最近は仕事の合間に、これまでになくライヴと映画三昧の日々を送っています。本業もいままでどおりなんですけど、時間のやりくりがうまくなったっていうことでしょうか。
やりたいことをやる、行きたいところにいく、観たいものをみる。こういうことが自由(でもないんですけど、実際は)にできる状況は喜ばしい、と。
渡辺貞夫さんのライヴに初めて接したのは1966年。新宿の「ピットイン」が週末だけライヴをやるようになったころ、ほぼ毎週のように出演していたのが貞夫さんのカルテットでした。ですから、かれこれ45年。ときが経つのは早いです。
あのころの貞夫さんはバークレーから戻ってきたばかりで、本格的なモダン・ジャズに加え、ボサノヴァやポップ・チューンなんかも自分のスタイルで演奏していました。ぼくは、ジャズの最先端の部分に触れる思いで、「ピットイン」詣をしていました。毎回ワクワクしたものです。
そうして45年が過ぎた現在も貞夫さんの演奏にはワクワクさせられます。先日(7月4日)の「ブルーノート東京」でも、相変わらず幅の広い音楽性でジャズの楽しさや素晴らしさ、そして奥の深さを堪能させてもらいました。
考えてみると、貞夫さんは世界に類を見ないジャズ・ミュージシャンではないでしょうか。1960年代の初めから現在にいたるまで、半世紀以上にわたってジャズの最前線に居続けています。これはマイルスに匹敵する偉業です。
世界中のジャズ・ミュージシャンを見渡しても、半世紀以上トップ・ミュージシャンであり続け、しかも音楽を常に新しいものにしてきたひとはほとんどいません。マイルスと貞夫さん、あとはソニー・ロリンズくらいのものかしら。
人気を維持するだけでも大変な世界に身を置いているのに、その上で常に新しい音楽を提示し続け、それを多くのひとが受け入れる。しかも半世紀以上におよぶというのは、偉業以外の何物でもありません。
そして2月に78歳になった貞夫さんはいまもジャズの最前線に位置し、溌剌としたプレイを聴かせてくれます。ノスタルジックな響きなど微塵も感じさせない音楽。ニューヨークの精鋭リズム・セクション Aaron Goldberg(p) Matt Penman(b) Joe Dyson(ds)と組んでのステージは、いまも貞夫さんがジャズと真剣に向き合い、創造性に磨きをかけていることを現わしていました。
いい歳の重ね方をしてきたと同時に、常に若手に触発され、若手を触発し続けてきた貞夫さん。ぼくは彼の音楽を通してさまざまな新人や新しい音楽に触れてきました。今回のメンバーもご機嫌です。とくに21歳のドラマー、ジョー・ダイソンはこれから注目されるに違いありません。
肩から力が抜けた上質な音楽。そこに貞夫さんの魅力があります。やりたいことをやりたいようにやって、それが多くのひとの共感を呼ぶ。だからこそ、長きにわたってトップ・ミュージシャンであり続け、ぼくたちを感動させてきたのだと思います。
あとにも先にも貞夫さんのようなジャズ・ミュージシャンは出ないでしょう。そんな彼のステージを何度も体験できてきたことの幸せ。いい時代に生まれたものだと、しみじみ思います。