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輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)
輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_20525872.gif春、夏完全制覇めざし札幌味噌ラーメン出撃
 今回は夏休みスペシャルということで初の「全日本麺の甲子園」を開催することになった。主催は全麺全喰連(全国麺類全部喰うぞ連合協議会)である。
 なんといっても日本は世界最大の麺王国。これだけいろんな麺を日本中の人が日常的に食べている国はほかにない。
 そこで、今どこの麺が日本一なのか、本当に実力と人気のある麺はどこの何なのか、ということをこの全国大会においてはっきりさせよう、ということになったわけである。
 スタジアムには特別解説者として二人の専門家においでいただいています。
 まず麺類研究家の鳴門さん
「よろしく」
 おとなりは麺類大食い探検家の鮫腹さん
「はじめまして」
 主催者側(以下主催)=全麺全喰連では全国を六ブロックに分けてこれまでにそれぞれの地域で激烈な地区予選を行なってきました。

鳴門=どのようなブロック分けになっているの?
主催=北海道、北日本、関東甲信越、東海中京、西日本、九州沖縄です。
鳴門=まあ妥当なところかね。
主催=ではさっそく北海道ブロックからいきます。ここは圧倒的なラーメン保守王国で、実質的には釧路、旭川、函館、札幌のご当地ラーメン四強の激突でした。このエリアではラーメン以外はあまり麺として認められてませんでソバやウドン屋などは隠れるように細々と営業しています。沖縄には札幌ラーメンの店はあるのに北海道には「沖縄すば」(小麦粉でつくる独得のもの。“すば”という)の店はまずありません。あったとしたら付近の人に石とかコンブのかたまりなんかを投げられるかもしれない、という非常に閉鎖的かつ排他的な側面があります。

輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_2113646.gifこの北海道ラーメンの持ち味はそれぞれ違っていて旭川はトンコツベースのアジ干しタラ干し濃厚白濁スープ系。函館は【鶏/とり】ガラ塩味磯風味系。新鋭釧路はタンメンあつあつフハフハ系。そして札幌の【味噌/み/そ】味バターコーンギタギタ系といった具合。そしてどの地域にも行列のできる店があります。

鳴門=北海道は蕎麦粉の生産量が多いのに日本ソバはどうして駄目なんだろう。
主催=みんな内地に送られてしまいます。
鳴門=寒いところだからモリソバなんかよりアブラの浮いたあつーいスープのラーメンが強いのはわかるな。
主催=このそれぞれ個性の違う四強をどう見ますか?
鮫腹=新顔ですが釧路のタンメンがけっこういけてますよ。自家製チャーシューがジューシーでなかなかいいんです。親父は無愛想だけど。
鳴門=それ、どこか特定の店をいってるんじゃないの。特定の一軒を推奨してもいいわけ?
主催=まあ麺の甲子園ですから特定の店でもエリアとしてでもいいということで……。
鳴門=あっそう。でも北海道代表といったらやっぱり街ぐるみで底力のある札幌の味噌ラーメンが全国の知名度という点でも本命なんじゃないか?
主催=そうなんですね。今年の春の選抜甲子園大会では味噌ラーメンが優勝しましたから。
鳴門=そんなのあったの?
主催=ええ、あったような気がするんですが。
鳴門=知らなかったなあ。でもやっぱり「札幌味噌ラーメン」は古豪の名門なんだね。じゃあ夏の大会もそれでいくしかないんじゃない。
主催=ええ。北海道ブロックは推薦制度をとってまして試合をせずにもう味噌ラーメンを代表として送りだすことに決まりました。夏の甲子園でも勝ってこいよ、と塩ラーメンも釧路のタンメンも気持ちよく送りだしていました。
鳴門=早くいいなさいよ。じゃあここはこれでいいと。

輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_2117258.gif主催=はい。続いて北日本ブロックですがこれは激戦なんです。四年たったら酒田のワンタンメン
鮫腹=ここはどんな状況ですか?
主催=エリアが広いし、候補になった出場校じゃなかった出場麺がいっぱいあるので二ブロック代表選出ということになりまして、東北を太平洋側と日本海側にわけて予選トーナメントを行いました。これがその結果です。
鳴門=Aブロックは「盛岡冷麺」と「冷し中華」の“冷し麺”同士の一騎討ちだったんだね。「冷し中華」は仙台の出身だったの?
主催=いくつかの説がありましてね。東京神田の「揚子江菜館」が発祥というのもありますが、全麺全喰連は昭和十二年に仙台の「龍亭」が最初に作ったという記録を重視して仙台に出場権を与えています。
輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_2185226.gif鮫腹=Aブロックはほかが弱いですね。「うーめん」はいかにも攻撃力が弱々しいし「わんこそば」はもう老齢で麺の力よりも観光客向けのパフォーマンスだけで生きながらえている。ぼくとしては売り出し中の「津軽焼ぎ干しラーメン」に期待してたんだけどなあ。
鳴門=煮干しや焼ぎ干し系のラーメンは日本海側にも多いね。
鮫腹=盛岡の「ジャージャー麺」に一回戦で勝ったのは当然ですね。「ジャージャー麺」は新興勢力で、地元のファンは多いけど生卵をかけて最後にお湯をかけてすするのが見てくれ汚いんですよね。食べてるほうは味噌味と卵がおいしいんだけど。
輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_21193977.gif鳴門=全国区になっている「冷し中華」が地域限定勢力の「盛岡冷麺」に負けたというのはちょっと意外だな。
鮫腹=「冷し中華」がその土地によって、厳密にいえばその店ごとでつくりも味も違うというところに問題があったんじゃないですかね。それと夏しか出てこないというのも面白くない。もう二十五年くらい前にジャズピアニストの山下洋輔さんらが中心になって「なんで夏しか食えないのだ」と怒って「全冷中=全日本冷し中華愛好会」という組織をたちあげたことがある。それでも相変わらず夏しか登場しない、という意味のない【頑/かたくな】さというか怠慢というか無気力というか、まあそういうところが敗因じゃないかと思うんですね。
鳴門=なるほど。実力はあるのにね。
主催=強豪の呼び声高かった「喜多方ラーメン」が準決勝で「盛岡冷麺」に敗れました。
鮫腹=「喜多方ラーメン」はこの土地にとどまっていればよかったんだけど、ひと頃のラーメンブームで調子にのって全国に遠征しすぎた。ラーメン激戦区の東京などは日本中のうまいじゃなかった強いラーメンが集まってきてますからなまじっかなことでは太刀打ちできない、というのが本当のところです。福島は「喜多方」を出すなら「白河ラーメン」で行ったほうがよかったという意見も聞きます。

主催=Bブロックはどうですか。
輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_2371057.gif鳴門=ここはAブロックよりツワモノ【揃/ぞろ】いだな。山形の「冷しラーメン」が「いなにわうどん」に負けたのは非常に残念だけど。
鮫腹=よく「冷しラーメン」は「冷し中華」と混同されるけど全然違うのね。「冷しラーメン」は熱い普通のラーメンをそのまま冷やしたようなもの。「冷しワンタンメン」もいけますよ。まあまだ試合経験が少ないから仕方ないかも知れないですね。でも四年たったら堂々たる東北代表になれるかも知れない。特に夏に強いから全国レベルでも活躍できると思うんですよ。
主催=「酒田ワンタンメン」が東北の優勝候補と言われた古豪「いなにわうどん」を破りましたね。これはどうですか?
鳴門=酒田は「ワンタン」をそれぞれの店が手打ちしている。秘密の極薄づくりの手法があってMという店では一キロの生地から六百五十メートルも延ばしている。その薄さは新聞紙の文字が透けてみえるほどだからね。だからここのワンタンの【雲呑感/くものみかん】は本物。ワンタンとしては日本一と言っていいだろうね。四年たったらこれも東北ブロック優勝候補ナンバー1ですよ。
主催=東北からのこのふたつの代表校じゃなかった(すぐまちがえちゃうのね)代表麺は納得できると。

鳴門、鮫腹=そうですね(うなずく)。豪快味噌煮込みうどん対新興台湾ラーメンやはり激戦が展開された関東甲信越は各地区の予選を勝ちぬいた八つの麺がひとつの代表権を競った。このブロックはその試合模様を伝える連盟機関紙の観戦レポートをそのまま掲載しよう。

くじ引きで決まった組み合わせで試合展開がかなり左右される関東甲信越ブロックは個性豊かな出場麺が出そろった。
輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_23263232.gif 一回戦の横浜代表「サンマーメン」対新潟代表「へぎそば」はどっちが勝ってもおかしくない実力者同士の対決だったが、それまで日本ソバの優勝がないので日本【蕎麦/そ/ば】協会や全国地蕎麦愛好家倶楽部などの組織が大挙応援動員をかけたことも奏功して「へぎそば」が僅差で勝利した。
 そのいきおいを得て山梨の「ほうとう」と対戦した「東京そば」も快勝した。同じく東京代表の「つけめん」はこのエリアで優勝候補の呼び声高かった「横浜の【家系/いえけい】ラーメン」とぶつかったが、同じ中華系とはいえ家系の【寸胴/ずん/どう】鍋から見え隠れするゲンコツ出汁や丼からはみだす大判【海苔/の/り】三枚、厚いチャーシュー、ほうれん草などの豪華打線に圧倒され、いいところをみせられないまま敗退した。
 あっさり味の「東京ラーメン」は一回戦で新潟の「イタリアン」という茶髪赤髪選手の多いところと対戦した。フォークで食べるミートソースのかかった焼きそば、というトリッキーなヒットアンドアウェー戦法にやや苦戦したがなんとか勝ち抜いて二回戦で横浜の家系と激突。
 もう一方のブロックは「へぎそば」が軽いフットワークで決勝進出。激闘の末横浜を破って勝ちあがってきた「東京ラーメン」とぶつかった。
 正統派の新潟「へぎそば」と、やはり正統派あっさり味の東京ラーメンの対決は予想どおり双方一歩もひかない好ゲームを展開した。
 しかし「甲子園に日本蕎麦を!」の旗指し物を振り回し、お揃いの作務衣姿の大応援団の声援むなしく横浜を破って自信をつけている「東京ラーメン」に「へぎそば」は玉砕した

東海中京地区はいずれも個性豊かな代表七麺によるトーナメント。話題になったのはそのうちの過半数をしめる五つの出場麺がすべて名古屋在籍であることだった。そのため全麺全喰連に他地域から「いかがなものか」という疑問の声も多数あがったが、このブロックトーナメントの主催者の大半が名古屋人であり「うみゃあもんがどえりゃあそろってせわしくていかんわ」のひとことで意味もなく一蹴された。
 その名古屋の新興勢力「あんかけスパゲティ」は一回戦で信州から越境出場の伊那のクセモノ「ローメン」と対戦したが、単なる汁かけ焼きそばの【範疇/はん/ちゆう】をでないローメンは、あんかけにソーセージやトンカツやエビフライなど脈絡なくいろんなものをまぜてくる「名古屋スパ」の見さかいのないでらうま攻撃に苦しんだ。さらに試合後半には小倉スパ、甘口メロンスパ、しるこスパなど反則すれすれのめくらまし作戦を開始し「ローメン」は再起不能近くにまで追い込まれ【悶絶/もん/ぜつ】負けした。
 同じ名古屋同士の対決ということで注目された「カレーうどん」と「台湾ラーメン」は予想どおりの激闘となった。
「台湾ラーメン」は唐辛子をいっぱいいれたタンタンメン系。台湾ラーメンとはいえ台湾にそういうものはなく純粋な名古屋産。あまり辛いのでその辛さを半分に薄めた「台湾ラーメンのアメリカン」というのもあるというよくわからない準国産多国籍風激辛麺なのである。
「カレー」というある意味では単純な辛さ勝負にうち勝って「台湾ラーメン」は準決勝でやはり名古屋の「きしめん」とぶつかった。しかし名門「きしめん」も強烈な「台湾ラーメン」のヒーハーヒーハー攻撃の前にいいところなく屈辱の敗退。
 シードされた強豪「味噌煮込みうどん」は相変わらず変則攻撃でくる「あんかけスパ」を地元の余裕で無難に勝ち抜き、ついに癖のある「台湾ラーメン」と決勝初対決となった
# by shiina_rensai | 2006-01-10 22:00 | Comments(397)

輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)
主催=このへん、解説者としてはどうごらんになりますか?
鳴門=全出場七麺中五麺が名古屋在籍というのは他地域とくらべるとやはり問題じゃないのかね。これでは名古屋の麺が優勝するにきまっているようなもんでしょう。
鮫腹=でも愛知というのはもともと強いんですよね。高校野球でも優勝が多いですから。
鳴門=しかしそれとこの問題は関係ないだろう。
輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_2385894.gif主催=まあそれはともかく「台湾ラーメン」の台頭ぶりには驚きませんか。
鳴門=札幌の人がよく食べる羊の焼き肉「ジンギスカン」はモンゴル料理などと言われているがモンゴルじゃ肉は焼いて食わないからああいう料理はないんですよね。だから日本人だけが食っている「モンゴル料理」というわけのわからないものになる。まあ理屈をいうとこの麺もそういうことになるけれど、日本の麺料理は文字通り「なんでもあり」だからこういう破天荒なのが出てくるのは確実に麺界の活性化につながっているんだろうね。
主催=注目の決勝はその独特のアクの強さと知名度の追い風をうけて「味噌煮込みうどん」が勝ちました。
輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_23101474.gif鮫腹=味噌煮込みうどんはどんどん高級化していますよね。名古屋コーチンを使っていたりすると一人前三千円近くなる。たかがウドンに三千円というのはどうなんですかねえ。
主催=でもかなり高級なオシンコ食べほうだい。酒の【肴/さかな】になりそうな小鉢もいくつかついてくる。たいていゴハンを一緒に食べますからちょっとしたフルコースに近いボリュームということにもなるんですが。
鳴門=ウドンという炭水化物をおかずに炭水化物のゴハンを食べるというところがやはり名古屋ですかね。
鮫腹=名古屋の底力、という人もいますよ。予想通りの実力派うどんとラーメンの激突
主催=次は再びエリアの広い西日本です。いろんな種類の麺が群雄割拠しているところでどういう勝負展開になるか見当がつかないところがあります。
 出場十六麺はふたつのブロックに分かれてトーナメントで競いあいましたがさすが西日本らしくこのブロックには「ウドン」系が四麺、「ソバ」「ソーメン」系が六麺も出場している。
 さっそくAブロックでは「三輪ソーメン」と「出雲そば」の有力古参同士のタタカイでした。「三輪ソーメン」が僅差で「出雲そば」を破っていますがこれをどう見ますか。
鳴門=これは言ってみれば五十歩百歩というか五十本百本だね。両方とも中身と関係なくヨタヨタに見える。よくまあ出場権を得たもんだというところですかね。
主催=随分厳しいですね。
鳴門=ソーメンもソバも努力をしていないんだもの。ソーメンなんて今どういう店で出しているのかわからないでしょう。もともとぼくはソーメンが好きなんだけど、お店で食べたソーメンで満足したことは今までただの一度もないね。第一に量が少ない。あれは一人前ひとたばしか【茹/ゆ】でていないんじゃないですかね。都会の新進のラーメンやスパゲティなどにくらべると時代錯誤がはげしすぎる。これはソバにもいえることでね。日本橋あたりのちょっと格式ばったソバ屋でザルなんか頼むと箸でひとかきするともうセイロの上に七、八本しか残っていないなんて場合がある。ふざけんなといいたいね。まあソバの場合はお代わりという道があるけれどソーメンはどういうわけかお代わりしにくいしね。
鮫腹=まったく同感ですね。量が決定的に少ないことに加えてソーメンにはたいていサクランボが乗っかっている。缶詰のミカンを載せているところもありますね。まあソーメンが白色ばかりだから彩りをそえる、という意味でサクランボとかミカンをのせているんだろうけれど、かんじんのタレとの味の組み合わせ、つまりバッテリーとフォーメーションがまったく研究されていないんです。だからこのAブロックでは越境出場の「信州そば」も「【揖保/い/ぼ】乃糸」も一回戦で敗退しているけれどこれは当然でしょう。これらは揃って時間が止まっているかんじですね。選手が可哀相です。
鳴門=ソバは監督もいけないね。いろんなこまかくてつまらないことにこだわってそれが格式だとカン違いしている。だから選手がみんな小さなソバ【猪口/ちよ/こ】の中にちぢこまっていて大きなプレーができないんだ。
主催=「京都ラーメン」と「伊勢うどん」の対決はどうですか。
鮫腹=ぼくはある意味でこの対決は非常に面白いと思った。「伊勢うどん」というのははじめて見るとドキッとしますよね。なんか奇妙に白くて太い軟体動物がのたくっているような面妖なものですよね。それに汁がほとんどなくてこれは冗談ではないのか、と最初見たとき思いましたよ。一方の「京都ラーメン」というと薄口であんまりゴテゴテしていなくてはんなりとしたいわゆる「しゃれのめして」いるのかと思うと全然ちがっていてどす黒いスープに無骨なチャーシューが見え隠れしていたりする。つまり「伊勢うどん」とけっこう同じレベルで勝負できるんですよ。まあここでは時の運で「京都ラーメン」が勝ち進んだけれど組み合わせの面白さという点でいったら今大会のハイライトのひとつじゃないかとぼくは思うんですよ。
輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_2311509.gif主催=そのAブロックでは「京都ラーメン」と「和歌山ラーメン」が決勝でぶつかり短時間の乱打戦で和歌山の勝ちとなりました。
鮫腹=興味深い対決でしたね。このブロックは出場麺は多いものの結局このふたつしか力のあるのはいないんですから。
鳴門=まあ紀州の暴れん坊「和歌山ラーメン」は思いきりのよさと懐の深さが近頃【稀/まれ】な逸材だね。本年度の優勝候補の筆頭に挙げている人も多いでしょう。
主催=次はBブロック。ここも本命の「さぬきうどん」が「氷見うどん」「徳島ラーメン」を難なく粉砕してブロック優勝しました。
鮫腹=ここも他が弱すぎましたね。「飛騨そば」や京都の「にしんそば」なんか試合前からおつゆなんかぬるくしちゃってもうやる気が全然ないんだもの。ぼく個人的には「モダン」という広島のお好み焼きにもっと暴れてほしかったけどこういう大きな舞台に出てくると駄目でしたね。やっぱりまだスケールとしては屋台どまり。終わってみればいまや強烈な常勝軍団となっている「さぬきうどん」の強さばかりが目立ったということですかね。
主催=広島のお好み焼きに正規の出場権があるかという問題でちょっと【揉/も】めたそうですね。あれがいいならば「ビーフン」「にゅうめん」「春雨」がどうして駄目なんだと【噛/か】みついてくるところがあった。全麺全喰連は「麺」の定義をはっきり示せと言っている。「ダイエットこんにゃく麺」と「ヘルシーもずく麺」なんていうのを作っているところから「わたしらは駄目ですか?」という問い合わせもあったようです。
鳴門=インドシナ半島のラオス、カンボジア、ミャンマー、タイ、ベトナムなんかはどこもビーフンを毎日食べていますよ。「フォー」とか「フー」とか言ってね。それぞれの国民食麺になっている。これなんかを見るとアジアの国際化にむけて日本はその門戸をもっと大きく広げるべきだ、という意見も多い。
トンコツ勢の揃い踏み



主催=次は九州沖縄ブロックです。ここも各県に強豪が揃っていて県大会レベルで長崎の「皿うどん」、宮崎の「釜揚げうどん」、石垣島の「八重山そば」、宮古島の「宮古すば」などがことごとく敗退しています。残ったのはこの八強。
 くじ引きによる組み合わせは第一回戦からいずれも実力者同士の星のつぶしあいとなりました。どうですかこの戦況を見て?
鳴門=全体をみると名古屋の状態とある程度似てますね。九州のトンコツスープ勢、長浜、久留米、熊本、鹿児島が勢ぞろいしている。地区大会や全国大会などでの優勝経験豊富な鉄壁の大布陣の中に沖縄勢の「沖縄すば」と「ソーミンチャンプルー」が二校じゃなかった二麺も食い込んでいる、というのは大いに評価できるんじゃないかと。
鮫腹=「五島うどん」のこのブロックのベスト8入りもすごいです。島では大会出場を祝って提灯行列をしたという話ですよ。
鳴門=提灯行列! 古いなあ。
鮫腹=まあしかし「五島うどん」は第一回戦でいきなり名門の「長浜ラーメン」ですからね。これは運が悪かった。
鳴門=「五島うどん」ていうのはそんなに力をつけてきているの。
鮫腹=椿あぶらをねりこんであるんです。それで通常のうどんより細いのですぐ茹でられる。そうして茹ですぎてもへたらないんです。それを利用して「地獄炊き」というのを島の人はよく食べています。
鳴門=ずいぶん怖そうな名前だね。
鮫腹=鍋にいれてぐつぐつ煮立てながらアゴだしのタレにタマゴを割りいれてスキヤキのタレのようにして鍋の中のうどんを食べるという食い方なんですがこれがうまい。
鳴門=ちっとも地獄っぽくないね。
鮫腹=むかし旅人にこれを食べさせたところ「【凄/すご】くうまい」と言って何杯もおかわりしたそうです。だけどその旅人は訛りがひどくて「凄くうまい」が「地獄うまい」というふうに聞こえてそういう名になったと聞いてます。
鳴門=おそろしくなまってたんだねえ。
輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_23183647.gif主催=さてその「五島うどん」が一回戦で「長浜ラーメン」に敗れ、沖縄の「ソーミンチャンプルー」も「鹿児島ラーメン」に敗れました。
鮫腹=ぼくは南西諸島にくわしいんで少し言わせてもらいますとソーミンチャンプルーは沖縄の家庭料理の延長でひろまってきたものでまだ内地にはあまり認知度がないんだけどもソーメンを塩ゆでして軽く炒めるという簡単なもので、これがうまい。やみつきになりますよ。今回は初出場できただけでも十分評価できると思いますよ。
輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_23244332.gif鳴門=「熊本ラーメン」に初回敗れた長崎代表の「チャンポン」もつまりはチャンプルー系なんだね。料理方法や味はまったく違うけれど南方の「チャンプルー(かきまわし、まぜる)」文化のひとつでしょうからね。
主催=まあ残念ながらそれらの新顔はことごとく九州トンコツラーメン勢にやぶれてしまいました。
鳴門=ま、この四大ラーメンはどこが出てきても同じでしょう。北海道と似ていますな。今回は「鹿児島ラーメン」というもっとも白濁アブラ濃度の濃いところにきまったと。
がっぷり四つ。思いがけないベスト4
 さてこれで「第一回全日本麺の甲子園」の代表出場校じゃなかった(またまちがえちゃった)えーと出場麺ベスト8が並んだわけです。もうすでに対戦のくじ引きがおわりまして試合開始を待つばかりとなりました。これからはナマ中継となりますので解説の先生どうぞよろしくお願いします。

鳴門=鳴門です。麺のよき同伴者、理解者です。よろしく。
鮫腹=鮫腹です。腹で感じ腹で考えます。どうぞよろしく。
輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_23142674.gif主催=Aスタジアムではさっそく本日の第一試合がはじまりました。隣のBスタジアムでは山形代表「酒田ワンタンメン」対東京代表「東京ラーメン」、その隣では「和歌山ラーメン」対「さぬきうどん」、Dスタジアムでは盛岡の「盛岡冷麺」対名古屋の「味噌煮込みうどん」という組み合わせで同時に四試合行われています。
 さてこのAスタジアムは初回から北海道の強豪「札幌味噌ラーメン」対九州の強豪「鹿児島ラーメン」の対戦となりました。
 鳴門さん、なんとなくこれは事実上の優勝決定戦、運命の対決というような雰囲気になりましたねえ。どっちも優勝候補と言われているところです。
鳴門=まあクジ運のいたずらといいましょうかねえ。力量的に互角と見ていいですから勝負も運によるところが多いんじゃないでしょうか。
主催=寒いところと暑いところの出身ですが両方ともスープ、麺ともにアツアツ同士の戦いでしかも互いにスープが濃いですね。アブラいっぱいですね。ある意味では似たタイプといえるんじゃないでしょうか。さて両者東西じゃなかった南北から登場していきなりがっぷり四つとなりました。双方アンコ形。【贅肉/ぜい/にく】がタプタプしています。
鮫腹=あの、これ相撲じゃないんですよね。甲子園でしたよね。
輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_23225324.gif主催=ま、こうなるとどっちでもいいんです。あっそう言っているあいだに札幌がガブリ寄り、一気に勝負をつけてしまいました。さすが春の選抜優勝麺。あっ今日はどこも勝負が早いようです。隣は「東京ラーメン」をどうやら新顔の「酒田ワンタンメン」がうっちゃって逆転勝ちしたようです。その隣は「さぬきうどん」が「和歌山ラーメン」をからみ投げでしりぞけました。鳴門さん。この勝敗はどうみますか。
鳴門=いや現実は厳しいですね。「和歌山ラーメン」は勢力としては弱小ですが猛烈なファンを擁していますし練習熱心ですからこのところの急成長もうなずけます。優勝候補とまで言われてましたからけっこういいところまでいくんじゃないかと思っとったんだけどねえ。いやこの場合は「さぬき」が【完璧/かん/ぺき】。強大すぎるといったほうがいいんでしょうねえ。
主催=その隣のDスタジアムでは盛岡代表の「盛岡冷麺」を名古屋の「味噌煮込みうどん」が一蹴しました。凄いですねえ。さすが名古屋。
鳴門=アクが強いからねえ。アクも味のうちというし。
主催=さてもう次は準決勝です。Aスタジアムは「札幌味噌ラーメン」対「酒田ワンタンメン」ですよ。Bスタジアムは「さぬきうどん」対「味噌煮込みうどん」です。驚きましたねえ。ベスト4に味噌味が二つも入っているんです。そしてラーメン系とうどん系と同数でふたつに割れました。
鮫腹=いやあぼくも驚きました。「酒田ワンタンメン」がここまで躍進してくるとは思ってもみなかったですね。ベスト4の中では一番の番狂わせじゃないですか。
主催=というとあとの三強は大体予測できたと。
鮫腹=どれも【磐石/ばん/じやく】の地盤を持っていますからね。とくに「札幌」や「さぬき」は今や全国区ですから。
主催=なるほど、さて早くも試合が始まりました。「札幌味噌ラーメン」は春の選抜の優勝校じゃなかった優勝麺です。対する「酒田」は初出場。麺の中に見え隠れする超薄のワンタンが初々しいです。それにたいして「札幌」はあくまでも濃い赤黒色の味噌スープが余裕にみちてアブラをぎらつかせています。刻んだ【葱/ねぎ】とトッピングのコーンの間に角バターがいまじわじわと溶けていくところです。
 あっ、ここでニュースが入りました。西日本の出場麺にドーピングの疑いがあることが発覚しました。しかしすでにこの麺は予選Bブロックで敗退していますから目下の試合展開にはさしさわりはないようです。
鮫腹=ドーピングって何ですか?
主催=化学調味料の使いすぎですね。
鮫腹=なるほど。
主催=と言っているあいだにAスタジアム準決勝の決着がついてしまいました。「札幌味噌ラーメン」が余裕にみちてどっしり構えているあいだに「酒田ワンタンメン」左から回り込んで急襲トライに成功しました。身をゆさぶりスープをあちこち大量にこぼしながら悔しがる「札幌味噌ラーメン」。
鮫腹=あの、これ甲子園なんでしたよね。
主催=だから緊迫してくるともうなんでもいいの! あっ隣のBスタジアムではなんとなんと今「味噌煮込みうどん」が「さぬきうどん」に敗れた模様です。うどん対決に早い決着がつきました。怒った「味噌煮込みうどん」、あの濃厚な八丁味噌をあたりにまき散らしています。Aスタジアムでは札幌が味噌スープをまきちらしていますのであたりは物凄い味噌の臭いで充満しています。
 さて決勝は「酒田ワンタンメン」対「さぬきうどん」ということになりました。うどんもしくはワンタンメンが全日本最強麺の覇者となるわけです。
 スタジアムのアナウンスが双方のスターティングメンバーを発表しています。まず「さぬきうどん」のほうです。
「一番センター、ゲソ天君。二番セカンド、カトキチ君。三番レフト、きつねうどん君。四番サード、かま玉君。五番ファースト、ぶっかけ君。六番ショート、ハイカラ君。七番ピッチャー、湯だめ君。八番ライト、アジフライ君。九番キャッチャー、カレーうどん君」
鮫腹=よかった。やっぱり甲子園だったですね。
鳴門=それにしても「さぬきうどん」は選手層があついね。
 続いて「酒田ワンタンメン」チームのメンバー紹介です。
「一番、レフト、ワンタンメン君。二番ショート、ワンタンメン君。三番セカンド、ワンタンメン君。四番ライト、ワンタンメン君………」
鮫腹=みんなワンタンメンだ。
鳴門=それしかいないからね。
主催=さあ間もなく「第一回全日本麺の甲子園」の優勝決定戦です。興奮しますねえ。
鮫腹=興奮もしてますが腹も減ってきましたねえ。
主催=さてスタジアムのほうですが展開が早いようで決勝戦のほうもたちまちはじまりました。東北山形対四国香川。どっちも監督と選手一丸になってこの苦しい闘魂麺ロードをひた走ってきました。それでなくとも例年に比べると記録的な暑さが続いたこの夏、両軍とも真紅の優勝旗をめざして毎日ずぶどろの汗を流してきました。
 しかしどうでしょう、鳴門さん。実戦で考えますと汗の量ではこれは「酒田ワンタンメン」のほうが断然多かったでしょうねえ。
鳴門=「さぬきうどん」のほうはものによっては「冷し」系も選べますからね。
鮫腹=そうですよ。「ぶっかけ」なんかはぼくは「冷や」のほうが好きですねえ。
鳴門=しかしもうここまでくると流した汗の量なんかじゃないでしょう。あとはここでどう全力をつくすかだけですよ。
主催=あっ先攻の「さぬき」の一番「ゲソ天君」がセンター前のヒットです。早い早い、やっぱりゲソ天君は足がありますからね。
鮫腹=ちょっと足が多すぎるんじゃないですかね。よくもつれてころばないもんだ。
主催=二番が倒れましたが三番はフォアボールで出塁。ゲソ天君は早くも三塁に進んでいます。

輝け!第1回全日本麺の甲子園大会。(『全日本食えば食える図鑑』に収録)_f0039305_23205787.gif——というような試合展開のうちに残りスペースも少なくなり、結局歴史と地盤のある「さぬきうどん」が第一回の全日本麺選手権を制したのであった。
# by shiina_rensai | 2006-01-10 21:00 | Comments(206)

<椎名誠プロフィール>
1944年東京生まれ。東京写真大学中退。流通業界誌「ストアーズレポート」編集長を経て、現在は作家、「本の雑誌」編集長、映画監督など幅広い分野で活躍。著書は『さらば国分寺書店のオババ』『哀愁の町に霧が降るのだ』『新橋烏森口青春篇』『アド・バード』『武装島田倉庫』『岳物語』『犬の系譜』『黄金時代』『ぱいかじ南海作戦』など多数。紀行エッセイに『波のむこうのかくれ島』『風のかなたのひみつ島』などがある。近作の『全日本食えばわかる図鑑』には第一回≪全日本麺の甲子園大会≫の模様を収録。ブンダンでも随一の麺好き作家として知られ、世界中どこでも「一日一麺」を実践する、敬虔な地麺教信者でヌードリストである。

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