長崎新聞「二毛作」

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2012年 2月17日 長崎新聞 うず潮 タイトル「二毛作」 宮下由美子

先月、長崎新聞社主催の講演会、DO-ITに参加した。
講師は作家の林真理子さんだ。
私は一年前から、その日を待ちわびていた。
当日、何を着て行こうか、もたもたしていたら、
開演ぎりぎりに到着し、2階席での参加となる。
林さんは、取材、執筆、それにご家庭のこと
(お弁当作りから犬の散歩の世話まで)など
ご多忙な現在の毎日のことを話された。
さすがに小説家らしく、つぼを押さえ、ユーモアを交え、
会場いっぱいの笑いを誘った。小説を面白くする為に、
さまざまな価値観の方と付き合って取材している
苦労談は特に興味を引いた。
一つのエッセーや文章にも多くの裏づけが必要であることを
認識させられた。

私の斜め前の和装の夫人は、ときどき、両手を頬にあて、
笑い声を抑えるようにして、食い入るように聞いていた。
この方もきっと、林さんの著書に疲れた心を癒されたのだろう、
いや、この方は、物書きになりたかったのかもしれない
などと思ったりした。そんな方々と御一緒する時間を持てることは
幸運だと思いながら90分を堪能した。

昔、私は、何をやってもどこに行っても楽しいと思わなかった
時期があった。将来何がしたいんだろう、
自分自身へのいら立ち、焦りを、読書にぶつけた時、
林さんの文章を初めて目にした。今から16年前である。
そこには自分の気持ちに素直に生き、気持ちをストレートに
表現している林さんの生き方があった。
私はすっかり林さんのとりこになった。
手当たりしだい、彼女の小説やエッセーを読んだ。

著書の中にこんなフレーズがある。
<「私は人生は二毛作である」と思っています。
40代をただ収穫のときにだけしたらもったいなさすぎる。
ここでもうひと頑張りして種をまいておくと
50代60代でもう一度収穫できる」>
50代後半の林さんはまだまだ種をまいて奮闘されていた。
その日の夜、長風呂に漬かりながら
「人生は、ずっと種をまき続けるんだよ」と
面白おかしく自身の話をしてくださったことを思い出し決意を
新たにした。16年前ぼろぼろになるまで読んだ本を
湯船のふたにおきながら。

by yumikomiyamiya | 2012-02-17 00:00

宮下由美子


by 宮下由美子 (みやしたゆみこ)
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