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長友啓典
Keisuke Nagatomo
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1939年大阪生まれ。1964年桑沢デザイン研究所卒業。日本デザインセンター入社。1969年黒田征太郎とK2設立。
エディトリアル、各種広告、企業CI、及びイベント会場構成のアートディレクションを手がけるほか、多数の小説に挿絵、エッセイ連載など、現在に至る。
日本工学院専門学校グラフィックデザイン科顧問
、東京造形大学客員教授




Translation to English

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装丁問答イッキ読み
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「PIKADON」
衣食住をテーマにイノチのことを考えます。




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装丁問答.38
装丁問答.38_c0009877_17382187.jpg
あとんvol.39に掲載された装丁問答です。残念ながら「あとん」誌はこの号にて休刊となりました。長い間おつきあい頂きありがとうございました。またどこかで装丁の連載が出来れば良いなぁと考えています。ではとりあえず最後の装丁問答です。



装丁問答.38 明治生まれの装丁家、その気概と悩み

 恩地孝四郎さんという明治生まれの高名な版画家の方がおられた。世界的に名をなした方なんだが、僕が初めてその人を知ったのは、版画家じゃなく装丁家としてであった。
 装丁するにあたり、当時多くの画家たちが極端にいえば、自分の出来あいの作品を表紙にはめ込んでいることが多かった。あるいは片手間の仕事として装丁を生活の糧としていた。  
 デザインが図案といわれていたころである。図案家(デザイナー)のやる事は可もなく不可もなく、それなりの乃第点をとるが、画家の仕事は時々ホームランをかっ飛ばすような驚きを提供してくれる。三振かホームランなので安心して頼めないところが版元にはあったようだが、カンフル剤としては必要だったのではなかろうか? この傾向は現在も少なからず残っている。

 恩地孝四郎という人のことをもっと知りたくて、ことあるごとに古本屋さんに出向いては探し求めていたところ、ついに見つけました。『本の美術』という本を。飛び上がらんばかりに、これがほんとの「欣喜雀躍」というものか。他の本が目に入らない、いわゆるモザイクがかかっている状態で『本の美術』が浮上してきたんです。
装丁問答.38_c0009877_17384844.jpg

 この本で、恩地孝四郎という人となりを知れば知る程に装丁の難しさを知り、と同時に面白さも知った。流通の事、印刷技術の発達、文字の進歩にも拘らず、当時の装丁家と現在のブックデザイナーの悩みがあまりにも変っていないのにも驚かされた。

 本文中の一節をご紹介しよう。「……僕たちは教科書に組み入れられている小説によく出会う。その場合、この小説は何とつまらない小説だろうと感じる。あとでその同じものを快く組まれた本で見たとする。この場合、教科書で読んだのとたいそう違ったものを感じることだと思う。まず面白い小説の標本のようになっている漱石の『吾輩は猫である』はよく教科書に入っているが、その際は一向に面白くない。なんだ、こんなつまらないのなら読む必要はないなんてことにし兼ねないほどではないでしょうか。今ここで言ってみたのは本の美術のうち配字、字組についての事だが、その他にもさまざまな要素があるわけだ。本へのデザインといったのは、つまりこの美術要素についての配慮ということになる……」
装丁問答.38_c0009877_17392098.jpg

 これは昭和27(1952)年に上梓されたものであるが、全く今と変らない。配字、字組はレイアウトとフォントの選び方であり、その他の要素とは紙の選択であるとか色の選び方などであろう。様々な要素によって本の仕上がりの印象が随分と違ってくるのだといっている。

 今も昔も悩みは変っていないということになる。流石に今どきは絵描きさんの片手間ということがなくなりつつありますが、装丁で生計をたてている人は「まれ」である。こんな一文も目についた。
「……小生の如き、主収入は装本であるが、これを四十年近く続けているが到底老後の憂なきにはゆかない。装本は片手間にやるか、ある期間の収入の方便としてやるような人が多いのも当然だ。著者に著者の印税制の確立している日本で、装本か印税であってもいいという話は、一般の方ではうなずくが、出版社側の同意は得られない……」
 通常、著者には10%の印税といわれている。編集の方々にデザイナー印税を1%でも0.5%でもよいから付けて下さいよと相談するが埒が明かない。

 息子さんである恩地邦郎氏がこうも語っておられる。「装幀家として第一人者として認められていたものの原稿料は安く、当時とても生活の糧といえる程のものにならなかった。それでもなお営々と装幀の仕事を続けていた」この一文でこの稿の〆としたい。
by k2-d | 2008-08-13 17:40 | 装丁問答
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