【秦 基博『ひとみみぼれ』セルフ・ライナーノーツ】
現在もロングヒットが続く充実の4thアルバム『Signed POP』を今年初頭にリリースした秦 基博が、セルフ・セレクション・アルバム『ひとみみぼれ』を10月16日にリリースする。基本的に本作は、秦の既発の音源を使用しながらも、ベスト盤ともカップリング曲集とも言い切れない意表を突いたコンピレーション・アルバムとなっている。エキサイトミュージックではこの『ひとみみぼれ』のレビューと秦 基博の動画コメントを掲載中。ここでは、レビュー内では掲載しきれなかった『ひとみみぼれ』の秦 基博本人による全曲解説を紹介します。
1.Girl
今回の『ひとみみぼれ』というコンセプトの象徴であり、スタート地点になった曲。CMで耳にして「この曲を歌ってるの誰?」って気になっていた人も多いと思うんです。サビはじまりということもあってか、ライヴで歌い出したときのお客さんの反応もすごくよくて。僕の中では「アイ」「鱗(うろこ)」に匹敵する存在になってきましたね。歌っている内容もはっきりしていて、「とにかくGirlという対象を守りたい」ってズバッと言い切ってるところがPOPなんだと思います。
2.月に向かって打て
この曲は結果的にカップリングになったけど、『Signed POP』に入ってもおかしくなかった曲なんです。アルバム曲と一緒に作っていて、他が重厚な曲が多かったので、ホッとできる要素としてアルバムに入れたかったんけど、カップリングに回ることになり。でもカップリング曲の悲しい運命として、どうしても目立たなくて(苦笑)。それで「もう一回ちゃんと聴いてほしい! 陽の目を見てほしい!」と思って今回は選曲。歌詞のテーマ性と言葉遊びは特にうまくいきましたね。
3.トラノコ
こういうお気楽でハッピーな曲って、すごく大事だと思うんです。それがライヴでも明るい空気を運んでくれて、今は相当助けられてます。楽曲的にはジャック・ジョンソンみたいなサーフ系に挑戦していることも珍しいし、早口で歌ってる部分とか遊び心がふんだんに含まれていますね。これも本当は『Signed POP』に入れたかったけど、曲が多すぎてはじかれてしまって…。『エンドロールEP』に入ってる4曲は僕の中で並列の重みがあって、カップリングという感覚とはまた少し違うんですよ。
4.今日もきっと
『Documentary』ツアーの1曲目に選んだこともあるけど、『Documentary』というアルバムを象徴する曲ですね。あと、3月11日の震災直後、YouTube内のAUGUSTA CHANNELにアップした弾き語り演奏のひとつがこの曲で(もう1曲は「鱗(うろこ)」)。それは仙台の人がネットに書き込んでくれた文面がきっかけ。電気も止まって不安な中、ラジオから「今日もきっと」が流れて、気持ちをつないだって言ってくれたんです。この曲が少しでも誰かの助けになったことが嬉しかったし、それは僕にとっても本当に助けになりました。
5.SEA
僕の曲の中でこういう曲って他にないと思うんです。コーラスが分厚くて、ドゥービー・ブラザーズにも近いサザンロックの香りがする。スタジオで(久保田)光太郎さんとアコースティックなロックを追求していったら自然とこういうアレンジになったんです。『Documentary』のレコーディングが佳境の頃に作った作品だけど、この歌詞はほとんど悩まず一気に書き上げました。そういう集中度の高い状態というか、僕のノリにノッてるときの状態がよく出ている曲だと思います(笑)。
6.My Sole, My Soul
これも『Documentary』制作期の終盤に作った曲で、詞曲のすべてを1日半で作ったんです。別の曲のミックスの仕上がりを待っている間、スタジオの小部屋でギター弾いて、次の日に歌詞を書きあげて。追い込まれてたからかもしれないけど(笑)、これまでの曲作り人生の中でも最短。でもその一筆書きがハマってますよね。いま振り返ってもどうしてこんな曲が書けたのかわからないくらい、歌詞もキレイに決まっていて。邪念が入り込むスキがない、凛とした雰囲気があるんです。
7.花咲きポプラ
これはライヴで育った曲。だからライヴに来てくれた人の方が思い入れは強いんじゃないかな? 曲を作るときから、モータウン調でライヴ映えする曲っていうイメージは出来ていて。でも実際は自分の想像以上に好意的に受け入れられましたね。この曲は『Signed POP』ツアーでもほとんどの会場でやったし、GREEN MINDでも定番。今やライヴに欠かせない曲と言っても過言ではないと思います。あと歌詞の中に“僕と君と彼”の3人が出てくるスタイルは他の曲にはないものですね。
8.Honey Trap
これもそれまでの僕のイメージを打ち破るチャレンジをした曲です。特に歌詞の世界。過去にも「Lily」とかあったけど、よりセクシーでエロな一面を打ち出したというか。やっぱりデビューしてから「爽やかですね」って言われることが多くて。そんな中で生々しい表現に挑戦したい気持ちもあったし、楽曲のバリエーションとしても異なるものを必要としていたんです。あと、「Girl」と同じ“歌はじまりの曲”ということも『一耳惚れ』というコンセプトに合っていると思います。
9.色彩
『コントラスト』からは1曲目と最終曲を選びました。それが一番象徴的な気がして。「色彩」は1stアルバムの1曲目ということを徹底的に考えて書き下ろした曲。それまでは“アコースティックなシンガーソングライター”っていう印象が強かったけど、アルバムはゴリゴリのロックからはじまるっていう裏切りを見せたくて。だから曲の作り方も初期衝動優先。「これからやっていくぞ!」っていう、あの時期にしか出せない熱が込められたミュージシャンとしての宣言文ですね。
10.風景
そして『コントラスト』最終曲。コアなファンの人にとっては、もう僕の代表曲のひとつになっている気がします。ずっと好きだったキャロル・キングに通じる一曲。そして『Signed POP』でいうと「綴る」に相当する、アルバム全体を総括する一曲。当時の僕の中ではすごく大きな楽曲だったけど、それが年月を経て、みんなの中にも根付いてくれたことは幸せなことだと思います。ちなみに第1回目の【GREEN MIND】の1曲目は即決で「風景」にしました。僕にとってはそれくらい大事な曲なんです。
11.プール
これはまず「プール」という題名の曲を書こうと思ったんです。直観的にそういう曲が書きたいと思って。それでなにげなくメモした言葉にメロディを付けていく作り方をしました。この曲も僕の想像以上に、みんなの中に広がっていった曲ですね。テーマ的にもプールというイメージを起点に、深いところまで潜っていった懐の深い楽曲になりました。この頃はとにかく景色が見える感じ、匂い、色彩が伝わる楽曲を作りたいと奮闘していた時期です。
12.dot
デビュー前に作った曲で、きっかけは水玉で知られる草間彌生(前衛芸術家)と山下清(画家)のちぎり絵。当時僕は美術品を運搬するアルバイトをやっていて、そういう点描画の感覚を歌詞で表現してみたんです。この曲もある時期にしか作り得ない刹那な空気が入ってますね。歌詞も抽象的で“10tもの水”とか“悦にひたる”とか、今なら絶対使わない言葉を使ってる。あの頃は曲作りのスタイルを模索していた時期だけど、「dot」と「朝が来る前に」が出来たときは大きな手応えを感じたことを憶えています。
13.やわらかな午後に遅い朝食を
この曲はデビューシングルのカップリングですけど、デビューするにあたって「シンクロ」だけだと不十分な気がしたんです。どうしても「シンクロ」と一緒に、シンガーソングライターとしての僕の本質がむき出しになった曲を聴いてほしくて。そういう意味では、デビューを前にして、意志をもって作った曲だと言えるかも。アコースティックへのこだわりも含めて、こういう私的で内省的な歌を歌う人が「シンクロ」みたいな曲も歌うってことが重要だと思ったんです。
14.スプリングハズカム
一番最近録音した曲で、今春のFM802のキャンペーンソングとして書き下ろした曲。そのときはレキシがプロデュースしてくれたけど、今回それを『Signed POP』のツアーメンバーでセルフカバーしました。『Signed POP』を作り終えた後、最初に書いた曲がこの曲じゃないかな? やっぱり僕にとって『Signed POP』以前と以降はモードが違うというか、あそこでひとつ抜けた感じがあるんです。この曲は遊びもいっぱい入ってるけど、楽しんで音楽をやっている感じが曲に相応しいのかなと思います。
15.アイ-弾き語りVersion-
「アイ」も「鱗(うろこ)」も僕の代表曲と呼ばれるものだけど、それを僕の音楽の原点である弾き語りで聴いてもらうことは『ひとみみぼれ』というコンセプトに合っている気がしたんです。曲も詞も歌も演奏も、全部自分がやってるので雑味がないというか、「これは素材のままどうぞ」という感じ(笑)。「アイ」に関してはまだまだ届いていない人がいると思うので、これからも歌い続けていくつもりです。やっぱり秦 基博の音楽を伝えるための“現時点での一番強い手札”ですね。
16.鱗(うろこ)-弾き語りVersion-
デビュー以降、一番頻繁に歌ってるのがこの曲だと思います。曲が出来たときには、ここまでの曲になると思わなかったけど、劇的に変化したのは亀田(誠治)さんにアレンジしてもらってから。そのとき、自分の曲だけど自分のものじゃなくなる瞬間があって。そういう音楽の化学反応を僕に教えてくれた曲でもあります。今、そのアレンジを脱いで改めてギター一本で歌うことは、僕の7年ぶんの変化を確かめるいい機会なのかもしれません。7年ものの「鱗(うろこ)」、ぜひ味わってみてください(笑)。
⇒秦 基博 セルフ・セレクション・アルバム『ひとみみぼれ』レビューを読む
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by music_editor
| 2013-10-15 15:36
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