2006-01-13 チャーリー・ワッツ・インタビュー(後編)
先日に続いてチャーリー・ワッツ・インタビューの後編です。今回も彼のジャズ・マニアぶりがうかがえる内容だと思います。

「フェイバリット・アルバムの筆頭は何と言ってもトニー・ウィリアムスのライフタイムが最初に発表した『エマージェンシー』(ポリドール)。あの作品からはドラマーとして大きな影響を受けている。あと好きなドラマーをこれまでに挙げたひと以外で言うなら、アート・ブレイキーだね。彼のリーダーシップには恐れいる。しかも彼のスタイルはこの40年くらいほとんど変わっていない。それにもかかわらず、いまもってプレイが新鮮なんだから驚きだ。何と言ったかな? ブレイキーが日本のドラマーと共演したレコードがあったね。2年前にロンドンでそのアルバム(ジョージ川口との『キラー・ジョー』)を聴いたけれど、あれも印象に残っている。ブレイキーのいいところは、聴いたひとすべてを魅了してしまう点だ。ハンク・モブレーがいたころのジャズ・メッセンジャーズが個人的には好きだけれど、どの時代の作品も傾聴に値するんじゃないかな。マイルスと同じなんだ。若いひとを育てるのと、常にジャズのトップ・ミュージシャンでいるということにおいて、ブレイキーはね」
「ウイントンにしたってブランフォードにしたって、実質的にはブレイキーのバンドから出てきたわけだし、長いこと若い才能を育ててきた彼の活動には敬服してしまう。話はちょっと飛ぶけれど、この間聴いたエルヴィン・ジョーンズのバンドにいた若いトランペッター(ニコラス・ペイトンと思われる)も凄かった。名前は忘れてしまったが、とにかくアメイジング。彼らのようなヴェテランが若手を育てていることは何て素晴らしい現実だろう」

「好きな作品は沢山あって挙げるのが難しい。思いつくままに言えば、マイルスの『フォア・アンド・モア』(ソニー)、パーカーの『スウェディッシュ・シュナップス』(ヴァーヴ)、アート・ペッパーの『ミーツ・ザ・リズム・セクション』(コンテンポラリー)、ベニー・グッドマンの『カーネギー・ホール・コンサート』(ソニー)、ミンガスの『プレイズ・ピアノ』(インパルス)、それから彼がパーカーやバド・パウエルなんかとやった『ライヴ・アット・マッセイ・ホール』(デビュー)。これはジャズの歴史的な傑作だ。とにかくきりがない」
「あと、好きなドラマーはエド・ブラックウェル、メル・ルイス、シェリー・マン、ダニー・リッチモンド。何て言うかな、ハートに感じればスタイルに関係なく好きになってしまう。ドラマー以外ならチェット・ベイカーもいい。1950年代のウエスト・コースト・ジャズっていうのはムードがあるからね。中でもベイカーは素晴らしい。彼はワン・ノートでチェット・ベイカーだとわかるサウンドを持っていた。マイルスもそうだし、ベン・ウェブスターもそうだった。非常にオリジナリティのあるミュージシャンということだ。『スケッチ・オブ・スペイン』(ソニー)なんかマイルスそのもののサウンドに満ちている。そうそう、日本ではベイカーのパシフィック時代の作品がCDになっているね。イギリスやアメリカじゃまだCD化されていない作品が沢山あるから早速レコード・ショップへ行ってチェックしなくちゃ」
「ビル・エヴァンスも好きなミュージシャンのひとりでね。以前、『シェリーズ・マン・ホール』に出演している彼を聴きに行ったことがある。結局、3セット全部聴いてしまったよ。本当にあのときの演奏は素晴らしかった。彼に話かけようと思ったけれど、気遅れしてしまったというか、近寄り難い雰囲気があってできなかった。シェリー・マンとはそのときに話せたけれどね」
「好きなジャズ・クラブ? ニューヨークの『ヴィレッジ・ヴァンガード』かな。ニューヨークに行くたびに月曜はメル・ルイスのオーケストラを聴きに行くんだ。彼がついこの間亡くなったって聴いて本当にびっくりしたけれど、テクニック的なことなんかを随分アドヴァイスしてくれたのがいい思い出だね。あと、いまはなくなってしまったけれど『バードランド』。ここではソニー・ロリンズを初めて聴いている。1964年のことさ。ベン・ライリーがドラムスだった。ロリンズは本当の意味で天才だね」

「あるときミックに聞かれたんだ。《サックスの音が欲しいけれど誰が一番だい?》ってね。だから最高のサックス奏者ならソニー・ロリンズだって答えた。そうしたら、次にニューヨークでスタジオに入ったらロリンズがいるじゃないか。驚いたよ(『刺青の女』のレコーディング)」
「オーケストラを結成したのは、ロンドンの『ロニー・スコッツ』に一度でいいから出たかったのが理由だ。ストーンズじゃ出演させてもらえないもの、ジャズ・バンドじゃないからね。だからジャズ・オーケストラを作ったのさ。それからもうひとつ嬉しいことがあった。トロントでのことだ。大きなホールでコンサートが予定されていたんだけれど、あの『マッセイ・ホール』が昔のまま残されていることがわかった。キャパシティは小さいけれど、そこは我が儘を言って『マッセイ・ホール』でコンサートを開かせてもらった。パーカーやパウエルやミンガスが同じステージで演奏したのかと思うと感無量だったね。今度ツアーするなら『ヴィレッジ・ヴァンガード』とかのクラブ巡りもしてみたい。それから絶対日本にも来るからね」
チャーリー・ワッツとはブルーノート談義でも盛り上がったのですが、それはいつか本に書こうと思っています。そういうわけで、出し惜しみするつもりは毛頭ないのですが、ちょっとご勘弁を。