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9年前の震災以降、何度か福島を訪問してきました。 たくさん写真も撮りましたが、その多くは露出していません。 できなかったからです。
上の写真もそのひとつ。 2016年に訪問したときのもので、前後の写真を見るとおそらく常磐線・富岡駅近くだと思います。地震と津波によりグニャリと曲がり、さびた線路。その先には福島原発が見える。 福島の「悲惨さ」を伝える写真で、見た人もきっとそう感じるでしょう。 一度、世間に発表した被写体はあたりまえですが、当時のままの様子で人の記憶に残ります。少しずつ復興し、変化していく過程や、多くの人のさまざまな思いや希望よりも強烈にイメージとして焼き付きます。報道メディアもそんなドラマチックな写真を選んで露出し、変わりつつある日常を紹介することは少ないものです。 だから、あえて当時、露出せずに封印しました。 福島原発の近くを通り、帰還困難地域のため富岡駅から浪江駅の間(夜ノ森駅、大野駅、双葉駅)はずっと不通でした。その区間の利用者には代行バスが運行されています。それが、3月14日に全線開通となります。同時に富岡町に出ている避難指示の一部が今日、10日に解除されました。わたしが撮ったさびた線路はもうありません。しっかりと過去のものになりました。原ノ町駅にちょうどぴっかぴかの特急「ひたち」が試運転でとまっていました。14日からは品川・上野~仙台間を3往復します。 富岡駅で電車を降り、代行バスで小高駅まで。バスは帰還困難地域を抜けて進みます。何度か通った道からの風景は変わっている場所もあれば、9年前を思わせるような場所もいまだ少なくない。復興はまだ途上だということをあらためて感じます。 バスを小高駅で下車。この駅を初めて訪れたのは2014年。当時は中に入ることができませんでした。電車が運行し駅が再開したのは2016年です。 待合所も刷新されきれいになっていました。入口前に馬のオブジェがあるのに気づきました。小高といえば相馬の野馬追(のまおい) で有名ですからね。 仙台方面の列車まで少し時間があったので、駅から歩いていける小高の人気店、双葉食堂さんへ。お昼時で工事関係のお兄さんやサラリーマン、ご近所さんたちでにぎわっていました。ピリ辛でボリュームたっぷりの名物もやしラーメンを注文です。 双葉食堂は震災後、移転していました。その間の2014年から2016年、「おだかのひるごはん」という名前で地元のおかあさんたちが切り盛りする食堂として帰還してきた人たちのために運営されていました。震災後、この地区で初めてのお店で、わたしも一度うかがっています。「おだかのひるごはん」を立ち上げたのは復興の課題に新しい視点で取り組む小高ワーカーズベース代表の和田智行さん。小高出身で震災後、東京での仕事を捨て地元での起業にシフト。今は小高パイオニアヴィレッジ という簡易宿泊施設を兼ねたコワーキングスペースなどを運営、さまざまなケミストリーを生むイベントを開催しています。私も仲良くさせてもらっていますが、この日は乗り継ぎの時間があまりなかったのでお会いすることなく、再び駅へ向かいました。 次回、いつ来れるかはわからないし、力にもなれない存在だけれどこれからもこの風景を見続けていこう。電車を待ちながらそう思っていました。 そして、たくさんの人に見てもらいたくなる、きれいで楽しい写真をたくさん撮りたい。 心からそう、思うのでした。
by naoko_terada
| 2020-03-11 07:00
| 福島
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筆者のプロフィール
寺田直子(てらだなおこ)
トラベルジャーナリスト。旅歴30年。訪れた国は90ヶ国超え。女性誌、旅行サイト、新聞、週刊誌などで紀行文、旅情報などを執筆。独自の視点とトレンドを考えた斬新な切り口には定評あり。日本の観光活性化にも尽力。著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)」、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)、「フランスの美しい村を歩く」(東海教育研究所)など。 問い合わせメール happytraveldays@aol.com インスタグラム Happy Travel Days 寺田直子 ツイッター ブログパーツ
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