数日前に上原ひろみさんのインタヴューをしてきました。これは復刊なった『男の隠れ家』11月号(9月27日売り)の巻頭ページ「パーソン」用のものです。
これまでにも上原さんとは何度か顔を合わせてはいました。ところがタイミングが合わず、一度もインタヴューはしたことがありません。デビュー直後に聴いたプレイで、ぼくがウン十年かけて体験してきたジャズ・ピアノの概念をあっさり壊してくれたのが上原さんです。
一般誌のインタヴューということから、「ジャズの話はどうでもいいや」という気分で彼女にいろいろうかがいました。ジャズでもクラシックでもロックでも、なんでも好きというのが面白かったですね。だからあれほど八方破れというか奔放なプレイができるんでしょう。上原さんのフランク・ザッパ好きは有名です。そんなところにも、従来とは違うピアニスト像を見た思いがしました。
ぼくも昔から音楽をジャンルでわけることに抵抗がありましたし、なんでも好きで聴いてきました。ミュージシャンの多くもそうです。以下は上原さんの言葉。
「クラシックのひとだって、当時は一番新しい音楽を作ろうと思って曲を書いたり演奏していたのに、誰が《クラシック》なんて呼ぶようにしたんでしょうね」
上原さんがステージに出るときは、「誰も聴いたことのない演奏をしようと心がけている」そうです。自分の娘と同じ年齢の彼女からこういう言葉を聞くのはよても嬉しいですね。ポジティヴ・シンキングの彼女ですから、なんでも前向きに考えているのでしょう。
ぼくが抱いていたジャズの常識をいとも簡単に覆してくれた上原さんです。その彼女が世界を股にかけて大活躍している姿を想像するだけでも嬉しくなってきます。きっと人種を超えて、世界中のひとびとを驚かせているに違いありません。
現在はニューヨークと東京を拠点に行ったり来たりしている上原さん。「東京JAZZ」ではニューヨークに住む大先輩の矢野顕子さんと共演します。その後はニューヨークに戻り、「ブルーノート」出演や、「カーネギー・ホール」で開催されるオスカー・ピーターソンのトリビュート・コンサートでソロ・ピアノを弾くことになっているそうです。
9月5日に発売される『プレイス・トゥ・ビー』は初めてのソロ・ピアノ集です。思いもよらぬ演奏の連続に心を奪われました。強力なタッチもさることながら、しっとりした表現に胸を打たれる瞬間もあります。
日本人であることをことさら意識しているわけじゃないですが、上原さんのワールドワイドな活躍を知るにつけ、誇らしい気分になります。新型インフルエンザを心配していた上原さん。でも、元気いっぱいの彼女ならウィルスも避けて通るんじゃないでしょうか。医者としてはまったく根拠のない物言いで申し訳ありませんが、そう思っています。