ドイツでも熱狂的なファンに迎えられた。
会場の周辺には、相当高価であるはずのLOUDNESSの輸入レコードを数枚抱えて、サインをねだるファンがあちこちにいた。
オランダのファン同様、ドイツのメタルファンも筋金入りのメタルファンでちょっと怖い感じがした。
僕が喋ったドイツ人の英語には物凄い訛りがあったけれど、僕達はお互い単語を並べるだけで何とかコミュニケーションが出来た。
前座のバンドの人達とも会話らしきことを試みたけれど、彼等は殆ど英語を話せなかったので、結局訳も分からずただ笑顔を振りまくしかなかった・・・。
現地のスタッフに聞いたところ、ドイツ人には英語を話せない人もそこそこいるらしい。
高等教育を受けた人はほぼ間違いなく英語は理解できるけれど、そうでない人は英語はダメらしい。
ドイツ、ベルギーのライブをやって「ヨーロッパでもっとライブをやるべきだ」と実感した。
(LOUDNESSはヨーロッパでアルバムが正式リリースされていないのに、これほど熱心なファンがいるのだから・・・。)
ドイツとベルギーのライブが無事終わり、LOUDNESSはイギリスのロンドンへ向かった。
イギリスへ飛び立つ日、LOUDNESSの追っかけ少年達が空港まで見送りに来ていた。
「絶対にライブをやりに戻って来てね!僕達は待っているよ!」
彼等の真剣で熱意のある応援に心打たれた。
少なくとも実際交流を持ったドイツ、ベルギー、オランダのファン達は素晴らしいと思った。
そう言えば、ドイツライブの時にはイタリア、フランスからも観に来ているファンがチラホラいて、彼等も熱心に「僕達の国にも絶対にライブに来て欲しい!沢山のファンが待っているよ!」と叫んでいた。
(ロックは言葉や人種の壁を越え世界を一つにする。)
そんなことを考えながら、ロックを仕事にして良かったと思った。
飛行機の窓から霧に包まれたイギリスの街が見えたとき、思わず「おぉ!!!」と叫んでしまった。
タッカンも「おぉ!!ついに来たな~~~~!!!!イングランド!!!ロンドン!!!」と嬉しそうだった。
ひぐっつあんも「ディープパープルはどこや?イアンペースはどこや?」と笑っていた。
マー君も「クリススクワイヤーはどこや?ポールマッカートニーはどこや?」と窓の外を凝視していた。
ついに・・・ついに、僕の憧れのミュージシャン達が産まれた国に来た。
ビートルズ、ピンクフロイド、レッドツェッペリン・・・
中学生の頃、友人から買ったLPレコードのことを思い出した。
ビールズの映画「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」や「LET IT BE」を思い出した。
僕は、あの映画に出てきた町並みを目の前にして「今、ポールマッカートニーと同じ空気を吸っているんや~~~!!!」とわけの分からんことを口走っていた。
LOUDNESSにとって、イギリスは特に思い入れの強い国であったのだ。
僕達は間違いなくブリティッシュロックの洗礼を受けて育ったのだ。
僕達のお師匠さん達が住んでいる国に来たのだ、興奮して当然であった。
滞在中のロンドンは想像通りだった。
結局、快晴の日は数えるほどしかなく、殆ど毎日が曇り空でどんよりしていたのだ。
住宅街は映画「小さな恋のメロディー」に出てくる町並みそのもので、どこからか「トレーシーハイド」や「マークレスター」が現れるのではないかと期待した。

僕達はロンドンの中心部にある4LDKのフラット(アパート)を借りてメンバーとローディー達とで共同生活を始めた。
僕はひぐっつあんと同じ部屋だった。(と思う・・・)
小さなベッドが二つあって、アンティークな家具が置いてあった。
まるでおとぎ話に出てくるようなロマンチックな部屋だった。
キッチンもあって、皆で炊事をした。
そう言えば、誰かがお皿の洗い物をやった後、しっかり水道の蛇口を閉めなかったため、水が溢れてしまいキッチンが水浸しになったなぁ・・・。
それで下の階の人が凄い剣幕で早朝怒鳴り込んできたなぁ・・・。
下はオフィスだったらしく、書類がすべてオジャンになったとか・・・。
そう言えば、カレーを食べたいと言うことで近所のスーパーへトリ肉を買いに行ったなぁ・・・。
どう言う訳か、頭もすべてついたまま羽をむしっただけのトリしかなくて(それが普通なのか?)、調理する時に誰がそのトリの首をはねるかで大揉めに揉めたなぁ・・・。
メンバーは誰もトリの首をはねる勇気が無くて、ローディーのO君が首をはねることになったなぁ・・・・。
まな板の上にトリをのせてO君は「フンギャ~~~!!ウォ~~~オエェ~~~!!」と絶叫しながら目隠しをして包丁を下ろし首をはねたなぁ・・・。
昨日のことのように覚えているなぁ・・・・。
ロンドンについて数日、ライブのリハーサルをやることになった。
フラットからタクシーでリハーサルスタジオまで行った。
イギリス特有のタクシーで楽しかった。

リハーサルスタジオはロンドンから少し離れたちょっと物騒な感じのところにあった。
町の名前とかまったく覚えていないけれど、町はゴミで荒れ果てた印象。
スタジオもボロボロの倉庫を改装した感じだった。
他のスタジオから漏れてくる音の大きさから、スタジオなのに防音は殆どしていないのがすぐに分かった。
リハーサルの休憩中、隣のスタジオを何気に覗いたらゲーリームーアがリハーサルしていた!
これにはタッカンさすがに驚いていた。
数日リハーサルをやっていたけれど、ギョッとするような有名アーティストが沢山リハーサルをやっていて驚いた。
ロンドンの町をブラブラしていると、バスの停留所から僕達に手を振る超派手なロック集団がいた。
タッカンが「誰や?あいつら?知り合いか?」と言っていると、ひぐっつあんが「あれハノイロックスちゃうんか?」と言った。
マー君が「あ!ほんまや、手を振っているの、あれマイケルモンローやん!」と教えてくれた。
マー君はハノイロックのファンだったので嬉しそうだった。
次の日、取材で行ったラジオ局の駐車場でロングヘアーの格好良いお兄ちゃんに声をかけられた。
「やぁ!君はLOUDNESSのシンガーだろ?」
「あっ、は、はい、そうですが・・」
「やぁ!始めましてジョーイ ディマイオと言います」
「はぁ・・・」(誰やろこの人・・・・)
「マノウォでベースやってるんだ、今度LOUDNESSと一緒にツアーやろうよ!」
「あっ、はっ、はい・・・是非その時はよろしくお願いします」(・・・って誰やろこの人・・・・)
「僕もプロモーションで一昨日ニューヨークから来たばかりなんだ!」
「あぁ~そ、そうですか!た、大変ですね・・・」(いったい誰やろこの人・・)
フラットに帰ってメンバーに「ジョーイ ディマイオって知ってる?マノウォって知ってる?」って聞いた。
マー君が鼻血を出しながら「マ!マノウォ!!!!!????嘘やん!!俺大ファンやがな!!!」
ロンドンは憧れのロックミュージシャンで溢れかえっていた!
