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この日の葬儀のスケジュールでは、 午後4時前後に火が放たれ、その後の諸々の儀式を含め、夜10時にはすべてが終了予定でした。 ところがとんだ誤算が。 あまりにも重かったのです。 スヤサ氏の巨大なランブーが。 それまでは台車を使い、村人が引っぱっていました。 でも、最後にステージに乗せるために台車をはずして持ち上げようとしたら。 持ち上がらない。。。 全員がかけ声にあわせ力を込めますが、まったく、動きません。 いやぁ、ここからが本当に長かかったです。 もう修行というよりは苦行。 ランブーをかつぐ村人たちもなんだか緊張と興奮がさめてしまったようで、 急にいつものようなダラダラなバリニーズに戻ってしまっています。 さっきまでのいなせな態度とは大違い、モチベーション一切なし。 わたしも含め、大勢のギャラリーは待つこと3時間。 すでに場内は人で満杯、身動きすることも座ることもできない状態です。 太陽はすっかり西に傾き、夕暮れが近づいています。 葬儀が進行しないことにさすがにあせったのでしょうか。 やっと村人たちが丸太をランブーの下に敷いて押しはじめると、 おお!少しずつ動きだした。 あとはもうがむしゃらに力まかせ。 重いランブーがズンとステージに納まった瞬間、 ギャラリーから大歓声が。 でも、ねぎらいというよりは安堵の喜びでしょうね、これは。 本当に心からホッとしましたから、このとき。 すごいのはこの間、スヤサ氏の棺を持ったまま村人たちがじっと待機していたこと(上の画像の右端です)。 彼らは表情を変えることもなく、ただじっと目の前の光景を受け入れている。 このあたりがバリニーズのすごいところ。 彼らに比べて、まだまだわたしは修行が足りないようです。 やっとランブー1対がステージに納まり、 何ごともなかったかのように再び儀式が始まりました。 遺体がそれぞれのランブー内に移され、ステージのまわりを供物を持った家臣、村人たちが祈りながらまわっていきます。 やがて高僧があらわれ、ギャラリー全員に座るようにうながし、親族の最後の別れが行われます。 長い、最後の別れでした。 広大な火葬場に集う人々は静かにそれを見守ります。 空を見上げると、オレジン色の残照が雲に、美しく溶け込んでいる。 一瞬、しんとした静けさがわたしたちを包みました。 永久の別れの後、 ナーガバンダがランブーの間に置かれます。 ナーガも一緒に焼かれ、魂を天界へと導きます。 午後7時、夜の訪れにあわせるかのように、ランブーにゆっくりと火が放たれました。 長い一日のすべては、このわずか数十分のために営まれたもの。 何ヶ月もかけて村人たちが作り上げたナーガもバデもランブーも、 あっという間に灰になっていきます。 今宵、炎に焼かれ、天界へと旅立っていった多くの魂も、 生まれ落ちた瞬間から、このときのために時を過ごし、人生を成就してきたのでしょう。 そして、わたしたちも。 この後、遺灰は家族の手で集められ、 小さなヤシの実の中に詰められて、サヌールの浜辺で海に流されたということです。 結局、遺族がウブドに戻ったのは、夜中の2時を過ぎていたようです。 バデも翌朝までには焼かれていました。 こうしてウブドの長い一日は、わたしたちに大きな記憶を刻みつけてゆっくりと終わりをつげたのでした。
by naoko_terada
| 2008-08-17 05:09
| トラベル
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Comments(4)
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carambola at 2008-08-17 14:00
長い一日お疲れ様でした.
結局,予定時刻の22時には終了したのでしょうか? そうか,今回は重すぎたか… 張り切って作るのはいいけど, どうもその辺の計算が甘いんですよね(笑) やっぱり愛すべきバリニーズ! ウブドの人たちはこの大きなお葬式を終えてすぐに ガルンガン・クニンガンで金銭的にも体力的にも大変でしょうねぇ. 今月末,鯔も渡バリます. 抜け殻のようになっているであろうウブド民を観察してきます(笑)
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naoko_terada at 2008-08-17 16:23
鯔サマ
もうねぇ~、長かったですよー。 我々が火葬場を離れたのが夜の8時過ぎ。 家族がサヌールのパンタイから戻ってきたのは夜中の2時過ぎだったようです。 同行のカメラマンが翌朝、火葬場にいったら燃えくちたバデがあったようです。バデもこの後、焼いたのですね。 わたしはもうボロボロだったのでそこまで体力持ちませんでした(笑)。 あ、今月いくのですね♪ ぜひぜひ、観察してきてくださいな。
本当にお疲れ様でした。
直子さんの迫真のレポのお陰で、長~~~い一日に私も参加した気分で、読んでいてグッタリしましたよ。 日本なら、もっとあらゆることがテキパキとされているんだろうなーというやや日本人的イライラ感もあり・・・。(笑) でも、これこそがバリなんですよね。 お葬式や結婚式や、バリでのそういう儀式をいつかはきちんと見てみたいなーと思いました。
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naoko_terada at 2008-08-21 23:36
hiyokoサマ
ええ、ホントにグッタリでした。 炎天下ではどんなにハードプロテクトの日焼け止めも意味なし。 顔と、クバヤのスクエア型にくっきりと焼けた胸元。 でもね、行ってよかったと思います。 あらためてバリについて、気がついたこと感じたことなどがいろいろありました。次回、hiyokoサンも機会があればぜひ。
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筆者のプロフィール
寺田直子(てらだなおこ)
トラベルジャーナリスト。旅歴30年。訪れた国は90ヶ国超え。女性誌、旅行サイト、新聞、週刊誌などで紀行文、旅情報などを執筆。独自の視点とトレンドを考えた斬新な切り口には定評あり。日本の観光活性化にも尽力。著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)」、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)、「フランスの美しい村を歩く」(東海教育研究所)など。 問い合わせメール happytraveldays@aol.com インスタグラム Happy Travel Days 寺田直子 ツイッター ブログパーツ
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