBS・ソニー/Epic ECPM 20
[Side One]
① 小さな愛(バリー・マン&シンシア・ウェイル)3:01
② オー・ベイブ(エイリーン・シルヴィア・シムズ)5:55
③ ブルーがグレイに(ファッツ・ウォーラー&アンディ・ラザフ)4:55
④ あきらめないでね(バリー・マン&シンシア・ウェイル)4:57
⑤ 女が男を愛するとき(ジョニー・マーサー、ラフェ・ヴァン・ホイ&マーク・ルナ)2:29
⑥ 君の友だち(キャロル・キング)3:34
[Side Two]
⑦ フリム・フラム・マン(ローラ・ニーロ)2:43
⑧ イッツ・トゥ・レイト(トニ・スターン、キャロル・キング)3:05
⑨ 浮気はやめたわ(アンディ・ラザフ、ファッツ・ウォーラー&ハリー・ブルックス)3:14
⑩ シンプル・ソング(コリン・スコット)4:47
⑪ マイ・マン(アルバート・ウィルメッツ&チャニング・ポラック、ジャック・チャールズ&モーリス・イヴァン)3:57
⑫ さよならを言うのはつらい(ビリー・リード)1:43
アン・バートン(vo) ケン・マッカーシー(p) 稲葉國光(b) 村上寛(ds)
1973年3月16日 東京・六本木「ミスティ」で実況録音
日本で存在すら知られていなかったアン・バートン(1933年3月4日 - 1989年11月29日)の人気に火がついたのは、1969年に『ブルー・バートン』(CBS・ソニー)が発売されたことによる。岡崎市在住の医師でジャズの熱烈な後援者である内田修が学会参加のため渡欧し、そのときに各国で日本未発売のLPを買い求めてきたのが切っかけだ。それらを各レコード会社の担当者に聴かせたところ、オランダのシンガーであるバートンのデビュー作『ブルー・バートン』の発売が決まる。
このときは、ドイツで出ていたMPSの諸作も持ち帰り、こちらは日本コロムビアがレーベル契約をし、国内発売が始まった。
『ブルー・バートン』はかなりのベストセラーとなり、71年には2作目の『バラード&バートン』(同)が発売され、これが人気の決定打となる。アンニュイな雰囲気を湛えた歌声はジャズ・ヴォーカルのイメージを一新させるもので、穏やかで落ち着いた表現が多くのひとの心に届いたのである。
バートンの初来日は73年のこと。このときはピアニストのケン・マッカーシーを伴ってのものだった。第1部を笠井紀美子が務めたホール・コンサートが各地で行なわれ、東京では「東京郵便貯金ホール」以外に、六本木の「ミスティ」でも限られたファンを対象に素晴らしいステージが繰り広げられた。
凛としたバートンのヴォーカルは、「これまでやったことがない」というホール・コンサートより、こぢんまりとしたクラブで聴くのがいい。この来日では稲葉國光と村上寛がマッカーシーとトリオを組み、伴奏にあたっている。その「ミスティ」のステージを収録したのがこのアルバムだ。
バートンは、ジャズ・シンガーといってもポピュラー・ヒットもレパートリーに取り入れることで、多くのファンを獲得してきた。ひところのペギー・リーやジュリー・ロンドン的選曲だが、歌唱スタイルは彼女たちほど本格派でない。そのほうが曲に合っている。というか、しっとりとした歌い方をするから、本作の〈君の友だち〉〈フリム・フラム・マン〉〈イッツ・トゥ・レイト〉といった曲が魅力的に聴こえる。
カーメン・マクレエの持ち歌である〈小さな愛〉にしても、ビリー・ホリデイでお馴染みの〈マイ・マン〉にしても、バートンは本家ほど情感を込めて歌わない。サラリと流すところが聴きやすさに繋がった。実質的にはジャズ・シンガーでありながら、ポピュラー・シンガーとしての要素も持ち合わせている。そこが多くのファンに支持された理由だ。そのことを証明したのがこのライヴ盤である。