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夕刻、再びウブドの王宮へと向かう。 昼間とは異なり、このときはバリの女性の正装であるサロン・クバヤを身に付ける。 だいぶ以前に現地で仕立てたもので、 久しぶりにバリの「イブ(おばちゃん)」に変身です。 太陽が沈み、淡い光りを残しつつ宵闇が街を包む頃、 ウブド王宮周辺は、火葬の準備を見学する観光客やローカルで大混雑。 車の渋滞もさらに激しくなっていました。 それにしても光に浮かびあがるバデやランブーのなんてみごとなこと。 数カ月かけて準備をしたこれらも、明日には一瞬にして遺体と共に焼けてしまう。 そんな刹那的でもある、通過儀礼のハレとケ。 バリ人の確固とした死生観には、自分の人生や未来を投影してしまいます。 華やかな王家の葬儀とは別に、 わたしの心を強くゆさぶったのが、その後ろに並べられた村人たちの祭壇の列。 バリの火葬は非常に高額なため、火葬をするだけの経済力がない家では家族が亡くなった場合、とりあえず土葬にして裕福な家で火葬が行われる際に掘り起こして一緒に焼いてもらうことがあります。 今回、一緒に火葬される選ばれし村人はなんと68人。 王宮横、イブ・オカがあるスウェタ通りには王家の華麗な装飾とは異なり、 質素ですが精一杯の想いがにじむ供え物であふれた祭壇が。 その周囲を家族たちが、静かな表情で夜が明けるのを待ち受けます。 祭壇のひとつひとつに名前がしるされ、遺影が飾られている。 無神経にならぬよう、親族や葬儀関係者の表情を読みながら写真を撮っていると、 「ニホンジン?」と、ひとりの男性が話しかけてきました。 彼の甥っこが今回、火葬される68人のうちのひとりだと言って、 ひとつの祭壇を指さす。 まだ20歳。 通学時に交通事故にあったのだという。 「そこにいるのが彼の父親だよ。娘ふたり、息子は甥っこひとりだけだったから。もうガッカリして。毎日、泣いているよ」 68の祭壇には、68人の人生が宿っている。 明日には、人生の長さと重さを抱えたそのすべての魂が焼き尽くされ、自然に還る。 再び、よりよき人生を歩むためにこの地に生まれ落ちることを願って。 ふと空を見上げると、 9層のバデよりもさらに高い位置に輝く三日月。 公開火葬は、快晴の中ではじまることでしょう。
by naoko_terada
| 2008-07-24 23:33
| トラベル
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Comments(10)
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shino11yoshi at 2008-07-25 00:16
初めますて ←(ψ`⇔´)ψ
SF暗黒小説家の四乃四四でつ。 インドの外人寺行ったことありまつ。 アップルの社長ジョブスや元ビートルズのジョージ・ハリスンが行ってたんすが。 何故か魔王が行ったときスゲーと思った世界スターいませんですた;;;
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carambola at 2008-07-26 08:32
うわ~,これは圧巻されますね.
いつもの通り道がこんな事に…(^^;) 今回火葬された人々の中に, 前回の渡バリ中に亡くなった 定宿のオーナーのおばあちゃんがいました. 生きている人たちは(笑)お供えものつくりが大変だったそうです. 人が亡くなる,と言うことに関しては バリの人々(というか異宗教の人々)と我々とでは 根本からその考え方が違い,時には面食らうこともありますね. でも,近しい人が見えなくなる… その寂しさは誰でもどこでも共通ですよね. 若くして亡くなった方,永く慕われ天寿を全うした方, 魂をコアに,幾重にも色々な感情が重なって 月明かりのように大きな優しい光になるんでしょうね.
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55aiai at 2008-07-27 21:52
コメントははじめましてです。
izolaちゃんと一緒にバリに行った55aiaiです。 なりほどと謎が解けました。バリ島のお葬式については軽く話を聞いてましたが、プリ・サレンで竹組みをして働いていた沢山の人たちはこのためだったのか、と納得しました。 もうすぐ日本もお盆ですね。先祖を大事にする心というのは、私たちとも共通するものがあるように思います
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baby.chappy at 2008-07-27 22:19
初めまして。バリの火葬は懐かしい情景です。私はウブドからツアーで参加しました。人々が亡くなった方々を送る姿を最後まで見て、「生きる」という意味を考え直させられた、大きな出来事でした。
彼らはその後、海に帰るとか。私たちも地球の一部なのですね。
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naoko_terada at 2008-07-28 17:41
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naoko_terada at 2008-07-28 17:44
鯔サマ
すごかったです。 ちょうどジャカルタのファミリーが夏休みでバリに遊びに来ていたりで、観光客も多く。 そうですか。 あの中におばあちゃんがいたのですね。 何番目だったのだろう。 王家の壮大な火葬はたしかに大迫力でしたが、実はこの68人の市井の人たちの葬儀がしみじみと心に残りました。
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naoko_terada at 2008-07-28 17:46
55aiaiサマ
はじめまして。 コメントありがとうございます。 そうだったのです。 みなさんが見たのは葬儀の準備だったのですよ。 みんな手作りというところがすごいです。 バリ島。 たっぷりと堪能されたようですね。 ぜひ、またあの愛すべき島へ還ってくださいませ。
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naoko_terada at 2008-07-28 17:48
baby.chappyサマ
コメントありがとうございます。 華やかでいて悲しみだけではないものがあるバリの公開火葬。 「こういう逝き方もいいなぁ」と、思わせるものがあります。 一生懸命に生きて、こうやって見送られる。 いい人生だと思います。
今どきのニッポン、ペットでさえも火葬するお国です。
先日お隣のワンちゃんが亡くなった時は、火葬場に20人、お別れの会に100人の人が集まったそうです。 それなのに、バリでは人間さえも高くて火葬できないなんて、、、。 ちょっと胸が詰まる思いです。 いつもバリでお願いする運転手さん、カースト制の一番下のランクだという話を聞いて、急に悲しい思いになったのを思い出します。 でも、彼らにとってはそれはごく当たり前のことで、生まれたときからそれを受け入れて生きているんですよね。(後で知ったことですが、一番下のランクの人がバリではほとんどだそうで、ちょっとホッとしましたが・・・) でも、どんな人たちにも家族があり、人生があるんですよね。 ところで、直子さんのクバヤ姿、見てみたいわ~。 そのエキゾティックなお顔立ち、カメラを持っていなければ、きっと誰も日本人とは思わないのでは??(笑) ぜひぜひ、一度ご披露いただきたいです!
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naoko_terada at 2008-07-30 22:00
hiyokoサマ
火葬って、とてもお金がかかるらしいです。 今回の68人の火葬は、ウブド王家が全部、もったそうです。 これができるだけの財力を持っているのは、もう、ウブドだけらしいですよ。 クバヤ姿。 すっかりバリのイブ(おばちゃん)気分でした♪ でもね、写真はないのですよー。 今度、撮ってみますね。
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筆者のプロフィール
寺田直子(てらだなおこ)
トラベルジャーナリスト。旅歴30年。訪れた国は90ヶ国超え。女性誌、旅行サイト、新聞、週刊誌などで紀行文、旅情報などを執筆。独自の視点とトレンドを考えた斬新な切り口には定評あり。日本の観光活性化にも尽力。著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)」、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)、「フランスの美しい村を歩く」(東海教育研究所)など。 問い合わせメール happytraveldays@aol.com インスタグラム Happy Travel Days 寺田直子 ツイッター ブログパーツ
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