好漢芋うどん
エー、麺の甲子園地方ブロック大会もだいぶ進んでまいりまして今回はいよいよ西九州ブロック大会です。それでは主催の全麺全喰連(全国麺類全部喰うぞ連絡協議会)の代表、粉麦蒸太郎氏からひとことご挨拶申し上げます。
粉麦代表挨拶
エー、代表の挨拶が終わりました。それでは西九州ブロック大会出場選手が揃っていますのであとは実況で。ゲスト解説に麺類全面研究家の鳴門さん、お隣に麺類大食い探検家の鮫腹さんです。司会はわたくし(以下=主催)です。どうぞよろしく。
鳴門 よろしく。
鮫腹 よろしく。
主催 九州は強豪揃いでして、ここはなんといっても豚骨スープ勢が圧倒的で、昨年は九州・沖縄ブロックで「鹿児島ラーメン」が優勝。福岡の「長浜ラーメン」が準優勝です。今回の西九州ブロック大会に駒を進めてきたのは次の七校じゃなかったエーと七麺です。すでにくじ引きで組み合わせができています。どうですかこの顔ぶれは?
鳴門 まあ順当なところでしょうな。
鮫腹 一回戦で「長崎チャンポン」と当たる「トルコライス」というのは? ライスで出場できるんですか?
主催 あっこれは長崎の新勢力でピラフとスパゲティが同じ分量ぐらいあってその上にトンカツがのっていましてトンカツがライスとパスタをつなぐ東西文化の架け橋を意味するのでトルコライスというわけですが、実は組み合わせができてからトルコライスは出場を辞退してきました。 鳴門 もったいないね。理由は?
主催 不祥事がありまして。
鮫腹 どんな不祥事?
主催 手紙がきまして。
鳴門 酒、タバコだな。
主催 匿名ですが……。
鮫腹 そういう時わたしはそこと対戦する相手チームに注目するんです。匿名の場合はとくにね。
鳴門 対戦相手は「長崎チャンポン」。地元の最有力だからな。そうかここはモロに同じ地元同士があたるんだ。 主催 ま、そういうわけで一回戦は「長崎チャンポン」の不戦勝。我々は同じAブロックの島原代表「六兵衛」対「熊本ラーメン」に注目したいと思います。
鳴門 「六兵衛」の進出はいかにも地方ブロック大会っぽくていいね。
鮫腹 八兵衛じゃないのね。
鳴門 ふたつ足りない。
主催 (無視して)完全なローカル麺でこれはさつま芋を粉にして水を加えてダンゴにしてろくべえ突きというトタン板に穴をあけたようなものに突いて押し出してつくります。ま、芋うどん。むかし島原一帯を襲った天保の大飢饉のときに名主だった六兵衛が考えだしたものと言われています。
鳴門 みんなタケが短いんだね。
主催 なにしろ芋なんで切れやすいんですよ。でもチビながらみんな【真面目/ま/じ/め】に地道に一所懸命やっています。
鮫腹 好漢ますます自重せよですな。それにしても大会出場規定の七センチに何本かがやっとクリアという状態ですね。平均すると五センチってとこですか。
鳴門 甲子園でもえらく背の低い選手ばかりのチームってあるからな。一番大きい選手でピッチャー山口君一六一センチなんて。
主催 対する熊本ラーメンは「黒亭」。ここは午前十時半開店ですが十五分もするとあらかた席がうまってしまうという人気店で、玉子入りラーメン八百二十円。ちょっと高いかんじなんですが玉子はふたつ。みごとに白身がとりのぞかれているんです。トンコツ醤油味に玉子の黄身が濃厚にからんだりしてもうたまらないですわ。
鮫腹 主催者がそんなこと言っていいんですか?
主催 思い出すと言わずにいられない。
鳴門 のっけから問題発言だなあ。
皿うどんの疑惑
鮫腹 鹿児島とんこつラーメンに押されて熊本ラーメンは目立たないですよね。
鳴門 熊本ラーメンというより「黒亭」が突出しているという感じだね。そういう意味では和歌山の「井出商店」と似たような位置にあるだろう。
鮫腹 辛口の鳴門さんとしては物凄い評価ですね。
鳴門 初出場の六兵衛は好感もてるけど対戦相手が悪かったね。六対二で「黒亭」の勝ち。
主催 もう決まっちゃったんですか。でもいいです。私って濃厚味が大好きな人じゃないですか。だから私的には文句ないです。
鳴門 君が濃厚味が好きかどうかなんて知らないよ。それから自分のことを「〇〇な人」って言うのやめてくれないか。それに「私的には」っていう言い方も嫌いだね。
鮫腹 まあまあ。
主催 Bブロック一回戦、第一試合は長崎の「ド・ロ様そうめん」対同じく長崎の「皿うどん」です。
鳴門 勝負にならないんじゃないの。何? その「ド・ロ様そうめん」っていうの。
主催 明治十二年、外海町出津の町に赴任したパリ外国宣教会のマルコ・マリ・ド・ロ神父は村人たちの暮らしがあまりにも貧しいのに驚きました。そこで布教活動のかたわら村人にマカロニやそうめんの作り方をおしえましたとさ。
鳴門 君、なにかパンフレットのようなものをそのまま読んでいない?
主催 わかりますか。
鳴門 あたり前でしょう。何だよその「おしえましたとさ」って。
鮫腹 まあまあ。
鳴門 もう一方の「皿うどん」は、これはすぐ長崎チャンポンと較べられてチャンポンの付随的な位置や立場におかれてしまっているようなところがあるけれど、本当は長崎の人は皿うどんのほうが好きな人が多いようなんだ。しかもこれは完全に出前で食べるものという位置にあって圧倒的にふるさとの味であり、チャンポンが観光的にも感覚的にも「ハレ」のイメージがあるのに対して皿うどんは「ケ」のイメージがあります。しかし実際には家にお客さんが来たとか親戚が集まった、というようなときによく出されるものであり、酒の肴にもよく、しばらくおくとパリパリ麺があんかけになじんできてまたたいへん美味しくたべられます。好みによってソースなどもかけるとさらにちがった風味で楽しめます。
主催 鳴門さんのほうこそ何かをそのまま読んでいませんか。
鳴門 るさい。
鮫腹 まあまあ。「皿うどん」で前から疑問に思っていたのは一般的に長崎の皿うどんは油で揚げてかたまっているカリカリの細麺ですよね。あれをうどんというのに私は相当抵抗がある。
主催 あっ、ちょっとすいません。各地のブロック予選の結果が入ってきました。まずは東北太平洋側ブロック予選の結果です。
鳴門 おお! 優勝は福島代表の「高遠そば」だ。日本そばがブロック優勝したのは初めてじゃないかな。あの太い葱を箸がわりにしてそばを喰う、というやつだったなあ。
主催 ええ。もう高遠は大騒ぎだったらしいですよ。今まで地味でしたからね。祝賀提灯サンバ行列が出たりして。葱も踊りだしてたそうです……。
鮫腹 昨年の麺の甲子園ベスト8に入っていた北の強豪「盛岡冷麺」が準決勝敗退ですよ。驚いたなあ。なにがおきたんだろう。あっ「盛岡冷麺」に勝ったのは宮城県の「うーめん」です。意外な伏兵でしたね。「冷」対「温」の対決だったんですね。強豪冷麺を破ってイキオイをつけた「うーめん」がそのまま決勝まで行ってしまった。
鳴門 うーめんってそんなにうまかったかなあ。
鮫腹 審議団の今泉三太夫さんが「うーめえんです」としきりに言っていたのが効いたんですかね。
主催 そろそろこっちのブロックの試合のほうもお願いします。今の「皿うどん」対「ド・ロ様そうめん」はどうなりますか。
鳴門 これは十対三で「皿うどん」の圧勝ですよ。
もやしの惜敗
主催 次は熊本の「太平燕」対長崎上五島の「五島椿うどん」です。「太平燕」というのはハルサメです。鶏ガラスープのだしにフーヒータン(揚げ玉子)、キャベツもしくは白菜、シイタケ、ネギ、モヤシ、キクラゲなど豊富な具がのっています。熊本のローカル麺ですが人気があります。
鮫腹 贅沢な食感なんですよ。でももともとは戦時中の貧しいときにフカヒレの代用としてハルサメを使ったものだと言われています。
主催 五島の椿うどんはいまイキオイがありますよ。上五島に製麺所が集中しているんですが工場は増えていていま三十以上あります。うどんと言っていますがうどんよりだいぶ細く、ソーメンよりは太い。椿油をねりこんであるのでずっと炊いてものびない、という特徴があります。
鮫腹 ぼくはこれが好きでもう十年ぐらい前から中本製麺所の三十袋入り税込み七千八百七十五円のをいつも注文しています。
鳴門 ずいぶん具体的に言うね。あんたなにか貰っていない? 食べ方はどうなの。
鮫腹 地獄炊きというのを地元の人はよくやってますね。鍋で茹でてアゴ(飛び魚)だしや、タレに生玉子、ワケギや生姜、トウガラシなどをいれてすき焼きを食べるようにして煮ながら食べたりしてます。
鳴門 なんで地獄炊きなんて恐ろしい名前なの?
鮫腹 むかし旅人にこれを出したら「すごくうまい」と驚嘆して言ったそうなんですがその人は訛りがひどくて「じごくうまい」「地獄うまい」と聞こえた、という説を前に来たとき聞いたんですが、今回の取材では食べると地獄の釜にいるように汗を沢山かくからだ、という説を言ってましたね。
鳴門 すごくうまいを「じごくうまい」。そうとう訛りのひどい人だったんだなあ。
主催 この対決はどうですか。
鮫腹 うーん。難しいところですねえ。
鳴門 大勢でからみついて来るハルサメを玉子でからめて五島うどんの逆転勝ちだな。
主催 あっ、また各地のブロック大会の結果が入ってきました。今度は東北の日本海側ブロックです。
鮫腹 おお! やっぱり優勝は「酒田のワンタンメン」でしたか。前回の全国大会で準優勝した実力麺ですものね。決勝の相手は「稲庭うどん」か。もうこの山形麺対秋田麺は伝統の一戦になっていますね。
鳴門 「もやし」が一回戦敗退ですか。まあしょうがないだろうなあ。このブロックは思いがけないニューフェイスがいて注目していたんだが残念。
主催 「もやし」は麺の甲子園地区大会に出られただけでもうれしいってさわやかに嬉し泣きしてみんなグランドの土を掘ってたそうですけど固いって困っていたそうです。
鳴門 もやしだものなあ。
鮫腹 「わかめ」も一回戦で敗退ですね。いいところまでいくんだけどねばりがない。
鳴門 あれはねばりは無理だねえ。
主催 続いて二回戦、準決勝です。「長崎チャンポン」対「熊本ラーメン・黒亭」。
鮫腹 チャンポンはいつごろから長崎の名物になったんですかね。
鳴門 店でいうと「四海楼」が有名だね。中国福建省から長崎に来た陳平順さんという人が明治三十二年に作って売り出して評判になったというのが定説だね。
主催 福建省の人は倹約家でコヨリ一本でも捨てずに取っておく、なんてよく言われてますが、家庭で残った野菜や魚介類を集めて作ったのがチャンポンと言われてますね。だから当時貧しかった人の味方になってたちまち流行っていったという。
鳴門 長崎の街を歩くとチャンポン屋だらけだよな。あれだけあって店によって味にいろいろ差があるものなんだろうか。
主催 最初の店「四海楼」が大きなビルになっていていつも満員です。
ニーチェの逆襲
鮫腹 行きましたよ。ちゃんぽんミュージアムがあるんですよね。あそこに行くと麺喰いにはいろいろためになることが書いてあります。チャンポンの語源が「吃飯」(ごはんはたべましたか)からきているということを知りました。それから斎藤茂吉から瀬戸内寂聴さんまでいろいろ有名な人の応援メッセージがあってまさにメジャー級。寂聴さんの色紙には「ちゃんぽんの由来を肴に秋彼岸」とありました。
鳴門 だからこの麺が試合場にいくともうその応援団ではち切れそう。こういうパワーと金のありそうなのが「六兵衛」と対等にたたかうということに私は何かウツウツとしたものを感じるんだ。
主催 「六兵衛」は一回戦で敗退しました。
鳴門 そうだっけ。相手は?
主催 これから対戦する「熊本ラーメン・黒亭」です。 鳴門 黒亭たった一軒でちゃんぽんビルの大勢力と戦えるのかな。
主催 黒亭の店内には色紙よりも大きい紙にこんなことが書いてあります。
「鋭くて柔和、粗野で繊細。慣れていて珍らか、汚れて純潔、愚者と賢者との密会。ぼくはこうしたすべてであり、そうありたい。鳩であって同時に蛇であり豚でありたい」 鮫腹 誰が書いたんですか?
主催 ニーチェです。
鮫腹 えっ! ニーチェが熊本に来たんですか。
主催 来てません。店主がニーチェが好きで……。
鳴門 寂聴さん対ニーチェか。
主催 そういうことでも……。
鳴門 ニーチェの勝ちだな。文字の量が違う。
主催 えええええ!
鳴門 と思ったら投書があって外国人の助っ人は禁止されていると。大会規定に書いてあるそうだ。
鮫腹 どこからの投書だったんですか。
鳴門 匿名に決まっているでしょ。
主催 もうひとつの準決勝は「皿うどん」対「五島椿うどん」です。
鮫腹 うどんうどん対決ね。
鳴門 どちらも譲れない。
鮫腹 しかもどちらも同じ長崎出身。島対長崎最大の繁華街。
鳴門 がっぷり四つだな。
鮫腹 相四つです。突いて出て先に前みつをとったほうが勝ちですね。両者の力量から見てどっちにしても速攻です。
鳴門 取り直しで「皿うどん」の勝ちだな。
主催 えええ? いつ最初の勝負があったんですか。
鳴門 だからよく見ていないと。速攻だから。
主催 それではもう優勝決定戦です。「チャンポン」対「皿うどん」。よく見ていくと「チャンポン」も「皿うどん」も麺にのっている具は同じようなものです。麺も油であげてないのはチャンポンと同じようなものです。汁があるかないかの差ぐらいしかない。兄弟というか夫婦というか。互いに近すぎるので近親憎悪というか。がちんこの勝負というか。骨肉の争いというか。
鮫腹 優劣をつけるのが難しいですね。
鳴門 皿うどんの店には何か書いてなかったの。
鮫腹 思案橋のそばの「天々有」という店で「皿うどん」食べてたらメニューに「ゴールドの免許証を持っている人は五パーセント引き」と書いてありました。ぼくはゴールドだったのでほんとに五パーセント引いてもらいました。
鳴門 皿うどんに決まりだな。
主催 えええええええ。