ウイントン・マルサリスたちの動きとは別に、1980年代に入ると若いミュージシャンがヒップ・ホップとジャズを結びつけた試みを開始する。そこから始まって、ロンドンを中心に巻き起こったのが“ジャズで踊ろう”のムーヴメント。
1990年代になると、古いジャズの音楽をリミックスしたり、新たにリズムを加えたりするクラブ・ジャズが注目を集めるようになった。そして最近では、ジャム・バンドと呼ばれる即興性を重視し、なおかつダンス・ミュージックにも適した音楽がクラバーたちの間で評判を博している。
21世紀に入ってジャズはさらに多角的な方向に向かうようになった。そしてこの先も、ぼくたちの想像がつかない形で楽しませてくれるに違いない。
★キーパーソン:ノラ・ジョーンズ

ノラ・ジョーンズは“ジャズのいま”を体現している。ジャズは年々スタイルを多様化させ、形式にもこだわらなくなってきた。彼女の歌はそのことを見事に物語っている。ジャズのフィーリングはあるものの、ノラの歌にはフォーキーな土の香りがする。そこが9・11のテロで傷ついたひとびとの心を癒してくれた。
デビュー作『ノラ・ジョーンズ』が全世界で1500万枚以上も売れたのは、素朴な歌声の中に希望の光が見えたから。大向こうを唸らす派手さはないが、誠実で優しい歌声。それが世界中で愛される理由だ。
ジャズと思ってノラの歌を聴いているひとはどのくらいいるのだろう? でも、それでいいと思う。ジャズという言葉をことさら意識せずに楽しむ。そこからまずは始めてみよう。