植田真梨恵『センチメンタルなリズム』全曲解説 |
【植田真梨恵『センチメンタルなリズム』全曲解説】
感情型シンガーソングライター“植田真梨恵”。21歳の彼女が、前作『葬るリキッドルーム』から1年と10ヵ月、インディーズラストにして、初めてのフルアルバムとなる、万感の思いをこめた最新作『センチメンタルなリズム』を4月18日にリリースする。そこで、植田真梨恵自身による『センチメンタルなリズム』全曲解説をお届けしよう。
1.センチメンタリズム
そもそも、すごくキャッチーな曲を作りたいと思っている時期に出来た一曲で、たしか、サビの「センチメンターリーズームーズームー」っていうフレーズが、TSUTAYA さんにCDを返しに行く途中、ふいに口から出てきて、そこから作り始めたんです。
PVでは、この曲の、底抜けに明るい部分とどろどろした部分と、両方同時に、痛快に出したいっていうことが念頭にあって。一個の人間の個体の、中と外での対比と両立とを、今までの植田真梨恵よりずっとキャッチーで、ダイレクトで、ちゃんと自信もって世の中に出せるようなものを作りたいと思っていました。セットや背景は夢の中みたいな、体内みたいなイメージです。あ、PVの中に出てくる、猿のお医者さんが可愛いんですよ。私のイメージでは、もっと本物さながらに怖い、野蛮でウキキキッ!って歯を剥き出したような猿のお医者さんのイメージだったんですが、だいぶ可愛いほんわかしたお医者さん猿になりました。そこも注目して、ぜひ見てみてくださいな。
日常を駆け抜けていく中で、私たちは寂しいとかつらいとか、そういう感情に対して、目をふさぎがちだと思うんですけど、みんなそれぞれに抱えている感情の波みたいなものを歌えたらいいなと思っています。この曲もそう。で、特にこの曲の音源化は、初披露(ライヴ)からだーいぶお待たせしてしまったように思うんで、たくさん聴いてくださったら嬉しいな。
2.壊して
「センチメンタリズム」の流れで書いた曲。この頃、「“良い曲”をたくさん作りたい」っていう思いがみなぎっていて、じつは、このアルバムに収録された曲たちは大体、その“良い曲”に当てはまるものばかりを選出しています。私の言いたい“良い曲”っていうのは、覚えやすくて、ドカンときて、歌いたくなる、みたいなことです。心に響くものをっていうのは、もちろん根底にあります。
「センチメンタリズム」みたいなキャッチーな曲を書くと、同時にもっとエッジの効いたものを作りたくなって、その上でそんな曲が、カラオケで歌いたくなるような曲であれば、なおカッコいいなあーと思っていました。ライヴでやったらカッコいいだろうなーと思いながら、書いた曲です。
“エッジの効いたものを”とは言いつつも、歌詞で歌ってることは、女の子だったら誰しもが思うようなことなんじゃないかなと思います。たぶん、自分の感情や欲求に素直に従っていきたいだけなんです。生きていたら、薄っぺらなものばかりだから、自分も含めて。そういうものが心底憎たらしくって、忌み嫌っていて、そういう世界を! 私を! 全てを、体だけじゃなくて全部を、好きな人に壊してもらいたいっていう、ふっとした瞬間的な、希望のお話です。言葉にすると難しいなあ。
3.メリーゴーランド
昔からフルアルバムの3曲目って、いちばん良い歌っていうイメージがあって。J-POP に限った話なのですが、小4くらいの時から密かに思っていたんです。持論です。これ、私が思う、今までの私の、いちばん良い歌なんですよ。
この曲は、眠っている時に、夢の中で曲の断片が出来てきていて、朝5時くらいにガバッと起きて、半分寝たまま半時間ほどで書き上げたように記憶しています。よっぽど作曲が日常を占めていたんだなあ。ちなみに、<降りる こんなメリーゴーランド>っていうのは、大好きな映画の台詞からそのまま使っています。
そして、これを書いた頃、末光篤さんとか、ベン・フォールズ熱の周期も来ていたりで、骨の太いピアノロックで、爽やかで、疾走感があって、みたいなものにはまってたんだと思います。曲作りや音楽においてもそうだし、人間関係などで、よく自己嫌悪に陥ったり、少しつらかったりした時期もあって、でも今思えば、その時何がつらかったのかもわかんないんですけど。こんなふうに、辛くなったり、忘れていったり、そういう想いを繰り返す周期の中で、良い意味でも悪い意味でも、良くも悪くも、生きていれば、なんとかなってしまうから。そういう周期の中で、それでも攻めて、闘い続けている人に、歌いたい歌です。自分も含めて。
4.シンクロ
このアルバムの中でも、この「シンクロ」という曲は、わりと早い段階に出来ていたほうの曲で、アコギのライヴでもよく歌ってる一曲です。性格上なのか、ついつい終わりにドーーン!って来る曲を作ってしまいがちで、あれはあれで好きなんだけども、「シンクロ」はその逆。ずーっと一定のリズムで歩いているような、みんなで手だって叩けるような一曲になりました。こういうのも好き。アレンジをdoa の徳永暁人さん(私、バースデーが同日!)にお願いして、徳永さんが仮歌を入れてきてくださったのですが、男性が歌ってもなんとも素敵でした。あ、徳永さんだから素敵なのかなあー。
そもそもは、音楽仲間の友達と、お互いのイメージで一曲、書き合ってみようっていう遊びの中で、ぴょぴょって生まれてきた曲です。友達とか、特に大切な人には、心の中で思ってることがちゃんとそのまんま、正しい形で伝わればいいのになあって思って、書いた一曲です。
5.飛び込め
これがいわゆる私の、終わりにドーーン!って来る系の曲です。弾き語りでも歌っていて、特にミュージシャンの友達によく好いてもらっていたのが印象深いです。私もまんざらでもなくて、いつかシングルとして出したっていいと思っていました。長いし、サビまで遠いから全然シングル向きじゃないんですけどね。2010年の9月のワンマンの時に、会場限定で着うた配信とかもしたりしてたんです。いまだに着うた持ってる人もいるのかなー。いたら素敵だな!
私は地元が福岡なのですが、夢を追って上京したりする友達も周りに何人かいて、私も同じように、みんなより少しだけ早めに、一人で、大阪で生活を始めたりしたこともあって、そんな不安な想いを抱えていることにとても共感を覚えたし、応援もしたくて。そして、曲が出来上がってライヴで初めて歌った時に、本当に歌で、誰かを応援することだって可能なんだなーと、気付いたことを覚えています。何か始めようとしている人や、逆に何かを終わらそうとしてる人に、聴いてほしい歌です。常に環境も生きてく場所も変わるけど、人生の中で悩んで、迷って進んでいく道に、間違っていることなんて全然ないと思います。思いきり、飛び込んでいってほしいです。
6.G
私は出身が福岡県の久留米市なんですが、お正月のお休みで地元に帰る時に、新幹線の車内で書いた歌詞を元に作った曲です。帰省ラッシュの車内は大混雑で、新幹線のぞみの乗車率は130%にも及んでいました。私はヘッドホンで音楽を聴きながら、乗り合わせた知らない人たちの顔をぼんやり眺めて、いろんなことを考えていました。関係なく生きてる他人たちが、こうして一時は同じ場所に、こんな狭い車内でぎゅうぎゅうに集まって、別れて、またバラバラの場所でバラバラに集まっていくだけのことなんだけど、私たちの生きていく日常だってそれを少し大きい範囲で見ただけのことのような気がしたり。そしてきっと、新幹線に乗って、みんなそれぞれ、誰かに会いに行くんだなと思いました。遠くに住んでるから、たまにしか会えない人たちに会いに行くんですね。素敵です。
それから、あんまり関係ないんですけど、私は三半規管が弱いのか、すぐに車に酔います。あと、新幹線やエレベーターなんかでGがかかったら、すぐに耳がキューーーーーンになります。治す時はゴクンと唾を飲んだり、大きくあうっと口を開けると治ります。大きくあうっと口を開ける時、いつも映画『LEON』のゲイリー・オールドマンが、トイレで薬を噛んであうっとするのを思い出します。好きな映画です。話がそれましたが、タイトルの「G」は、“gravity”の「G」です。下に向かって働く重力を表わす記号なのに、「G」という文字は右上に向かっていく矢印みたいに見えます。懐かしい雰囲気がレトロでポップな一曲です。
7.愛おしい今日
「センチメンタリズム」「壊して」「メリーゴーランド」などが出来て、形になった後の流れで、私の中でとっても歌ものー!なブームが到来しました。歌がまっすぐに届けられるもの、それで作ったのがこの「愛おしい今日」や「優しい悪魔」でした。種が出来た季節はたしか秋口で、ひたすら鍵盤で作曲をしていたことを覚えています。
もともとピアノとチェロの編成が大好きで、この曲はストリングスもたっぷり入れて、ボレロでリズムを刻んでというイメージがあったので、クラシックの雰囲気を持つ仕上がりになっています。「センチメンタリズム」で歌っているような、植田真梨恵流の“「会いたい」ばっかりのラブソング”です。「永遠」とか「ずっと」っていうのは後付けでついてくるもので、そもそも好きになった時に、その人への愛を永遠に誓ったりすることに疑問を覚えたりしました。「とても好きだ」っていう今日が繰り返されて、積み重なって、結果的にそれが永遠になるのは素敵だけど、約束したからずっと好きでいるなんて、ちょっと寂しく感じます。そんな風に、今日の積み重ねで大切な人とずっと一緒にいられたら、素敵だと思います。恋愛をしているすべての人に、聴いてもらいたいです。
8.ミルキー
冒頭から<ミルキーななまのあしー>と歌っています。ママの味のやつです。デモの段階からAメロのメインのボーカルは、ハイとロウのぴったりしたユニゾンにしたくて、ロウの声は男性がいいなと思っていました。それで、前々から「いい声だなあ」と思っていた、GARNET CROWの岡本仁志さんにコーラスをお願いしたんですが、ギタリストさんなので、歌だけのお願いは珍しいことだったらしく、とても不思議がっていらっしゃいました。独特で素敵な歌声だと思います。
この曲は、タイアップで使っていただいたこともあって、PVも作ったんですが、原案とセットを自分で考えさせてもらいました。大量の白い紙の中で、白いストラトを持って、ジャンプするっていうもの。そこにプロジェクターで光と、私の写真をパチパチ映していくという映像になっています。あまり作り込まない、シンプルな映像にしたいと思っていました。この日着てた服は、イメージに合うものを結構探し回ったのですが、頭からペンキをかぶるラストシーンでそっこーおじゃんになりました。デニムは最近でも履いてます。
9.旋回呪文
このアルバムでいちばん異色を放っている一曲かなーと思っています。ギターの感じとかも、私の曲には珍しい感じです。そもそも、最初のデモは昔に作った曲すぎて、個人的には収録しようかなーと一瞬悩んだりもしました。結果、入れちゃいました。
じつはどんな風な意図で作ったのかも、この時にどんな状況でどんな心境だったのかも、全く思い出せません。そんなこともあるんだなあ! そうだ。曲が出来上がったのちに知るのですが、サビ終わりに「ヤー! 」と言っているのは、どうやら福岡だけだったようです。福岡では、体育などの号令で、受け答えをする時に「ヤー!」と言うのです。「腰をあげ!」「ヤー!」、「腰を下ろせ!」「ヤー!」って。子供の頃からそうやって教えられてきたのに。この「ヤー!」もまさに受け答えのつもりで書いた歌詞でした。方言だと知った時はたまげました。
この曲もぐるぐるとした周期の中の、ダウナーに振れている時の曲だと思います。しかし、歌詞の文字数の多いこと! 今となっては、よくこんな歌詞書いたと思います。早口すぎて、レコーディング時は苦労しました…。良い思い出です。
10.まわる日々
寒ーーーい日に、自転車でうちへ帰っている最中に出来た曲です。だいたい2月くらいのイメージなので、冬のバンドライヴでは、以前から何度も演奏していました。
高速道路とかのオレンジの外灯がすごく好きなんですね。遠くから見ると等間隔に並べられてて、目盛りみたいで可愛いです。その中をいつも行ったり来たりするだけだよなー私たちは、と思ったんです。そしたら、何て狭い世界を生きているんだろう、と。毎日限られた時間のなかで、限られた範囲の世界のなかに生きていて、だけどそんな日常で、いろんな人たちと出会ったり、知らなかった場所へ行けたりするから、毎日その可能性を使いきっていけたらいいなあと思っています。
このアルバムの中でもっともストレートでシンプルなギターロックだと思います。ライヴでも楽しい一曲なんで、「何やってんだー」って、ぜひ一緒に歌ってください。
11.優しい悪魔
アルバムももう終盤に差し掛かってきました。今まで生きてきて、もう何度も、この世界とサヨナラしたいと思ったことがあります。その時々の理由はまあ、あるけど、たいていの場合は私が腐ってきていて、それを私自身が許せなくなって、その度に、もう終わりだ、もうさよならだと、ギリギリの頭で判断して、決意したりするのですが、なかなかサヨナラできないんです。それでいいんですが。
そっちの方向に踏み込むのは、終わりを選ぶのは、とてつもなく甘い選択だと思います。いつもそういう甘さが、常々私を引っ張ってきます。とても合理的にすら思えてしまうから、困るんです。で、ちょっとしたことで、ちょっとずつ大丈夫になって、そしてまたしばらくしたら腐ってきて、すっかり落ち込んで、ギリギリのところで踏みとどまって、って、その繰り返しだと思います。そして、それでいいんだよなーと思っています。大事なのは、もうギリギリでも踏みとどまって、もう少しだけっていうほんのちょっとのパワーです。それでなんとかちょっと頑張れるのならば、十分だと思うんです。
これまでの私の歌で、いちばん暗いトーンで描いた曲です。だけど、ちゃんと希望はあるから、ほんの少しの希望を感じてほしくて、どうしてもこのアルバム中に収録したいと思いました。同じような思いを抱えている人に、聴いてほしいです。
12.よるのさんぽ
ここ一年くらい、ピアノとアコギという編成のライヴが増えて、音楽やライヴの新たな面白さをたくさん見つけることができました。それで、ピアノとアコギで完全体というイメージで作ったのが、「よるのさんぽ」です。ピアノは、ライヴでよくサポートをしてもらっている、アカシアオルケスタの西村広文さんに弾いてもらいました。感情の波がどーっしり伝わってくる独特な雰囲気と、ウォーキング感ありきで作ってみました。西村さんならではです。
FM802さんの『NIGHT RAMBLER』では、DJの野村雅夫さんがこの曲を偶然ライヴで聴いて気に入ってくださって、しかも番組ジングルとして使っていただいてと、とっても嬉しい限りです。番組ジングルになるなんて生まれて初めてのことで、いやはや感激しました。
春夏秋冬通して、夜の散歩がすきです。一人でなにかを考えたい時に、夜の散歩に出かけるように思います。このアルバムの中でこの曲だけが、基本的にピアノとアコギしか入っていない曲です。CDを通して少しでも生感が伝わったらいいなと思っています。
13.変革の気、蜂蜜の夕陽
さて、いよいよアルバムの最後の曲です。この曲の編曲は、もともと友人でもあるneutrinosの二人です。そもそも彼らの作る音が大好きで、なんだかおとぎ話みたいな、魔法の国みたいな、小さな湖の中の蛙のお城みたいな、ふっしぎーーな世界に、ぜひ私の曲も連れてってほしい!と思ったことがきっかけです。こういうループ感とか、ジュワジュワした感じは、私の曲には他にないです。私の歌って、私が客観的に
聴いても感情過多な感じがするんだけども、この編曲のおかげでだいぶ違う聴こえ方がしています。ぜひ確かめてほしいな。
あと、これを書きはじめる時、歌詞を縦書きで書きはじめたら、いつものクセと違う感じの雰囲気になりました。それもあって、歌詞カードもそのまま縦書きで表記しています。イメージは、宇宙スケールでのロマンチックな感じ!と思っていて、子供のころの思い出とか、怖かったこととかをたくさん思い出しながら書いていました。立ち向かえないくらい大きいものへの恐怖とか、そこに立ち向かってく無謀さも、勇気も、全部いっぺんにまとめて、世界を愛せたらと、思っています。
⇒植田真梨恵 1stフルアルバム『センチメンタルなリズム』レビューを読む