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ということで始まった2時間クルーズ。 いちおう、ボートは私だけの貸切り。スタッフが乗り込んできます。 さらに意味もなくどんどん乗り込んでくる。 わたしの何人かの友人が、同じくトンレサップ湖クルーズをチャーターしたところ、湖の途中でボートを止められて、「チップをよこせ」とスタッフに囲まれたという話がよぎります。 結局、こんな感じ。笑 あ、左側に座っているニコニコした人の好さそうなおじさんはわたしのトゥクトゥクドライバーさんです。クルーズ中、「待ってる」と言ってくれたのですが、「もしよければ一緒に乗らない?」と誘ったのでした。クルーズスタッフに聞くと、「(地元の人間は)無料」とのこと。じゃあ、チャーターだし、席はあるし、2時間も昼寝してもつまらないでしょ。と誘うと、「え、いいんですか?」ととまどいながらもうれしそう。こういう外国の観光客向けのクルーズに乗ることはまずないはず。ということで、ドライバーさんも同乗。 珍道中です。 あ、手前にはまったく浮力がない役立たずのライフベスト。苦笑 まずは、ミルクコーヒー色の入江をゆっくりと進みます。 わたしが訪れた5月は乾期のため水位が低く、さらに湖の面積も縮小されていました。だから水上生活の村がある湖の中央までしばらく入江を進むことになります。 地元の人たちが操る小さいボートが疾走する横をのんびり、風を受けながら進みます。水深1メートルもないそうです。 わたしとドライバー以外に乗り込んでいるのは船長のほかに若いお兄さんが3人。ただし、ひとりは途中で降りたので便乗していただけの模様。残る2人が船長のアシスタントといった感じです。 その中のひとりの青年がかなりキレイな英語で話しかけてきました。 まずは、お決まりの「どこから来たの?」という質問。 経験からこういう場合、「日本から」と答えるといいカモだと思われる傾向にあるので、わたしはいつも「日本人だけど海外で暮らしている」と答えます。タフな外人ツーリストに思わせるほうが相手も、ぼったくれないと判断するからです。 そして彼との会話からトンレサップ湖のクルーズ事情がなんとなく見えてきました。 水上村出身の青年いわく、 「以前はいくつかクルーズ会社があったけど今はひとつ」 「水上村はとても貧しいのでお金が必要」 「観光客の買ってくれる食糧などが大事」 「自分たちも安い賃金で働いている」などなど。 すべてを信じる理由も、まったくウソとも判断できないのでここは聞き流しておきます。 案の定、途中で「水位が低いので水上村まで別の小さなボートに乗らないと行けない」と言ってきました。 「いくらなの」と聞くと、「20ドル」だという。 あきらかに法外な値段。クルーズ料金として30ドル払っているので、それを足したら50ドルです。カンボジアの平均月給が1~3万円とのことですからありえません。 「じゃあ行かなくていいです」 そう言うと、外国暮らしのおばちゃんにはこれ以上言ってもムリ、と判断したのかどうか。意外に、「わかった」とあっさり。 代わりに、「ひと休みしにあそこに行きましょう」と指差したのがこんな感じのボートハウス。立ち寄りは無料とのことなので、経験として見てみましょうか。 ボートを寄せて中に入ると木のフローリングの休憩兼みやげもの屋といった風情の空間。 自称「クロコダイルファーム」と呼んでいる淡水ワニの水槽もあり、「見る?」と聞かれるので、すかさず「見ない」と即答。おみやげグッズもまったく興味がわかないものばかり(苦笑)。 これで商売になるのでしょうか。 それでも、風が吹き抜けるテーブルは心地よく、冷えたローカルビールの「アンコール」を1ドルで購入。 ※ちなみにビールは遺跡など観光地ではまずどこも1ドルでした。 トゥクトゥクドライバーさんにもコーラをご馳走してあげて二人で竹のテーブルに座ってしばし、湖を眺めながらのーんびり。観光客を乗せた何隻ものボートが行き交います。 さて、ビールブレイクを終え再び船上に。 船長のアシスタントの青年が、「水上学校を見ないか?」と聞いてきた。 きたきた。 トンレサップ湖でネット検索すると多くの観光客が、学校訪問をするためには貧しい子供たちのために食品などを買わないといけないと言われ、理不尽なほど高い値段を請求されたという記事やブログが見つかります。こういった水上生活の村はほかにも見たことがあるので、「行かなくていい」と返そうかと思ったのですが、どんな手口でブログの記事のような流れになっていくのかちょっと知りたい。そこで、あえて行くことに。 貧しい子供たちのためになることであれば、という思いもあったわけですが。 案の定、「学校に行く前に水上スーパーに寄っていきましょう」と青年。 「スーパー?」 「そうです。地元の人たちの唯一のスーパーです。もし、何か気に入れば学校の子供たちのために買って持っていきましょう」 「値段は一般のスーパーと同じなの?」 「もちろんです!(ニッコリ)」 しかし、中に入れば一目瞭然。ここはスーパーじゃあない。売っているのは水、米、それにカップラーメンくらい。地元の人たちが日用品・常用品を買いにくるような場所ではありません。 壁には「To buy products here is helped the poorest villagers in this community(ここで商品を購入することが最も貧しい村人たちを助けます」というメッセージ。 中には数人の男性が。 料金を聞くと、米30キロが30ドル、50キロが50ドルとのこと。 うわぁ、とんでもない値段。おそらく10倍くらいふっかけていることと思います。 「これはローカルプライスじゃないよね」 「いえいえ、そうですよ」 「我々もお給料なしでボランティアでここで働いているんです」 「観光客のみなさん、買っていきます」 これはもう、組織的なものなんだなぁ、とこのやりとりで実感。 観光客の好奇心と善意を悪用したシステム。ブログで非難されるワケです。 とはいえ、ここに暮らす人たちが決して豊かな生活を送っているとも思えません。 子供たちの環境も推して知るべしです。 実際、ボートを走らせていると粗末な木造の手漕ぎ船に乗った母親と、まだ3歳ほどの汚れた服を来た子供。その子の首にはヘビが巻きついています。小銭を渡せばヘビの写真を撮らせるよ、というジェスチャー。よく見れば母親のおなかが大きいのがわかります。妊娠中です。なんともやるせない。 刹那的なほどこしが彼らの人生を変えることはないとわかっていても、思わず1ドル札をにぎらせます。 そんなことがあった後での自称スーパーマーケット訪問。 いろいろ考えます。 逡巡したあと、目の前の男性に告げる。 「じゃあ、30キロのお米を買います」 法外な値段だし、おそらく払ったお金の大半は本当に必要な人のもとへは行かないでしょう。でも、多少なりとも子供たちにごはんを食べてもらうことができるのであれば払おうとわたしは考えたのでした。 買ったら自分たちがあとで学校に届ける、というので「自分で持っていくから」と青年たちにたのんでボートに乗せてもらう。 買い上げた米をのせて、ゆっくりと学校へ向かいます。 「Charity rice to help poor people」の看板が目につく。 学校とも呼べない簡易の屋内では、授業を受ける子や遊びまわる子供たちの姿。寄付するものを持ってきた人間にはあいさつをするようにしつけられているのでしょう。英語で「サンキュー」と口ぐちにわたしに向かって言ってくれます。意外に身ぎれいでさきほど粗末なボートに乗って物乞いをした子供のような必死さはありません。学校が受け皿になっているからでしょうか。 青年が台所に連れていってくれました。 炊いたごはんと、ちょうど魚料理を作っているところ。 驚いたのは食用の水。水上生活ゆえの衛生面の不備が際立ちます。 子供たちがキチンとした教育を受け、安定した環境で暮らすためにも観光客の落とすお金は貴重です。 それゆえに、「ぼったくり」と呼ばれるような現行のシステムは大きな可能性をつぶしているようにわたしには思えてなりません。そこに気づいて現状を変えることができるのは地元の人たちであるべき。 次世代の若い人たちが希望です。 複雑な思いを胸に、帰路につく。 隣に座った青年に語る。 「これはアナタに言ってもしょうがないことかもしれないけれど。貧しい人や子供たちを助けることは大切。だけれど2時間のクルーズに30ドルも払っている観光客にさらにモノを買わせるシステムはおかしいと思わない?」 来るとき、「自分でビジネスをしたい」と語った青年はじっと前を見つめて考える。 「観光客は貧しい人たちの暮らしを見たいのではなく、ここにしかない生活環境を教えてほしいの。それを伝えることができるのがここで暮らすアナタたち。トンレサップ湖に来てよかったって言われたらうれしいよね」 かるくうなづく青年。 やがて、船着き場が見えてきました。 2時間のクルーズが終了です。 結論として、ある程度、英語での交渉や不要な提案に対して「ノー」ときっぱり拒絶する強さがなければ個人でチャーターするのは現状、おすすめしません。シェムリアップのホテルからの送迎とガイドがついた現地発ツアーを予約をするのが最もいい方法でしょう。わたしが今回支払ったのはシェムリアップからのトゥクトゥク代15ドルとクルーズ代30ドル。現地発ツアーも同じくらいの料金で見つかるはずです。 船着き場にはこれから乗船する中国や韓国人のグループ。 カンボジアは観光客も受け入れ側もこれから多くのことを学習し、成熟していくのでしょう。 きちんとしたサービスを提供してその対価を得る。 そこからが、はじまりです。 がんばってね、青年たち。
by naoko_terada
| 2016-07-19 05:39
| トラベル
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Comments(2)
Commented
by
守子
at 2021-05-04 03:30
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ぼったくりに対抗する策を教えて下さりありがとうございます。私も昨年クアラルンプールで日本人を狙うぼったくりにやられそうになりました。日本人ってあらゆる国で簡単なターゲットと思われてるみたいですね。寺田さんのような旅行上級者の方が海外旅行者に注意喚起する機会がもっとあればいいのにと思います。
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Commented
by
naoko_terada at 2021-06-18 13:42
守子さま
コメントありがとうございます。返信遅くなりすみません! 心優しい日本人はどうしても海外で被害にあうことが多いですね。善意の気持ちもあるでしょうし。観光客が支払ったお金が的確に地元の経済、社会にまわっていくといいなといつも思っています。
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筆者のプロフィール
寺田直子(てらだなおこ)
トラベルジャーナリスト。旅歴30年。訪れた国は90ヶ国超え。女性誌、旅行サイト、新聞、週刊誌などで紀行文、旅情報などを執筆。独自の視点とトレンドを考えた斬新な切り口には定評あり。日本の観光活性化にも尽力。著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)」、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)、「フランスの美しい村を歩く」(東海教育研究所)など。 問い合わせメール happytraveldays@aol.com インスタグラム Happy Travel Days 寺田直子 ツイッター ブログパーツ
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