以下はいまから15年ほど前に発表したインタビューを再編集したものです。長くなるのでぼくの話の部分は割愛して、チャーリー・ワッツの言葉だけを抜き出しました。今回はジャズとの出会いなど初期の話が中心で、次回に後編を紹介します。

「ジャズに興味を持ち始めたのはアール・ボスティックの演奏を聴いてからだった。12歳のときだから1953年ごろじゃないかな? 「フラミンゴ」がイギリスですごく流行ってね。いとこがそのレコードを持っていたんだ。意識して聴いた音楽の最初がジャズだったってわけさ。それからいろいろ聴くようになった。自分で最初に買ったのがビリー・エクスタインのレコード。次がジェリー・マリガンの「ウォーキン・シューズ」だった。そのレコードでドラムスを叩いていたチコ・ハミルトンのブラシ・ワークが、子供ながらに素晴らしく映ったんだね。ストリートを歩いている感じがリアルに伝ってきた。それで、自分もジャズのドラムスをやるんだって思い立ったのさ」
「でも、家じゃドラムスは買えなかった。だから、持っていたバンジョーのボディを改造してスネアのようなものを作ってね。「ウォーキン・シューズ」をかけながら一日中叩いていたっけ。それからチャーリー・パーカーやジョニー・ドッズやウディ・ハーマンのファースト・ハードのレコードも買った。パーカーを買ってからは、今度は彼と共演だ。そうやっているうちに17、8歳になって、ジャズ・クラブに出入りするようになる。よく行ったのがロンドンの『フラミンゴ・クラブ』。ここでさまざまなミュージシャンを聴いたよ。ローカル・ミュージシャンばかりだけど、みな素敵だった。ジャズ・ドラマーになりたい気持ちを行くたびに強くしたものさ」
「当時のイギリスでは、モダン・ジャズよりトラディショナル・ジャズに人気があってね。わたしもパーカーやマリガンを聴く一方で、ルイ・アームストロングやシドニー・ベシェやホット・リップス・ペイジやビックス・バイダーベックが好きだった。ルイのホット・ファイブとホット・セヴンを初めて聴いたときはびっくりした。何て言えばいいかな、とにかく感動の種類が違った。でも、大きくなるにつれてモダン・ジャズにのめり込んでいった。MJQなんかすごく好きなグループだったよ。ミルト・ジャクソンのソウルフルなプレイ──あれは最高だ。あとはエリック・ドルフィー。彼のユニークなサウンドは衝撃的だった。それまでの考えかたが変わってしまうほど感じるものがあった」
「ティーンのころに一番影響を受けたのはバディ・リッチ。彼はビッグ・バンドにもスモール・コンボにもフィットできる数少ないドラマーだ。それからアート・テイラー。本当は彼らのようにプレイしたかった。けれど自分のスタイルを説明するなら、ルイ・ヘイズやミッキー・ローカーのようなものかな。ローカルなジャズ・バンドに入って叩かせてもらったっけ。でも、それらの多くはディキシーランド・ジャズだったりエディ・コンドン・スタイルだったりした。一方、1960年前後のロンドンではスキッフルが非常に流行っていてね。ジャズとロックとカントリーとブルースと、とにかくそんな音楽がごっちゃになったようなやつさ。アメリカ音楽に憧れた若いロンドンっ子が始めたものだけれど、わたしもいくつかのスキッフル・バンドで演奏していた。1959年にはアレクシス・コーナーのグループに入って、そこで出会ったのがストーンズの連中だった」
「大きかったのはキースとの出会いだ。彼はシカゴ・ブルースに詳しくてね。《ジャズをやるなら、その前にシカゴ・ブルースを聴け》って言われた。アレクシスのバンドもいつの間にかブルース・バンドになっていたしね。わたしも若いから音楽に対して柔軟だった。だから、シカゴ・ブルースにも耳を傾けるようになったんだ。ストーンズ結成前後っていうのはいろいろな音楽に夢中になっていた。メインはモダン・ジャズだったけれど、ファッツ・ウォーラーなんかもよく聴いてたよ。彼のグループにいたスティックス・ジョーンズはほとんどのひとが注目していないけれど、リズム・ドラマーとしては最高だと信じている。本当の意味でバーチュオーゾと呼べるひとなんだ」
「バディ・リッチのようなドラマーに最初はなりたかった。けれど、トニー・ウィリアムスを聴いてからは彼一辺倒になった。ケニー・クラークやビリー・ヒギンズのコピーもした。このふたりはシンバルの使いかたが最高なんだ。でも、トニーを聴いたらもう彼しかいなくなった。バディ・リッチも、目のあたりにすれば口では言えないほど凄いドラマーだ。けれどトニーの魅力にはかなわない。エルヴィン・ジョーンズをもっとモダンにして、ビートをさらに複雑にしたドラミング──あれは革新的だった。最初に彼を観たのは1963年か64年かな。マイルスのバンドに入ってロンドンに来たときだ。トニーは多分18歳か19歳だった。ガーンときたよ。やられたなって感じだ。年下にこれだけ叩かれたら堪らない──そんな気持ちがしたことを覚えている。以来、トニー・ウィリアムスが最高のドラマーになった。彼がラリー・ヤングとジョン・マクラフリンの3人で結成したライフタイムはいまでも最高のバンドだと思っている」
このインタビューを読めば、チャーリー・ワッツがどれほどジャズにのめり込んでいるかがわかると思います。次から次へと飛び出してくるミュージシャンの名前を耳にして、ぼくはぞくぞくする気分を味わっていました。次回はもっとマニアックな話になります。