もったいないの罠がそこにある。

文/箭内道彦

3年半前、13年勤めた会社を辞めて独立した。

一生勤める気がしていた会社だった。
まるで学校を卒業するように次々と独立していく優秀な先輩達を
後悔させてやろうといつも思っていた。
「会社にいたほうがこんなに自由で面白いよ」と。
「だったら辞めなきゃよかったのに」と。

いい会社だった。
金髪頭と派手服を笑って許してくれた。
一ヶ月以上会社に行かずに外で仕事してても、
誰も何も言わなかった。
上司も部下もいないたったひとりの部署をつくってくれた。
大きな仕事もろくにしてない僕なのに、本当に可愛がってくれた。

社内報に取材されて一生辞めません宣言をした数日後、
突発的に僕は退職の決断をした。
局長と衝突したわけでも、金儲けをしてみたたくなったわけでも、
新しい環境に身を置いて自分の力を試してみたくなったわけでもない。
「自分の中に流れている時間」と
「会社の中を流れている時間」
ふたつの時間の速度差を決定的に感じてしまったのだ。
そのことだけがある日突然どうしても我慢できなくなってしまった。

その日僕は
「この会社をもっとこうしたい。こうすべきです。」と
ある重役(僕を一番応援してくれていたとてもいい人)に訴えた。
辞めた人がもっと後悔する会社にしていくために。
その重役は言った。
「うん、よくわかる。箭内、あと5年待ってみろ。会社は変わるぞ。」と。

え?

僕が5年後、生きている保証は誰もできない。
すでに60歳近くまで生きたその人に言われても
僕には何の説得力も感じれなかった。
そのたった一言だけがきっかけだった。
今すぐやりたい、
やらなきゃいけない
ことが頭の中にドボドボと溢れ出し出した。
焦った。
時間がもったいないと。
その会社の時間はとてもゆっくり流れていた。
言い返す気さえ失せる程に。

明日は無いかも知れないと思って生きることと
自分に5年後10年後20年後があると当然のように考えること
どっちが正しくて正しくないかなんてわからない。
もちろんそれはそれぞれの選択。
僕は時間がないと思った。
もったいないと思った。
ゆっくり生きるのは。

「もったいない」が僕の背中を押してくれた。
すぐに「退職金支給願」を提出した。
(その会社に「辞職願」や「退職届」~よくドラマにでてくるような
はない。それがほんのちょっとだけ屈辱的。
ちなみに退職金は13年で312万円、
事務所設立にすべて消えました。)

何の計画も
何の勝算も無かった。
ああ、辞めるってこんなあっけないんだあ
と無感情に思ったのを覚えている。

今でも好きな大好きな会社だった。
辞める時、何人かの人が心配して言ってくれた。
「せっかく入った大きな会社を辞めて不安定な世界に行くなんて
もったいない。」と。

もったいないの罠がそこにある。

箭内道彦
   by mottainai-lab | 2006-11-23 12:31 | 箭内道彦 | Comments(2)
Commented at 2007-01-10 02:09 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented at 2007-06-07 15:31 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
  
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