先週末に観てきた映画です。
ときは1966年。ロンドンはスインギン・シクスティーズ前夜といったころでしょうか。ビートルズがツアーするのをやめて、ストーンズが大暴れしていた時代。ザ・フーがモッズ・キッズの心をとらえ、クラプトンがクリームで斬新なギターを聴かせていました。
ところがお堅いイギリスのこと。国営放送のBBCラジオは、ロックのレコードは1日に45分しかかけないという規則をかたくなに守っていました。そんなときに国中で聴かれていたのが、北海に浮かぶ船上で1日中ロックを流している海賊放送局。
そのパイレーツ・ロックと、それを取り締まる政府との攻防をひとつの軸に、船の上で繰り広げられるDJたちの面白おかしい、そしてちょっと悲しかったり切なかったりのエピソードをさまざまに盛り込んでドラマは進展していきます。
主役は個性的なDJを演じる役者たち。彼らがかける音楽の1曲1曲が当時のことを思い出させてくれます。ぼくの世代のロック好き、ソウル好き、ポップス好きなら、ほとんどの曲に覚えがあるでしょう。マニアックな曲なんかほとんど出てきません。そこに選曲のセンスが光っています。
シーカーズはイギリスでも人気がなかったんですね。そういうのがわかって面白かったです。あと映像から判別できる範囲ですが、ちゃんとオリジナルのシングル盤が使われていたようです。そのあたりの凝り方がいいじゃないですか。マニアにしかわからない作り手からの密かなメッセージみたいなもので、思わずニヤリとしてしまいます。
最後は船が沈没してたくさんのレコードも海の底に沈むんですが、あれはまさか映画で使っていたオリジナル盤じゃないでしょうね。そんな心配をしているぼくは、相当におかしいかも。
こういう海賊放送局は日本にもありましたし、いまもあります。違法ですが、イギリスの場合、そのお蔭でロックがラジオで市民権を獲得します。映画の最後に、現在、イギリスでロックを流す放送局が299あることを教えられました。
どうしてレコードをわずかな時間しかかけなかったのか? それはミュージシャン・ユニオンの規制が強かったからです。イギリスのミュージシャン・ユニオンはミュージシャンの保護に神経を尖らせていました。
いまでは笑っちゃうような話ですが、「レコードをかけるとミュージシャンの仕事が減る」。これが理由です。だからBBCにはビートルズでさえたくさんの生演奏を残しているんですね。生演奏ならいいけど、レコードは駄目だったんです。そういうわけで、ぼくたちの手元には、海賊版ですがビートルがBBCの放送用に吹き込んだ音源がCDにして10枚分ほど残されることになりました。これ、怪我の功名ってやつでしょうか。
脱線しますが、オーネット・コールマンがクロイドンでコンサートをやったのは、やはり1966年のこと。このときもミュージシャン・ユニオンがクレームをつけてきました。「アメリカのミュージシャンがイギリスでコンサートをする場合、同じギャラの分だけ、イギリスのミュージシャンがアメリカで演奏できる機会を作らなければ許可しない」。これが言い分です。
それで一時はコンサート開催が危ぶまれましたが、なんとか解決して誕生したのが『クロイドン・コンサート』という名盤です。この話、ほんとかどうかわかりません。たしか、アルバムが初めて日本で発売されたときのライナーノーツか『スイングジャーナル』に出ていたんだと思います。そんな話を、この映画を観ながらふと思い出しました。