
よもやこういうコンサートが実現するとは夢にも思っていませんでした。「君のともだち」を初めて聴いたのは、どっちの歌だったでしょうか? ジェームス・テイラーだったかな? キャロル・キングのヴァージョンも大好きで、そちらもしょっちゅう聴いていたっけ。ほぼ同時に、ね。大学生のころです。だって1971年夏のテーマ曲はこれだったんですから。軽井沢でいつも聴いてました。
ジェームス・テイラーのヴァージョンは彼が弾くイントロがかっこよくて、コピーしてよく歌ってました。それからバックのダニー・コーチマーはスティーヴ・クロッパーと匹敵するほど大好きなギタリストです。
「ノーバディ・バット・ユー」の短い間奏。最初に登場するジェームス・テイラーのプレイを暖かい目で見守り、その後に噛んで含めるようにしてニュアンスを込めたフレーズを弾いてみせるダニー・コーチマー。これ、あくまでぼくの心に浮かぶ心象風景ですが。

彼がいたジョー・ママ。その2枚目の『J Is for Jump』。盤の溝が擦り切れるまで聴きました。店名は覚えていませんが、原宿の竹下通りにあった輸入盤屋さんで買ったレコードです。1枚目の『Jo Mama』もよかったですが、ぼくは2枚目が断然好きです。
キャロル・キングとジェームス・テイラー。彼らはぼくの青春そのもの。当時はアコースティック・サウンドが心地よくて、けれど一方でエレクトリック・マイルスのコピー・バンドなんかもやりながら、彼らのサウンドにのめり込んでいました。
ロックといえばエレキでしたが、アコースティック・ギターの響きが爽やかで、ウエスト・コースト・サウンドやカントリー・ロックなどに夢中になっていた時代です。日本でもはっぴいえんどがありきたりのロックでは捉えきれないサウンドで登場し、それにも触発されたものです。

そうした時代のアイコンが、ぼくの場合はキャロル・キングとジェームス・テイラー。てっきりふたりは結婚するものと思っていました。ところがあるとき、ジェームス・テイラーはカーリー・サイモンと電撃的(なのかな?)に結婚。初来日が新婚旅行のようなもので、先日クローズした「厚生年金大ホール」で聴いたジェームス・テイラーのコンサートでは、タイミングよくそのときチャートで1位になっていた「うつろな愛」をカーリー・サイモンが飛び入りで歌ったっけ。
そのときに初めて生で聴いたのがダニー・コーチマーでした。歯切れのいいサウンドとうっとりするようなフレージング。ジャズ・ギターとは世界がまったく違っていましたが、このひとが弾くフレーズやコード・ワークに魅了されました。
「武道館」のステージに彼らが登場した瞬間、蘇ったのがそんなこんなの思い出です。40年の時空を超えて彼らがぼくの目の前にいます。この40年、いろいろなことがあったでしょう。ぼくにだっていろいろありました。でも、大半は楽しいことや嬉しいことや幸せなことです。そして、そんな自分がふたりのステージを観ていることに、人生の味わい深さを感じました。悪い人生じゃなかった。ふたりの歌声とダニー・コーチマーのギターを聴きながら、これからもいままでのような人生が過ごせたらどんなに素敵だろうと思いました。
最初からジェームス・テイラーとキャロル・キングの完全共演。素晴らしかったです。ほとんど交互に歌いながらの2時間強のステージ。しかも大半は初期の作品からのレパートリーです。たまりません。
ふたりが本当に仲のいいことにも微笑ましいものを覚えました。音楽を通じて気持ちがひとつになっている大人の姿。そういう情景は、ぼくのような世代にとって羨ましい限りです。新しい友だちももちろんだけど、古い友だちも大切にしなくちゃね。
終盤で歌われた「君のともだち」のメロディとふたりの姿は、ちょっとかもしれないけれど、これからのぼくの生き方にきっと影響を及ぼすでしょう。リアルタイムで聴いたときは「いい曲だなぁ」と思っただけですが、武道館ではしみじみと歌の世界を自分に当てはめることができました。

5月に出るこのアルバムの登場も待ち遠しいです。発売日はニューヨークにいるので向こうで買うかな。