昨日は渋谷にあるNHKで、8月に放送予定の番組を収録してきました。年に一度、2時間の特別番組です。3回目の今年はサリナ・ジョーンズにスポットライトを当てました。
サリナのことはこのブログでも何度か紹介しています。昨年、プロモーションで来日したときに、それこそ20年ぶりくらいの再会が実現し、それがきっかけでこの企画が実現しました。
サリナは本当に気さくで、初めて会ったときからいいひとぶりを存分に発揮していました。そして久しぶりの再会でも、あの優しさはまったく変わっていなかったのが嬉しかったですね。
今回は、4月に来日した際、この番組用に録音したインタヴューも用いて、彼女のこれまでを追ってみました。ぼくがサリナの存在を知ったのは1973年にイギリスで録音した『アローン・アンド・トゥゲザー』です。なんてうまいシンガーなんだろうと思い、来る日も来る日も聴いていたことを覚えています。サラ・ヴォーンが少し新しい感覚で歌ったらこうなるのでは? というイメージでした。
以来、ずっと注目してきたんですが、ちょっと前までは少しマンネリになっていて、せっかく素晴らしい才能を持っているのにもったいないと思っていました。でも、昨年新作を出してから、またいい感じになってきたので、今後はおおいに楽しみです。
そんなサリナのとっておきのエピソードをひとつ。以前にもこのブログで紹介しましたから新鮮味はないかもしれませんが。
サリナは今年の1月に40年におよぶ恋を実らせて結婚しました。キース・マンスフィールドというアレンジャー、プロデューサーがお相手です。彼とはイギリスに着いてすぐに知り合います。彼女が所属していたKPMのアレンジメント部にキースも所属していたからです。
サリナのひと目惚れでした。ところが当時のキースは結婚していました。そこで、彼女はずっと自分の気持ちを隠していたそうです。そして、一緒にいくつかの仕事をしたあと、キースはメイナード・ファーガソンのアレンジャーになって、アメリカに移ってしまいます。それから40年間音信不通でした。そして、再び出会いが。彼女はインタヴューでこんなことを話してくれました。
キースが客席にいたのは知りませんでした。ショウが終わって楽屋でファンにサインをしたりおしゃべりをしていました。「あなたに会いたがっているひとがいる」といわれて振り返ると、そこにキースがいました。
「あなた、40年前にわたしの前から消えたじゃない」とキースにいいました。ひとがたくさんいたのに、わたしには彼の姿しか見えなくなっていました。ふたりだけ。でも、彼のことは忘れなきゃ。結婚しているんだから。
翌週ランチを一緒にしているときに、彼が独身だとわかって、そのときの気持ちは「ハロー、イッツ・マイ・タイム・ナウ」。この歳になって、こういう関係が持てて、気持ちを高ぶらさせることができるって、本当にラッキーだと思うわ。
こういう話を聞くと、ひとごとながらジーンときます。思い続けるって大事ですね。ぼくの場合も、昔買い逃したレコードのことをずっと思い続けていたら20年後に買えたとかね。色っぽくもなんともないですけど。
でも、何十年ぶりの再会っていうのも、この歳になるといくつかあります。サリナとの再会もそうですし。もっとも、こちらは色っぽいことにはなりませんでしたが。当たり前ですね。ときどき「あのひとはどうしているかなぁ」って思っていたひとと本当に会うことがあります。ですから、歳を取るっていうことはそんなに悪いことじゃないなって思っています。歳をとらなきゃこういう再会はできないんですから。
サリナをフィーチャーした今年の『真夏の夜の偉人たち』。放送は8月7日の金曜日、21時10分から23時まで。再放送もあります。こちらは8月21日(金)の16時から。NHK-FMなので全国ネットです。いまからその日のカレンダーに印をつけておいてくださいね。