心に余裕を持たないのは「もったいない」/文:野口健


心に余裕を持たないのは「もったいない」/文:野口健_a0083222_1184932.jpg


エベレストで清掃登山を続けているうちにわかったことがある。精神的な余裕を持たない登山隊ほどごみを捨てる。そして命も落としやすいのだ。

ヒマラヤ地域は5月ごろになるとモンスーンの影響で悪天候の日が続き、雪崩の危険性が増す。ベースキャンプで天候が回復する日を待つことになる。

山頂アタックが無理だと判断すると、ヨーロッパの登山隊は「しょうがない。来年がんばろう」とその場でパーティーを始める。残りの時間を有意義に楽しむのだ。こういう隊は命を落とす事故が少ないし、ごみも残さない。

逆に天候が悪くてもチャレンジすべきか説破詰まった雰囲気で議論している隊の場合は、登頂を決行して命を落とすケースが多い。同時にごみを残したまま下山する。不思議と命を落とす隊とゴミを残す隊が符合する。

私も以前は、山に登ると目先のことにとらわれて視野が狭くなり、無理を押してアタックしたことがある。結果は運よく命を落とすことはなかったが、失敗することも多かった。だから私自身、その心境は理解できる。

その点、ヨーロッパの登山家はベースキャンプでの過ごし方がうまい。そもそも窮屈なテントを使わずに、ゆったりとしたものを用意する。しかも、くつろげるソファーセットを置いて映画を見る液晶テレビがあったり、お酒が飲めるカウンターバーを備え付けたりもする。そうやって極度に緊張した神経をリラックスさせる。そして活力を取り戻し、冷静な判断能力を養って頂上にアタックするのだ。極限状態の中でも精神のバランス感覚の取り方が見事としか言いようがない。

一方、アジアの登山隊はベースキャンプにいても修行のようなところがある。我慢することが当たり前で精神や肉体を休める余裕がない。常に精神がオンの状態なのだ。その結果、追いつめられると冷静な判断能力を失ってしまう。

私はヨーロッパ隊に見習って、ベースキャンプではリラックスできる環境をつくることにしている。危険な場所から戻ってきても、テントに入れば極度の緊張状態から精神が解放されるのだ。当然食事にも気を使う。

肉体や精神が満たされると、人間は心の余裕が生まれる。視野が広くなり、冷静な判断を下せるようになる。そこから次の活動のヒントを思いつくことも多い。心の余裕は視野を広げるためのきっかけでもあるのだ。これは日常生活や仕事のほかに、こういった環境活動でも有効だと思う。


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<お知らせ>
野口健さんの新刊が発売されました。
新書『富士山を汚すのは誰か―清掃登山と環境問題』(角川書店)
   by mottainai-lab | 2008-09-04 11:10 | 野口健 | Comments(1)
Commented at 2008-09-04 13:45 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
  
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